作品タイトル不明
領有宣言 ⑨
「・・・街道脇に仕掛けるのは、全部、人間用にしようか」
「「「「「はいっ!」」」」」
何でみんなキラキラした目なの?
騎士様まで一緒になって、そんなに敵が掛かるのが楽しみなんだ?
特に、「人間用は?」と確認してきたオーリアちゃんの鼻息が荒い。
「・・・じゃあ、私たちの仕事を始めようか。―――ご安全に!」
「「「「「ご安全に!」」」」」
私の始業宣言で、計画図面と呼ぶには大雑把な見取り図を手にピーシーズが森に散っていく。
みんなが手にしている紙は、昨日のうちに建設予定現場で縄張り作業をしていた兵士さんたちの責任者に人数分の用意しておいて貰ったものだ。
「縄張り」とは、文字通り、「地面に縄を張って建設物をどう配置するのか決める」作業のことだ。
今の時点では大雑把に範囲を決めただけだから、「図面」というよりも「略図」だけどね。
同じ略図を十数枚も描かせたので、多少、雑なのはご愛敬だよ。
ルナリアと私は、動けないテレサの護衛要員でお留守番。
テレサが不満そうにしている一番の原因が、コレ。
せっかく森に来ているのに何もさせて貰えないなら来る意味が無い。
テレサが不機嫌になるのも分かるよ。
作業範囲をマス目で割って、ピーシーズの面々に振り分けて有るから、手分けして情報を集めて貰う。
先ずは、「現物」と「地形の確認」だよ。
今日は崖下の範囲内の地理情報をまとめて現況を図面化する。
大きな問題になりそうな障害物を最初に把握して見取り図にメモっておくのだ。
崖上の図面化は崖下の伐採が終わって、建設作業が始まってからで構わない。
建設作業担当の責任者から手渡された、この見取り図、採掘場を中心に崖上と崖下の伐採範囲を記してあって、草野球場なら2~3個はスッポリと入ってしまいそうな大きさの円形で広場を作ることになっている。
実際には、「この木から内側の範囲を伐ってくれ」と、伐採予定の木の幹に、ベッタリと何かの塗料が塗られているので、その木から採掘場に近い側の木を片っ端から伐っていくことになる。
切り出された木は建設現場内で製材して拠点建築物と防御壁の建材として用いられる。
突貫工事で予定工期も短いし、石材で本格的な砦が築かれるまで数年の間もてば良い仮設建築物なので、木材の乾燥工程は省略されるそうだ。
とは言え、数十トンの重量が有るであろう巨木は運搬も容易では無いのが間違いないので、木を伐るのは採掘場の真ん前から外側に向けて放射線状に進めていく。
伐採予定の木は樹高30メートルはある巨木ばかり。
事故を避ける為に、相互の声掛けと、指差し確認と、伐採作業中の木を中心とした半径50メートル以内の立ち入りを禁止するように厳命してある。
伐採後の切り株の処理は、例の地震魔法で地面を緩めて魔力で操作すると、切り株がモリモリと地表に浮かび上がってくるらしい。
根っこの撤去は開拓作業で最も手こずる重労働だったはず。
地面を掘り起こした上で牛や馬に曳かせないと抜けないらしい。
あの地震魔法は、現代日本で言えばメガネの洗浄なんかに使われていた超音波洗浄器のような魔法だと認識しているのでイメージできそうだし、私も切り株の撤去作業に挑戦してみるつもりだ。
木の皮や細かな枝葉は根っこと一緒に乾燥するまで積み置いて、薪として利用されるとのことだった。
ゼロエミッション達成のエコな建設現場で環境に優しいね。
焚き火でCO2排出はエコでは無い?
アレってさ、昔から環境利権活動屋さんが 強請(ゆすり) タカリのためにやっている石油枯渇詐欺と同じだと思ってるから気にしないよ。
気にする人は平和で安全な場所だけで騒いでいないで戦争でバンバン燃やして爆破している国の軍隊に抗議しに行くべきだし、モクモクと噴煙を上げている火山の火口へ抗議しに飛び込むべきじゃないかな。
むしろ、焚き火の灰は草木灰って言って、カリウムだったかの肥料になるんだよ。
「過ぎたるは及ばざるが如し」だけどね。
そう言えば、お母様が森で“白焔”を使ったときに「このぐらいで“魔の森”が燃えるなら苦労しない」って言ってたよね。
この木の枝葉って本当に薪に使えるんだろうか?
頭上で揺れている梢をポケーっと見上げていたら、三々五々にピーシーズが戻ってくる。
「・・・取りあえず、みんな1本ずつ順番に伐ってみようか。ルナリア、アドバイスお願いして良い?」
「フィオレは何するの?」
「・・・地形情報を1枚にまとめるの。・・・誰か、やる?」
「フィオレに任せるわ! テレサ、みんな、行くわよ!」
「「「「「おー!」」」」」
そうだと思ってたよ。
脳筋にちまちまとした事務作業なんて苦役だよね。
拳を突き上げたルナリアに続いて、ピーシーズも宙に拳を突き上げる。
テレサもかい!
何気にテレサもノリが良いんだよね。
まあ、「何もするな」ってフラストレーションを溜めさせられていたし、不問にしてあげるか。
本人がやりたがっているのに過保護も問題だなあ。
お婆様たちの肩書きパワーで王都の過保護勢を黙らせて貰うかなあ。
あれって、実態は過保護ですら無くて、テレサの身に万一が起こってしまったときに、責任を取りたくないだけなんじゃないかと疑ってしまう。
さて、どこで書類仕事をするかな、と振り返ったら1人だけピーシーズが残っていた。
「・・・何か有った? ナンナちゃん」
「護衛しなきゃ、です」
ナンナちゃんは、そんなに背が高くないから、話すのに見上げなくても良くて首が楽だ。
「・・・ありがとう。でも、今は良いよ。この辺りの森は、私の庭みたいなものだし」
「そう? 良いのかな」
自信無さそうにキョロキョロするのが小動物っぽいんだよねえ。
ほっこりするよ。
「私はみんなから見える範囲に居るから構わないよ。みんなと一緒に行ってきて」
「はい」
安心させるように言うと、ようやく頷いてくれた。
仲間のところへ走って行く後ろ姿を見送る。
優しい子だねえ。
人の顔色を見ていることが多いから、よく気が付くんだろうね。
みんなを引き連れたルナリアが最初に切り倒す木の選定を始め、アリアナさんとメリーナさんとネイアさんが中心となってピーシーズが伐採手順を復唱している。
わちゃわちゃと間違いを指摘し合って賑やかだけど、慣れれば連携よくやってくれるだろう。
私も伐採の邪魔にならないように作業場所を移動しないとね。
倒木の下敷きになってペシャンコとか洒落にならないし。
マークス様の馬車の側へ避難すれば安全かと崖下に沿って移動したら、馬車の残骸が燃やされて無くなっていた。
崖の岩肌の表面が焦げていて、灰と燃えカスの炭化した木片が残っているので場所は間違っていないはず。
拠点が完成したら慰霊碑でも建ててあげたいなあ。