軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ⑤

「はあ・・・」

「・・・溜息吐いてる場合じゃ無いよ?」

「うわっ!」

座り込んで一人でどんよりと曇った空気を出しているアリアナさんの耳元で言ったら、物理的に20センチメートルぐらい飛び上がって驚いた。

こんなに飛び上がって驚くのを見たのなんて、お腹を空かせたネグレクト小学生の頃に、日向で昼寝している猫に飛び掛かって避けられたとき以来だよ。

「・・・行き詰まってる?」

「はい・・・。イメージは出来ているはずなのですが、どうにも出来る気がしないのです」

「・・・魔石の魔力は?」

「魔力の質感の違いは分かります。ですが、魔石の―――、他人の魔力を利用できるという感覚が、どうにも理解できなくて・・・」

やっぱり、そうか。

アリアナさんの「信念の固さ」は「思い込みの強さ」でもあるのでは無いだろうか?

それは、表現の違いであって、同じものではないだろうか。

「・・・アリアナさん。誤解しちゃダメ。魔力は魔力に過ぎないんだよ。魔力はただの魔力であって、誰の魔力なんて色は付いていないんだよ」

「えっ? そうなのですか?」

嘘だよ。

嘘―――、というか、知らない。

アリアナさんの思い込みの方向性を変えようとしているだけの詭弁だ。

「魔力の質かあ」と考えたときに、日本の政治家が裏金やワイロを貰ったのがバレたときに、「受け取ったおカネは使ってない! 迷惑だから返す!」とか苦しい言い訳をしたのを、評論家が言っていた「おカネに色は付いていない。同じ銀行口座に入ったおカネを使っていないなんて言い訳は通用しない」とか辛辣にツッコんで居たのを思い出しただけ。

地球のパソコンソフトで作った個別ファイルじゃあ有るまいし、制作者―――、魔力保有者の名前が魔力に書いてあるとは思わない。

魔力の「質」―――、「色」は、同じ「色」に自分の「色」を似せてしまえば見分けなんて付かないはずだと考える。

その結果、私の口から出て来たのが、さっきの詭弁。

「・・・魔石の魔力の特徴に自分の魔力の特徴を似せてしまえば、それは自分の魔力だよ」

「これも私の魔力・・・」

アリアナさんは、グッと魔石を握りしめた。目線に高さに掲げた左拳を睨み付ける。

気を取り直したアリアナさんの耳元で「大丈夫、大丈夫!」、「ナイス魔力!」、「魔力がそっくりで魔石が喜んでる!」、「キレてる! キレてるよ!」、と吹き込み続ける。

ググググググ、っとアリアナさんの拳に力が入り、女性らしいきめ細かい肌の腕に筋肉と静脈血管がミチミチと浮き上がる。

そ、そんなに握力を入れなくても! 魔石が粉々に割れちゃうよ!

「キレてる、って、そっちのキレてるじゃないから!」とハラハラしていたら、フワッと風が吹いた。

「あっ」

「・・・えっ?」

ヒュゴオオオオオオオオオオオ!! と、アリアナさんの拳の上に、周囲の景色まで歪めて見えさせる猛烈な暴風が真上に噴き上がった。

あっ、コレ、ヤバいヤツだ。

よほど噴射の反動が大きいのか、左手首をガッシリと右手で掴んで耐えているアリアナさんのこめかみと首筋に青筋が浮いていて、絶対に負けるものか、と強い意志を感じさせる眼光で歯を食いしばっている。

轟音による振動と空気の移動によって砂埃が舞い始める。

「くっ・・・! ぬうううううううう!」

「・・・ちょっ! き、切って! 魔法を切って!」

舞い狂う砂塵の中で、くっころ女騎士なのか世紀末覇王なのか判別が難しい唸り声を上げるぐらいなら、魔法を止めてくれればいいじゃん!

何か、空気が薄くなった気がするんだけど!?

「は、はい! くはっ・・・!」

「・・・ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ」

唐突に風が掻き消え、私の叫びに気付いてくれたアリアナさんが、すぐ後ろで肩で息をしている私に向かって完爾と笑う。

いい汗かいたヨ! みたいな爽やかな笑顔だった。

「な、なかなかの威力ですね」

「・・・そ、そうだねえ・・・」

そうなのか? そうじゃないから!

この脳筋め。

噴き上げる気流に周囲の空気が吸い寄せられて酸欠状態を起こすような風を誰が起こせと言った!?

巻き起こった風と砂埃で髪をくちゃくちゃにされ、全身を砂だらけにされたピーシーズが詰め寄って、アリアナさんとキャンキャンワーワーとやり合っている。

ちょっと髪にクセが入っているルナリアなんて、長い髪が絡まって頭が鳥の巣みたいになってるよ。

騒がしいけど、まあ、良いや。

風ジェットの発動と無詠唱と魔石使用の三つを一気に遣り遂げたアリアナさんで、私たちの全員が開拓作戦の戦力に数えられるようになった。

訓練場の地面に大の字になった私の視界いっぱいに秋の青空が広がっていた。