作品タイトル不明
領有宣言 ④
まだ発動に成功していないのは、最年長組のアリアナさんネイアさんと獣人族組のマーミナさんマーリカさん姉妹とアイシアちゃんの5人。
本格的に煮詰まっている様子なので、アプローチを変えるタイミングかな?
それぞれのプロフィールを思い出してみる。
ネイアさんは体内魔力保有量が少ないんだっけ。
ネイアさん本人は魔法の道を諦めていたらしく、魔石使用法に対する食い付きは一番良かった。
体内魔力量に問題が有るのなら、既に解決策は提示されている。
“魔の森”伐採任務という大義名分を得たからには、今後は獲物の血をグビグビ飲んで貰って魔力保有量をモリモリ増やそうじゃないか。
マーミナさんマーリカさん姉妹は獣人族の「あるある」で、元々、身体強化以外の魔法が苦手らしい。
この場合の「身体強化以外の魔法が苦手」というのは「魔力の体外放出が苦手」という種族的特徴らしいのだが、日常的に使われる「竈に火を付ける」などの生活魔法の行使には全く支障が無いそうなので、魔力を体外へ放出する行為自体には何も問題が無いのだろう。
ならば、魔石の魔力にアクセスする方法さえ覚えてしまえば、身体強化以外の魔法も普通に使えるのでは無いかと思われる。
私と同じヒト族のアイシアちゃんも獣人姉妹と同様で、生活魔法は人並みに使えるし体内魔力保有量にも問題が無いのに 身体強化(フィジカル) 専門らしいので、魔力の体外放出も魔力の扱いも下手では無いと予想している。
これって、一度に体外へ放出できる魔力の量が少ないから「魔法が苦手」ってことかなあ。
まあ、得手不得手は誰にでも有るものだし、物理的障害が無いなら何とかなるはずだ。
問題はアリアナさんだな。
アンリカさんの実妹だけあって、体内魔力保有量はそこそこ多めで身体強化魔法も実戦レベルで使いこなしている。
既存魔法も人並み以上に使えている。
なのに、風ジェットカッター魔法や無詠唱行使は「できる気が全くしない」そうだ。
これはアレだな。
アリアナさんは実にウォーレス血統らしい脳筋具合の人なので、「固い信念」という名で呼ばれる「頑固さ」がイメージの塗り替えを阻害しているのでは無いだろうか。
一旦、みんなを集めて、魔石使用法フェーズに移行する旨を伝える。
飽き始めていた反復練習から解放される成功組が湧き、差を付けられた未成功組は目に見えて落ち込んだ。
まあ、待て。
落ち込むのは、まだ早い。
多少、「魔法が苦手」というぐらいで逃がすつもりは無いよ。
全員の手に魔石を握らせて、魔石が内包している魔力を感じ取らせる。
ヨシヨシ、みんな問題無く「自分のものとは違う」魔力を感じ取れるみたいだね。
この「自分のものとは違う」感触は、「指先で物を触った」感触と「指で自分の体を触った」感触の違いのようなもの。
体温的なものなのか、触覚的なものなのか、「魔力的な感触」が違うんだよ。
今まで「魔力的」に魔石を触ってみようと考えて実行した人は居なかったようで、感触の違いに驚いている。
コレ、お母様もお婆様も言ってたね。
「他人の魔力には干渉出来ない」というのが通説だから、って原因も有ったのかも。
魔石は魔石で、それ以上でも、それ以下でも無い。
「魔石」という物体としか認識していなかったから、魔石が魔法道具に使われる材料と知ってはいても、魔法道具を介さないと使えないという「思い込み」が邪魔をして、それ、そのものを、直接使う発想はしなかったのかもね。
こんなものは単なる見落としで、たまたま誰かが見付けるか、たまたま誰かが着目して調べるかしないと、ブレイクスルーは起こらない。
地球でだって、たまたま誰かが発見して、誰かが活用方法に辿り着いたから産業革命や物流革命は起こったんだよ。
たまたま「気付き」が有ったとしても、有益で無ければ、そこから先へ発達することは無いし、汎用化・効率化が行われることは無い。
無益だったものでも、別の新しい発達から有益に化けるものだって有るだろう。
当たり前に「そこに有る」ものに「気付き」が生じるかどうかは、巡り合わせと運次第だね。
みんなが魔力の「質」の違いに気付けたのなら、自分の魔力の「質」を魔石の魔力の「質」に似せてみる練習だ。
生活魔法を使えるってことは、自分の魔力を「変質」させて現象を起こす行程は出来ているわけだ。
ほら、みんな。実践、実践。
「・・・自分の魔力を魔石の魔力の感触に似せてみて」
「「わわっ!」」
ブオッ! っと大きな音を上げて突風が噴き上がり、マーミナさんとマーリカさん姉妹が尻尾の毛を逆立てている。
よほど驚いたのか、ふさふさの尻尾がピンと伸びているのが可愛い。
魔石を握った掌が上を向いていたのか、突風の直撃を顔面で受けたらしく、風に噴き上げられた髪がボサボサに乱れている。
「ななな、何だ、コレ!?」
「こ、こんなに強い術式を使ったつもりは無いよ!」
「ハイ、ハイ。落ち着いて。風の制御に集中して、魔法の形に整えてみて」
「「は、はいっ!」」
ギュッと魔石を握りしめた手の手首をもう片方の手で握り、獣人姉妹は集中し始めた。
すぐ近くで魔法発動の瞬間を目撃したらしいアイシアちゃんが悔しそうにしている。
「・・・ネイアさん?」
「えっ? は、はい!」
「・・・大丈夫?」
「大丈夫です。その・・・ちょっと嬉しくて」
ぽろぽろと大粒の涙を零していたネイアさんは、洟を啜りながら頷いた。
ネイアさんが魔石を握っている手の先には、しっかりと風ジェットカッター魔法の回転刃が発現している。
長年、体内魔力保有量が少なくて実戦レベルの魔法を発動できずに居たらしいネイアさんは、涙を流しながら笑っていた。
・・・努力が報われなくて辛かったんだねえ。
ルナリアに対して特に優しく接していた気がするのは、「報われなかった仲間」のシンパシーだったのだろうか。
そういえば、森で出会った頃のルナリアも、すごく喜んでたね。
「ふあっ! 出た!」
おっ。今度はアイシアちゃんか。
まだ一直線に風が噴き出しているだけの状態だから、獣人姉妹と同じで、ルナリアが発動に成功した最初の頃の風ジェットだ。
このジェットに縦軸方向の捻りを加えると、喜んだルナリアが森の木に穴を空けまくっていた風ジェットドリルで、横軸方向の強い捻りを加えると円軌道で回転する風ジェットカッター魔法が完成する。
風ジェットドリルも“魔の森”の硬い木にスポスポと穴を空けられるぐらいだから、十分に実戦で使える武器になるのだろうか?
後で、みんなの意見を聞いてみよう。