作品タイトル不明
領有宣言 ③
「・・・じゃあ、もう一度見せるよ? 難しいことは考えずに、しっかり見て、こういう魔法だと目に焼き付けて」
「「「「「はい!」」」」」
「分かりました!」
私とルナリアの2人が前へ出て横に並び、私たちの向かい側には、運動用の乗馬服に身を包んだテレサとレーテさんとピーシーズの計12人が地面に座って前のめりになっている。
「王女殿下を地べたに直接座らせるなんて!」と王宮の人たちが見たら目を吊り上げて怒りそうだけど、質実剛健に手足が生えて歩いているようなウォーレス領の人たちに、くだらない理由で邪魔をする人は居ない。
元・現代日本人の感覚が色濃く残っている私としては、テレサ自身が特別扱いされずに学べる環境を楽しんで居るのに周囲が邪魔をするのは如何なものかと考えてしまう。
訓練の見守り役を兼ねたレーテさんはテレサに命じられて訓練に参加しているけど、もう諦めたのか、それとも馴染んだのか、テレサの地べた座りにも何も言わず一緒に地べた座りで意外と真剣に取り組んでくれている。
ウォーレス領軍が出兵して宿営地が撤収された領主館の訓練場には私たちの姿しか無くて、ガランとしている。
一時の賑わいが無くなって寂しくは有るけれど、好奇の目も邪魔も入らないので、周囲の警戒に意識を割き続ける必要が有る森の中よりも集中できる環境でもある。
「「せ~の!」」
私とルナリアの2人が魔石を握った右手を掲げて風ジェットカッター魔法を発動する。
テレサたちは真剣な顔で目を皿のようにして風の渦を凝視している。
そうだよ~。みんな、そうやって「こういうものだ」とだけ覚えてね~。
魔石の利用法は次の段階として横に置いて、先ずは、テレサとピーシーズの風ジェットカッター魔法習得を目指す。
魔法さえ覚えてしまえば魔石の魔力に自分の魔力を似せる魔力制御のコツを覚えさせるだけだから、実物の風ジェットカッター魔法を目に焼き付けさせて、「そういうものだ」と思えるように、よく観察させるのだ。
脳筋民族のウォーレスの血筋だから、みんな、この方が覚えやすいと思うんだよね。
ルナリアがそうやって覚えた実績が有るのだから 実戦証明(バトルプルーフ) 済みだよ。
さあ! 今までの人生で身に付けた「風魔法はこういうものだ」なんて常識や先入観を捨て去るんだ!
目に焼き付けば、出来る!
キミに不可能なんて無いんだ!
「出来た!」
記憶フェーズから実践フェーズに移って早々に声を上げたのは最年長組のメリーナさんだった。
喜色を弾けさせてぴょんこぴょんこ飛び跳ねる度に、他の追随を許さないたわわに実った脂肪の塊がぼよんぼよんと大きく跳ねる。
包容力を象徴するおっぱいを持つだけに、既存の常識から懸け離れているらしい風ジェットカッター魔法も包容力で受け入れたのだろうか。
おっぱいか? やっぱり、おっぱいなのか?
恐るべし、おっぱい! けしからん!
もう、「メリーナさん = おっぱい」で良いような気がしてきた。
実際のところ、メリーナさんの大雑把な性格が幸いして、新概念に順応したのだろうけどね。
暫くの間、一抜けしたメリーナさん以外のみんなでウンウン唸っていた後、次に成功したのは、剣術も魔法もそれほど得意では無いと言っていたクラリカさんとメイリスさん。
最年長組の2つ下の12歳で、2人はとても仲が良い。
人当たりが良くて、お喋り好きで新しいもの好きの情報通。
好奇心が強いみたいで、風ジェットカッター魔法と魔石使用法を教えて欲しいと最初に言ってきたのも、この2人だった。
私やルナリアの魔法を興味津々でよく見ていたのが幸いしたのかな。
発動できたことで風ジェットカッター魔法への興味が失せたのか、魔石使用法に取り掛かろうとしたので隠し持っていた魔石を没収して、いつでも確実に発動させられるように反復練習を命じておいた。
その次に発動に成功したのはテレサとナンナちゃんで、テレサは私たちと一緒に居ることが多くて私たちの感性に最も触れているだけに、器用さも手伝って習得は早いと予測していたけど、魔法のイメージの塗り替えに一度成功すれば無詠唱行使と併せて苦も無く何度も発動できるようになった。
顔合わせの時の生還組の1人のナンナちゃんは私たち最年少組とアリアナさんたち最年長組の丁度中間の9歳。
私と同じで声が大きい人や体の大きな人が苦手みたいで、他人の顔色を伺う小動物的な挙動が目に付く子なのだけれど、風バリアーから逃げ切れるほど他人をよく見ているだけに観察力に優れているのか、比較的、習得が早かった。
どうやらナンナちゃんは押しが強い人も苦手みたいでルナリアにも少し苦手意識があるらしく、私たち3人の傍に付く場合は私の近くに居る気がする。
発動に成功した子たちが反復練習をしている姿を見せつけられて、未成功の子たちには焦りが見えてくる。
自主性に任せて習得に挑ませるスタイルではそろそろ限界らしく、煮詰まっている姿に可哀想かと思い始めた辺りで、オーリアちゃんとレーテさんが成功した。
オーリアちゃんは、顔合わせの時にアリアナさんと一緒に最後までノビていた3人の内の1人で、剣も魔法もそこそこ自信が有ったらしく、風バリアーにも風ジェットカッター魔法にも強い興味を示した1人だ。
面倒見が良い子のようで、私の傍に付いているときはアレコレと細かな指摘を入れてくれるので助かっている。
そこそこ自信を持っていたと言うだけ有って、既存魔法のイメージが強くてイメージを塗り替えるのに苦労していた様子。
とはいえ、元々が器用なようで、一度できてしまえば反復練習は苦にならないようだ。
レーテさんは“融和派”貴族の庶子らしく、実家では、あまり高度な教育を与えて貰えなかったそうなのだけど、テレサが手放しで認めるほど持ち前の記憶力が良くて、その群を抜いた記憶力が邪魔をしたのか、オーリアちゃんと同じようにイメージの塗り替えに苦労していたようだ。
「詠唱術式」と呼ばれる一般的な魔法では発動に時間が掛かるし、 運痴(うんち) なので自衛手段が乏しく王宮でも何度か危ない目に遭ったそうで、なんだかんだで風ジェットカッター魔法や無詠唱行使を覚えて一番喜んでいたのはレーテさんなのかもしれない。
運痴って運動音痴の略でウ〇チじゃないからね。