軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ② ※ハインズ面

「“魔の森”を拓くだと?」

「ええ。勝つために必要なことよ」

親の仇のように書類を睨み付けていたハインズの手から、ひらりと書類が落ちる。

領主執務室の机の前で腕組みで言い放ったのは、妻のセリーナだ。

「しかも、この戦に間に合わせると?」

「ええ。可能だと判断しました」

ハインズの隣りに設えられた机で、マルキオはぐりぐりとこめかみを揉む。

両手を腰に置いてマルキオを見下ろしているのは、妻のシェリアだ。

ハインズとマルキオはチラリと目線を合わせ、ソファーセットでちまちまと菓子を囓っている小さな三つの人影に目を移す。

「フィオレや。聞かせてくれるか?」

「・・・はい。お爺様」

ソファーから腰を上げたフィオレがハインズの陣取る執務机の前へと歩み出た。

「・・・先ず始めに、結論から申し上げます」

若干5歳の少女の口から語られる見解と予測。

“保守派”の戦いを優位に進め、王国への他国の謀略を骨抜きにする策は、歴戦の猛者たちを唸らせるに値するものだった。

さらには王国随一の社交と頭脳を誇った二人を動かしての直訴である。

「まさか、“魔の森”の魔獣を食肉扱いとは・・・」

マルキオは頭を抱えるが、現に、連日、魔獣を狩ってきて食肉に加工してしまっている。

あのフレイアでさえ、今のフィオレたちぐらいの年齢の頃には知識の吸収と技術の上達に傾倒していて、ここまで実際面に振り切っては居なかった。

マルキオの苦悩を見なかったことにして、ハインズは思考を切り替える。

「領有宣言まで視野に置いているとはな。何とも豪気だが、本当に可能なのか?」

「・・・質問で返して申しわけありませんが、宣言が可能な条件は何でしょうか」

「一般論で言えば、客観的な“安定的な占有”だな」

「・・・安定的・・・。領民が生活する村や町ですか?」

「周辺地域に他国の侵入を許さない軍事拠点が存在しても占有と 見做(みな) されよう」

「・・・軍事拠点と言うことは、領軍が駐留できれば採掘拠点でも構わないのですよね?」

「待て、待て。魔獣や間諜の侵入を防ぐ程度の採掘拠点の建設は計画していたが、領有宣言に値する拠点となると本格的な街道の建設にまで人手を割かねばならんぞ」

無理やり頭を切り替えたらしいマルキオがハインズに追随する。

「・・・街道ですか?」

「人が住むにも、軍が駐留するにも、人の行き来や物資の行き来が必須であろう?」

「・・・獣道とは言えない街道が有れば、客観性を補強できる、と」

「街道整備までは厳しいぞ。やりたくても人手が足りん」

王国にとって、とても魅力的な提案だけに乗っかりたいが、現実的に乗れるかどうかは慎重に掛かる必要がある。

平時なら兎も角、近く有事が予想される時期に余計なリスクを積み上げる余裕など無いのだ。

「分かっているだろうが、今は収穫の季節で、ただでさえ領内はどこも人手不足だ。それは敵も同じで、収穫が終われば攻めてくる可能性が高くなる」

「・・・敵―――、カリーク公王国、ですよね」

渋い表情でハインズが頷く。

戦争には人手が要る。

戦争は農閑期に行われるのが普通だ。

「鉱床の噂が耳に入れば必ず兵を出して来よう。カリークのバカどもの妨害が予想される以上、採掘拠点建設以上の人手など捻出できん」

「・・・新たに人手を用意する必要はありません」

苦渋の選択で保留に留めて置きたいハインズの指摘は、予想外の阻止を受けた。

「何だと?」

「・・・私たちで、やります」

平然と言い放たれた言葉に絶句する。

再起動を果たしたのは孫娘にメロメロになりつつあるマルキオが先だった。

驚きよりも心配が勝った結果だろう。

「どういうことだ?」

「フィオレの風術式を見せて貰ったわ。“魔の森”の大木1本を伐るのに掛けた時間は2分間ほど。ルナリアも使えるのよね?」

「使えるわ!」

フィオレが口を開くよりも先んじてセリーナが援軍に入り、間髪入れずルナリアが手を挙げる。

色々とフレイア並みの規格外だと判明しつつ有るフィオレにしても、危険を覚悟した魔法術師が土術式で倒すか、工作兵が斧を振って2~3人掛かりで半日掛けて切り倒すかしか無い“魔の森”の巨木を―――。

「2分間だと・・・?」

戦傷で片目を潰して一つしか無い目で、瞠目したハインズは孫娘を見る。

目の中に入れても痛くない孫娘もまた、規格外に成長しつつ有るらしい。

そこへ、知性ではハインズに勝ち目が無いシェリアまでもが乗っかって追い打ちを掛けてくる。

「そして、テレサ様と騎士候補のこの子たちも同時発動を成功させました」

ルナリアとフィオレの護衛に付けている女性騎士候補の少女たちが大きく頷いている。

どうやら、この娘たちもエゼリアたちに遜色無い傑物に育ちつつ有るらしい。

「ルナリアとフィオレが使う風術式をこの子たちが身に付ける練習台を兼ねて伐採を進めれば、さらに伐採速度は上がるわね」

「レティアから拠点まで騎馬と馬車の通行経路を一直線に引ければ行き来も楽になるし、可能なら進めない手はありませんわね」

深い溜息を吐き出しながら、半ば白旗に手を掛けたマルキオが首を振る。

「レティアから建設予定地までは直線距離で10キロメテルほどだったか」

「そうね。伐採予定の樹木は1000本に届くか届かないか、だと思いますよ」

「・・・作業は魔法の訓練を兼ねた日中のみに限ります。仮に、10人で交互に伐採を進めたとして、一人あたり10本。全員で1日に100本しか伐れなかったとしても、十日程度で伐採は完了できます。狩猟と兼任したとしても個々の負担は軽微だと判断します」

「最終的に本格的な城壁を築いて砦とするにしても、“魔の森”の木材ならば建て替えまでの耐久力を十分に見込めるでしょうに」

セリーナ、シェリア、フィオレの波状攻撃に、観念したハインズは椅子の背もたれへと背中を預ける。

伐採に従事しない建設作業専従の工作兵だけを100人程度投入するだけで、想定の2倍の日数を要したとしても、1ヶ月も掛からず最低限の開拓が完了できるのか。

「堅固な防衛拠点で街道の整備まで果たしたとなれば、領有を宣言するに十分か・・・」

「これはもう、降参だな」

「頼もしいことだ」

孫たちと妻たちに押し切られ、マルキオが苦笑し、ハインズは両手を挙げた。

セリーナとシェリアは顔を見合わせて微笑み、席を立って出て来たルナリアとテレサがフィオレに抱き付いている。

側近に育つであろう少女たちも手を打ち合わせている。

「・・・ルナリア。テレサも。みんな、お母様たちを助けるために、手伝ってくれる?」

「もちろんよ!」

「当然ですわ!」

「「「「「はい!」」」」」

子供たちのそれぞれが成長し、共に支え合ってくれることを願って、領主代理ハインズは“魔の森”領有計画の発動命令を発した。