軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領有宣言 ① ※セリーナ面

軽い身のこなしで下馬したセリーナに、シェリアは心配の色を隠せていない目を向ける。

「セリーナ。貴女、体は大丈夫なの?」

「痛みも無いし、調子が良いのよね。例の血のせいかしら・・・」

レティアから届いた報告書に目を通して「信じがたい」と考えていたが、我が身で体験したとなれば、何らかの効果・効能が有ることを認めざるを得ない。

「体内魔力の活性化も間違いないようだし、今まで誰も気付かなかったことが不思議なぐらいだわ」

「過去の記録で近い記述と言えば―――、万病に効くとされている“龍種”の血・・・、ぐらいかしら」

記憶を探る親友の横顔をセリーナは見つめる。

子供の頃からセリーナに与えられた「戦場」は社交の場しか無かった。

社交を好む貴族ほど腐敗し王国のためにならない「現実」を、セリーナは嫌と言うほど見せつけられて育った。

幼少より王国最高レベルの教育を施され、ただでさえ聡かったセリーナの目には王国の未来は暗いものに映っていた。

鬱屈した気持ちを心に抱えたまま臨んだ社交の場で出会ったのが、田舎から出て来た乱暴者と蔑まれて大立ち回りを演じたウォーレス家傍系のシェリアである。

セリーナと同じ歳で社交界の有り様に同じ懸念を抱いていたシェリアと、セリーナは直ぐに打ち解けた。

雁字搦めで動けないセリーナに代わって色々と動いてくれたのがシェリアだ。

生まれた家の立場上、面倒な社交と下準備に時間を取られ、やりたいことを制限され続けたセリーナよりも、学術的な知見と見識はシェリアの方が優れている。

あらゆる事態や難題に直面しても適切な知識と手段をセリーナに提供し続けるために、シェリアは学術研究院の資料や王宮の蔵書の全てを読破して、王国最高の頭脳を持つ才女として名を馳せるまでになって見せた。

そんなシェリアだからこそセリーナの親友で在り続け、セリーナを補佐し続けられたのだが、その博識なシェリアにして「知らない」知識をあの娘は“魔の森”から持ち帰ってきた。

それも、抗う手段も持たない状態でルナリアを助け、ルナリアから得た基礎の基礎でしかない知識の断片を独自に実用の域にまで高めて、弱兵とは言え現役の兵士たちを討ち倒した上で、ルナリアと共に生還を果たした。

聞けば、「血を飲みたい」などと、正気を疑う願いを申し出たのも、あの娘だという。

「誰でも知っている逸話、では有るわね。“龍種”の血だって正常な精神状態の者なら眉唾だと判断するのが普通でしょうけれど」

「“人間的な生活”に恵まれていれば、血を飲もうなんて考えないものよ」

「そうね・・・」

フレイアが引き取ったあの娘が壮絶な環境に置かれ、それでも諦めずに過酷な“森”を奇跡的に生き抜いたことはセリーナも聞いているし、実際に接触してみれば、驚くほどに純粋で、聡く、理解力と応用力に長けている。

驚くべき逸材だし、唯一の後嗣を救われたウォーレス家が大切な客人として小さな恩人を遇するのは誇り高き貴族家として当然では有ろう。

しかし、あの娘の素養と可能性をいち早く見抜き、いち早く我が子として受け入れる決断をしたのは、他ならぬ親友の義娘である。

社交に長けた自分でも、出自不明の謎多き娘に頬ずりして友好的に振る舞うことは出来ても、本質を見極めるに至らなかった。

「フレイアは流石ね。私だったら、あの才能を腐らせていたかも知れないわ」

「あら。貴女は、貴女の孫娘を誇るべきじゃない? フィオレを繋ぎ止めたのはルナリアだもの。ルナリアも貴女の血をしっかりと受け継いで居るわ」

「そうね。ありがとう、シェリア」

本質を見極めて見せたのは、確かにルナリアが最初だとセリーナは思い直す。

あの小生意気で可愛い孫娘は、親友の孫娘となったあの娘―――、フィオレと出会って変わり、フィオレはまた、扱いが難しいと甥から相談を受けていた甥孫テレサとの垣根を跳び越えてルナリアとテレサを強く結びつけた。

王権さえ次代へ繋がれば王国が滅びることは無い。

そのためにウォーレス家が存在し、社交だけでは王国が直面する困難を乗り越えられないと判断したセリーナは王国最強の軍事力を保ち続けてきたウォーレス家へと、自らの意志で、万難を叩き潰してまで嫁いで来たのだ。

これまでも、これからも続くであろう国難の時に、ルナリアとテレサの結束は、これほど心強いことは無い。

そして、あのフィオレ。

「王国は大きく変わるかも知れないわね」

「そうね。でも悪い未来だとは思えないわ」

あっけらかんと言い放つ親友に、セリーナの口元も綻ぶ。

「見届けたいわねえ」

「ええ。まだまだ死ねないわ」

「続けてみましょうか」

「付き合うわよ」

くすくすと笑い合う。

孫の葬儀で、とうに諦めていた絶望を現実として突き付けられ、沈んでいた心が少しは浮き上がるのをセリーナは感じた。

こうやって親友と笑い合える状況を作ってくれたのもフィオレだったと思い返す。

フィオレは塩と干し肉が鍵だと言った。

セリーナもフィオレの見解に同意する。

シェリアも同意しているようだ。

王国に深く根付いた病巣を叩き潰すこの好機、逃すつもりは毛頭無いし、負けるつもりも無い。

勝利が揺るぎないとしても、何が起こるか分からないのが戦場だ。

勝利を確実なものとして孫娘たちへと未来を託すために、セリーナたちには、まだやれることが有る。

「さあ、忙しくなるわよ」

「まったくね」

先ずは、夫の尻でも叩こうか、と、セリーナたちは領主館の正面玄関を潜った。