軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義母の出陣 ⑧

お婆様の傍へ戻ろうとしたら、駆け寄ってきたピーシーズの3人に寄って集って 叩(はた) かれる。

叩かれる度に目の前にもパラパラと木屑が落ちてくるから、私は頭の天辺から木屑塗れになっているらしい。

お婆様の前に立つと、髪に絡まっている木屑を指先で摘まんで取り除いてくれる。

「よく出来ましたね。同時発動はしっかり身に付いているようね」

お婆様は、私の質問を覚えてくれていたようだ。もちろん、私も忘れていない。

「・・・同時発動の答え合わせ、良い?」

「どうぞ? 言ってみなさい」

お婆様は楽しそうに目を細める。

私が確信に至ったのを、お婆様も確信したんだろうね。

教え子の成長を楽しむ。

お婆様は根っからの教育者なのだろう。

「・・・それぞれの効果を持つ複数の魔法を個別のものと認識せず、一つの魔法として認識するのがコツ、なんだと思う」

「異なる複数の術式を同時に発動するのが難しくて悩んで居たのでは無かったかしら?」

「・・・そういうものだと認識すれば魔法は発動する。むしろ、複数の効果を個別の魔法だと正確にイメージする方が失敗する」

「うーん・・・。でも、それって同時発動だと言えるのかしら」

「・・・私たちが同時発動だと認識していたものは、正確には、同時発動では無かった。だからこそ認識を改めるのが難しい。・・・どう?」

個別の効果を明確に意識しつつ一体の物としてイメージする。

例えば、給湯器だ。

私は機器の中に水道の水が流れていて同時にガスが燃焼する火が燃えていることを認識した上で、「給湯器はお湯が出るもの」とイメージを確立している。

風ジェットカッター魔法だって、ダンボール箱の空気砲に効果を追加して行っただけで最初から「一つのもの」としてイメージしていた。

恐らく、イメージを固めれば私は「お湯を直接出す」ことができる。

私が魔法を理解していなかっただけで、お婆様は複数の効果を内包した風ジェットカッター魔法の様子を聞いた時点で、私が「同時発動を行使している」と看破していたのだ。

魔法って自由だよね。

お母様たちが魔法に魅了されてハマったのがよく分かる。

じっと私を見つめていたお婆様は、表情を崩してニコリと笑った。

「正解ですよ。本当によく出来ました」

「・・・ヨシ」

これでルナリア以外のみんなに教え込める確信が持てた。

無意識に拳を握ったガッツポーズが出た私を、身を屈めたお婆様が抱きしめてくれる。

「フィオレ! 分かったの!?」

「・・・ふっふっふ」

息せき切って走ってきたら答え合わせの合格を貰ったのが聞こえたらしいルナリアが、お婆様の反対側からドーンと抱き付いてきた。

親指をグッと立てた握り拳をルナリアたちに示す。

みんなに覚えて貰うからね。

逃がさんぞぉぉぉ―――っ!

「・・・ルナリア、“ 火(フィア) ”を出してみて。“二つの火”が出るものだと想像して」

「二つ? ・・・・・んむむむむむ。―――、“火”!」

目を瞑って唸っていたルナリアの指先に、ポッと火が灯った。―――二つ。

「ふぁっ!? 出来たわ!」

「ルナリア! 凄いです!」

人口過密で飛び込んで来られなかったテレサが、ルナリアの「同時発動」成功に目を輝かせた。

ピーシーズも盛り上がっている。

ピーシーズの面々は先ず無詠唱行使が当たり前になるように、彼女たちの頭の中に有る常識をブチ壊す作業から始めないとね。

この子たちの常識と価値観を私の色に染め上げてやろうじゃないか。

なぜなら、「そういうものだ」と思い込めば出来てしまうことを、今まさに、ルナリアが証明してしまったのだから。

おや? アリアナさんが私を見て、ちょっと引いている?

勘が良い小娘は大好物だよ。

両手を握りしめて感動しているテレサの肩をがっしりと捕まえる。

「・・・テレサもやってみて」

「は、はい」

「・・・テレサ、“火”を出してみて。“二つの火”が出るものだと想像して」

「え、ええ。・・・・・ぬむむむむむ。―――、“火”! ・・・あら?」

「・・・違う。テレサ、“火”は二つ出るものなんだよ。“火”は二つしか出ない」

同時発動に失敗したテレサを捕まえたまま耳元で「“火”は二つ~」と囁き続ける。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! くすぐったい! ええええええっと、―――、“火”!」

「・・・ほら出た」

「「「「「おお―――っ!」」」」」

自分の指先にポッと二つ灯った小さな火にテレサが目を瞠り、ピーシーズが歓声を上げる。

なるほどなあ。

余計なことを考えられないように追い込んで新しい常識を刷り込めば効率よくイメージを塗り替えられそうだね。

確か心理学か何かにそんな手法が有ったな。

マインドコントロールだっけ。

あれ? サブリミナルコントロールだっけ?

「フィオレ様・・・。悪い顔になってますよ?」

「・・・気のせいだよ。気のせい」

気にしちゃダメだよ、アリアナさん。

次はピーシーズの番なんだから。

離れた場所から見れば、うら若い女の子たちがキャッキャウフフしているように見えるのだろうけど、実態はマインドコントロールの洗脳現場。

面白そうに苦笑しているお婆様はレフェリーストップで止めに入る様子は無いし、許された!

かくして、ピーシーズも含めて私の周囲に同時発動を身に付けさせることに成功した。

最後まで抵抗を示したアリアナさんが陥落する頃には、私たち狩猟部隊は無事にレティアへの帰還を果たしていたのだった。