作品タイトル不明
義母の出陣 ⑦
「“魔の森”の木は、とても硬いんですよ。1本の木を伐るのにも時間が掛かるってことで、先に伐採して場所を空けた方が建設作業を早く進められるんじゃないかって話になってたんですが」
「・・・木を伐れるかどうかが問題ではなくって、建設を急ごうにも木を伐るのに時間が掛かるから無理、と?」
「そういうことです」
「・・・そんなに硬かったかな。普通に伐れたけど」
「「「「「えっ!?」」」」」
「・・・え?」
そんなに驚くこと?
兵士さんたちだけでなく、採掘技師やセリーナ様まで目を剥いた。
いや、普通がどの程度の時間で伐るものか私は知らないんだけどね。
バンバン伐って場所を空ければ良いだけなら私が伐るけど。
「・・・手伝った方が良い?」
お婆様を見上げると、首を傾げつつ遣り取りを見ていたお婆様が、ぽん、と手を打った。
「ああ! 貴女の魔法術式が有ったわね!」
「シェリア?」
首を傾げたセリーナ様がお婆様を見た? 「説明しろ」って意味だろう。
お婆様が、ポンと私の頭に手を置いた。そのまま撫でられる。
「フィオレちゃんは、ムーアの暗殺部隊と戦ったときに、この森の木を伐っているのよ」
「そういえば、そんな報告も有ったわね」
細かなところは、あんまり信じてなかったのかな?
一般的な常識から懸け離れていて何かの間違いかと読み飛ばしたとか・・・、有りそう。
「・・・試しに伐ってみる?」
「やってみなさいな」
お婆様に聞いたら返事はセリーナ様から降ってきた。
「・・・分かりました」
大型ナイフを提げた左腰ではなく、右腰に提げている小さなポーチから、最近は常に持ち歩くようにしている風属性の魔石を取り出して、近くの木に近付く。
周囲の木に見劣りしない立派な木だ。
この位置なら、テレサたちからもかなり離れているし、倒れても影響は無いかな。
私5人が手を繋がないと1周できない太さの幹にポンと手を突く。
「・・・伐るのは、この木で良いですか?」
「良いわよ」
セリーナ様の確認を取ったところで、木の幹に向き合う。
風ジェットカッター魔法の危険性を自分の身をもって知っているピーシーズの面々は近付いて来ない。
「・・・あ。そうだ」
アリアナさんたち3人を順に見る。教えて欲しいって言われていたし、お手本にしよう。
「・・・どういう魔法なのかを、全体像として、しっかり観察してね」
「「「はい!」」」
「木を見て森を見ず」の逆バージョンで、「全体のイメージ」だけで覚えて貰う。
私の仮説が正しければ、この方が覚えるのは早いはず。
実験だし、念押ししておくか。
「・・・全体像だよ? 全体像。良い?」
「「「はい!」」」
意図を汲み取ってくれたらしい3人は、目を輝かせて大きく頷いた。
・・・今回は自分に被害が来ないからって喜んでるわけじゃないよね?
まあ、良いか。
魔石の魔力に似せて変質させた私の魔力を魔石に送り込んで、風ジェットカッター魔法を発動する。
今回は横薙ぎに伐るから水平に風の回転刃を作り出す。
この間、1秒ぐらいかな。
使い慣れたお陰でこの魔法の発動も早くなったものだ。
シュウウウウと唸りを上げて回る円盤の出現に、初めて見る面々がどよめいている。
足元の地面を一薙ぎして研磨剤の土を回転刃に取り込む。
シュガアアアアアアアア! と激しい擦過音が森に響き渡ると同時に削り取られた切り屑が濛々と舞い上がり始めた。
木を倒したい方向の幹に向けて2回腕を振り抜き「フ」の字に切り落とす。
ドスンと重い音を響かせて幹の一部が地面に落ちる。
切り口の深さは幹の半分ぐらい。
巨木だけ有って幹の半分が欠けても木が倒れる兆候は無いね。
幹の反対側へ回り込んで「フ」の字の上辺と高さを合わせて横に一閃。
半ばまで回転刃が食い込んだ時点でミシミシと軋みを挙げ始めた巨木は、大地との繋がりを完全に断たれる前に大きく傾き始め、バキバキと破断音を響かせる幹を断ち切ると、ザザザザアアアアアアン! と地響きを立てて巨木が倒れきった。
合計3振り。
回転刃の一振りが木の幹を通過するのに30秒ぐらい掛かっているから、1本の木を伐るのに掛かった時間は2分間ぐらいだろうか。
大きな音に驚いたのだろう、護衛を引き連れたテレサとルナリアが戻って来る姿が見える。
宙に巻き上げられた落ち葉と土埃を背に振り返ると、あんぐりと呆気に取られて固まっているセリーナ様と目が合った。
「凄いわね。貴女」
「・・・ルナリアも出来ますよ?」
「そうなのね? ・・・そう。ルナリアも」
腰痛だったセリーナ様は甲冑切断実験の報告は聞いていないのかな?
「・・・テレサやピーシーズにも、近いうちに使えるようになって貰います」
「そ、そうなのね」
「・・・行く行くは、ウォーレス領の全員に―――」
「分かった! 分かりましたから!」
頭痛を堪えるように眉間を押さえて首を振ってるけど、私、何かおかしなこと言ったっけ?