軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義母の出陣 ⑤

私が一人でウンウンと頷いている間にも、チェックが進むワナの周りで、みんなが難しい顔を突き合わせている。

フィオレ大先生がしゃしゃり出なくても一番弟子のルナリア先生と如才ないテレサ先生が居るのに何か有ったのかな?

私たち子供では鐙に足が届かないせいで昇降用の縄梯子的な追加オプションが付けられた特別製の鞍から、よっこらせ、と伝い降りて、人集りへと近付く。

「・・・どうかした?」

「あら、フィオレちゃん。考え事は終わったのかしら?」

「・・・あっ、ハイ」

思考に没頭して生返事しかしないものだから、そっとしておいてくれたみたいで、獲物の回収は既に6ヶ所目だったらしい。

セリーナ様たちの血液試飲も、もう終わったそうだ。

憂い顔のお婆様とセリーナ様が見下ろしているのは、前脚を高く括られている仔ジカだ。

トドメ用の槍を手にした兵士さんたち数人が取り囲んで、トドメを刺しきってしまわない程度で入れ替わり立ち替わり仔ジカに攻撃を加えている最中だった。

「今日は、これで5頭目なのよ」

「・・・多い、ですよね?」

たぶん、最多記録を更新するなあ。

仕掛けたワナは、まだ9ヶ所も残っているのに。

「多いわね。本格的に拙いかも知れないわ」

「“融和派”に戦力を取られているときに、嫌なタイミングね」

「・・・うーん?」

魔獣が増えたことによる害獣被害の心配だよね?

お二人は深刻なお顔をされているけど、本当に、そうだろうか?

お母様たちが出征中で戦力が少ないタイミングと言えば、確かにその通りなんだけれど、これって、むしろチャンスなんじゃ無いだろうか。

「・・・はいっ!」

「「・・・・・・」」

発言の許可を求めた私がシュッと手を挙げると、呆気に取られたお婆様たちの目が私に集まる。

訂正。お婆様たちだけじゃなく、みんなの視線が私に集まっていた。

「・・・お婆様たち、聞いて貰って良いですか?」

「あらあら。どうしたのかしら?」

「ずっと考え込んでいた件かしらね?」

面白そうに目を細めるセリーナ様と、私の謎行動に理解を深めつつ有るお婆様。

「・・・お爺様たちが敵の攻撃を予想しているように見えたから、敵が何をしてくるかを考えていました」

「話してご覧なさいな」

「・・・良いですか?」

セリーナ様の許可は出たけど、一応、先生役のお婆様にも確認を取る。

お母様から代理の先生役を任されているのはお婆様だから、この狩猟部隊の責任者はお婆様のはずだし。

私の思惑を正しく読み取ってくれたらしいお婆様は大きく頷いて下さった。

「構いません。話してみなさい」

「・・・先ず最初に、結論として、岩塩と干し肉をウォーレス領で大量生産して、戦場のお母様たちに送るべきだと提案します」

「ふむ。続けて頂戴」

一瞬、驚いたように目を瞠ったセリーナ様が食い付いたものと判断して、塩と干し肉に至った私の考えを伝える。

“融和派”が国外勢力の支援を受けるであろうこと、物資調達の考察、敵の思惑をひっくり返す鍵をウォーレス領が握っていること、そして―――。

「岩塩は―――、調査の結果次第ですが、干し肉を量産するための“お肉”なら有ります」

「バイコーンが増えているのは、むしろ天佑だと?」

「・・・はい。無限に湧くと聞いていますし、成獣に育つのも早い。畜産にまで繋げられれば最少の労力で干し肉の大量生産を輸出産業にまで育てられる可能性が有りませんか?」

私が“お肉”を見た視線の先を追って、セリーナ様がトドメを刺された仔ジカを見る。

溜息雑じりに首を振ったお婆様がセリーナ様に苦笑を向ける。

「そうまで言われてしまうと、アレが干し肉にしか見えなくなってくるから不思議ね」

「ハインズには私から推してあげるから、進めなさいな」

にんまりと目を細めるセリーナ様のお許しが出たのを聞いたお婆様は、身を翻してパンパンと手を打ち合わせた。

「さあ、さっさと片付けてしまいなさい! 調査を優先しますよ!」

「「はーい!」」

元気に返事を返したルナリアが兵士たちに仔ジカの回収を指示して馬車へ運ばせ、同じく元気に返事を返したテレサがワナの練習中の騎士様たちに指示して再設置させる。

良い傾向だね。

いちいち私が教えて回るのは私にのし掛かる負担が多すぎるのも有るけど、お婆様の教育方針に沿えば技術を覚えた人が次の誰かに教えることで自分自身の理解が深まることに繋がるわけで、その考え方に私も賛同しているので、私はどうしても上手く行かなかったり助けを求められたときにだけ手助けすれば良いんじゃないかな。

手早く移動体勢を整えた隊列は道々に獲物の回収をしつつ採掘場へと到達した。

仕事場に着いた鉱山技師たちが、私が石斧で掘削した痕に取り付いて、あれやこれやと意見を交わし始めた。

お婆様たちは領軍の兵士さんたちを連れて防衛拠点建設の算段について意見を聞き始めている。

お婆様たちが他の仕事に取り掛かっている今、私に与えられているお仕事は狩猟に関する監督だけど、テレサとルナリアがワナ猟を楽しんで居るから2人に任せておいて良いだろう。

そりゃあ、あれだけ仕掛ければ仕掛けるほど獲れるのだから、楽しくないわけが無いよね。

そうなると、私もまた、他のことが出来るわけで。