軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義母の出陣 ④

昨日仕掛けたワナを順に見て回りつつ採掘場を目指す。

推定埋蔵量が不明でまだ海の物か山の物か分からない採掘場の存在は、「隠そうとしたところで物流の動向を調べれば隠し通せる物でも無い」とのことで、王家に隠すつもりが無いハロルド様とお母様からテレサに伝えられていたので、王都へ帰還した騎士団の誰かから“融和派”に情報が漏れるのは時間の問題だとウォーレス家は割り切っている。

どのみちバレるものを隠す努力に労力を割くよりも、採掘場自体を押さえに来るであろう脅威に備えて防衛体制を整える方が早いという、実にウォーレス家らしい脳筋判定が下った結果である。

防衛要員が多い領軍が今日の護衛部隊の主体になっているのも、私のワナ技術の有用性が認められて領民すべてへの教導を命じられている関係だろう。

留守を預かるハインズ様とお爺様は、攻勢はハロルド様とお母様に任せて防衛に徹する考え。

つまり、外敵の襲来を予測しているのかも。

出兵の準備は広範に亘り、領主執務室に缶詰にされていたハロルド様の有り様を思い返せば、領主代行のハインズ様と補佐のお爺様が領主執務室に缶詰にされた現状も頷ける。

馬の背に揺られながら、王国と―――、ウォーレス家と敵対する勢力の立場に立って、何をされたらウォーレス家が困るかを考えてみる。

騎馬1万騎と輜重1000人を支えるのは大量の飼い葉と野戦食だ。

犯罪に手を染めた“融和派”領地を一気呵成に攻め落とす作戦だけど、戦略物資を奪いたくて王国の領土を狙っている国外勢力が「販路」の“融和派”が粛清されるのを黙って見ているだろうか?

直接、兵を出して手を貸せば内政干渉で対外戦争に繋がる。

売国行為に勤しんでいた“融和派”でも、他国の兵を引き入れて自国を滅ぼす愚行ともなれば正気に戻って折角崩れかけた王国内の結束が元に戻ってしまうかも知れない。

他国が兵を出さずに“融和派”に手を貸すのなら、何をするだろうか?

私が最初に頭に浮かべたのは、魔石と引き換えにしている戦略物資の塩と魔法道具の物流を止めることだ。

止める理由なんて、「安全が保証されない戦闘地域に商人を行かせられない」とか、何とでも屁理屈を付けられるだろう。

けれど、王国が輸入している魔法道具は竈に代わる魔石コンロだとか生鮮食料冷蔵用で氷室に据える魔石製氷器だとか、家電製品のような物で軍事利用できる類いの物では無い。

だとすれば、敵対勢力が取る手段は塩の流通阻止では無いだろうか。

仮想敵国の塩は止められても西方諸国の塩は止められる?

直接の対立構造が無い西方諸国は流通を止めるよりも売れ続ける方が潤うはずだ。

西方の塩が止まらないなら、迂回輸入による高値で買わされていた分の塩が短期的に入らなくなるだけで、その間の穴埋めさえ出来れば大きな影響は受けずに済むのでは無いだろうか。

王国の小麦生産は一部を小国家群への輸出回せるぐらい自給率が高いけど、戦時需要で国内価格が高騰すれば輸入に転じる可能性は無いだろうか?

干し野菜や芋も同じだ。

輜重が運ぶ兵站の中身は、武器・防具・軍馬・飼い葉・塩・小麦・干し野菜・芋・干し肉だ。

水は地球と兵站事情が違って魔法術師が頑張るから輜重部隊が運ぶことは無い。

王国は武器・防具を国内生産で賄えていて、その生産地は軍備への関心が高い“保守派”の領地だから追加調達には苦労しない上に、他国が“融和派”に提供すれば即バレする。

軍馬はウォーレス領が主要生産地の一つで、まさに売るほど育てている。

飼い葉は、戦略的な効率を考えて輜重が運んでは居るけれど、草ボウボウの手付かずの原野なんて王国には腐るほど有るので、宿営地の選定に制約が掛かるのを甘受すれば現地調達でも対応できるだろう。

小麦・干し野菜・芋類はどの領地でも生産していて、特に小麦は保存可能期間が長くて備蓄しやすい上に、余剰生産分が輸出に回るぐらいだから調達が容易い。

これから冬に向かう季節だから、どの領地も、どの家庭も、干し野菜や干し肉などの蓄えは有る時期だろうけど、備蓄を吐き出してしまえば自分たちが越冬に用いる食料が無くなってしまう。

寒い冬に種を撒いても野菜は育たないから、新たな生産は不可能に近い。

備蓄の調達も生産も出来ないので有れば、“融和派”が粘れば粘るほど攻勢側の“保守派”は兵站が苦しくなるのは目に見えている。

もともと国外勢力と結託している“融和派”は、国外からの援助を受けるのが難しくないのだから。

ならば、国外勢力が打つ「王国を困らせる」手は、塩と食料で間違いないはずだ。

干し肉も、どの領地でも生産しているけど、戦時でも平時でも基本的に需要が高くて多く有れば有るほど良いのが、お肉。

家畜を育てる畜産なんてものは増産しようとして直ぐに増産できる物では無いけれど、今のウォーレス領は畜産とは別に増産する手段を持っている。

干し野菜や芋の増産は難しくても、干し肉の増産ならウォーレス領で対応できるよね。

女性騎士なら兎も角、ムキムキの筋肉ダルマである男性騎士は、パンとお肉が有れば文句は出ない。

事実、文句が出るのを見たことが無い。

だったら、最悪、野菜類は少量しか調達できなくても良い。

きっと、お母様なら、そう判断する。

干し肉、大好きだしね。

兵站として野菜類を調達しようとするのは“融和派”陣営も同じはずだ。

“保守派”が無理な調達をせず、“融和派”だけが無理な調達をすれば、“融和派”の信用は地に落ちて、国内世論は“保守派”に大きく傾くのでは無いだろうか。

中立を決め込んでいる日和見の連中が“保守派”に転べば、いくらかはお母様たちの助けにならないだろうか。

国外勢力が“保守派”を困らせるために“融和派”以外への塩と食料の流通を止めたとしても、“保守派”が無理な調達をしなくても良い状況を作れれば、“融和派”の信用と軍資金だけが痩せ細っていくはずだ。

鍵は、岩塩と干し肉だな。

たぶん、間違いない。

岩塩の生産も、干し肉の生産も、ウォーレス領に居る私たちに出来ることなのだから、やらない手は無い。

増産分が今回の戦争で兵站として使用されなかったとしても、王国内では塩もお肉も常に需要が有るのだから、国内へ流通させれば無駄にはならないだろう。

“魔の森”の領有権は開拓に成功した者勝ちなのだから、さっさと開拓して王国で領有宣言を出してしまえば良い。

具体的な開拓の方法は・・・、要相談かな。

ゴールがどこかを知らなければ作戦の立てようがない。

ヨシ。お婆様たちに相談して、お爺様たちに掛け合おう。