軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義母の出陣 ③

出兵していく騎士様たちや兵士さんたちが最後の一人まで城門を出て見えなくなるまで見送った私たちは、お婆様たちに促されて、領主館へ戻る馬車に乗り込んだ。

凄いよね。輜重部隊の最後尾が城門から出るのに1時間も掛かったんだよ。

ずっと手を振り続けるのも、結構、疲れるものなんだね。

途中から、手を振る作業が身体強化魔法の練習になってたよ。

私たちが乗るこの2頭曳きの馬車は、お婆様がピーシス領から乗ってきたもので、城門まで個々に馬で来てしまうと城門周辺が馬だらけになってしまうとの理由で馬車を使用することになった。

ピーシーズの乗馬だけで10頭も居るからね。

領主館までの帰路は、領都内とはいえピーシーズが騎馬で馬車の周りを固めて護衛する。

ゲストであるテレサが進行方向向きの席の真ん中で、両脇を私とルナリアがテレサを挟む形で席に着く。

お爺様とお婆様が向かい側の席に着くのを待って馬車が動き出した。

「・・・そう言えば、王妃様って避難したりしないの?」

「・・・・・お母様は、動けないのです」

躊躇うような間が空いた後、テレサは困ったような笑みを浮かべた。

拙い話題に触れちゃったのかな。

お婆様たちも表情を曇らせている。

セリーナ様にとって王妃殿下は姪御さんだそうだし、お婆様と2人でご成婚される前の先生を務めていたらしいから、王妃殿下の体調不良は心配なんだろうね。

それにしても、どういうことだろう?

「・・・動けない?」

「最近は少しご容態も落ち着いていましたけれど、王城を離れられるほどは・・・」

「・・・ご容態、ってことは、ご病気なの?」

「王妃様も暗殺されそうになったのよ」

「・・・えええ・・・」

吐き捨てるように言ったルナリアの言葉に、特大の地雷を踏んだらしい私は自分の迂闊さに心の中で頭を抱えた。

王宮って国内で一番セキュリティが万全で、王族って一番ガチガチに守られてるものじゃ無いの?

まさか、国家中枢の王宮で王妃様が暗殺されそうになったとは思わなかった。

同じように暗殺されそうになったルナリアも、思い出して頭に来たのか本気でプンスカ怒っている様子。

「飲み物に毒を盛られたのです。幸い、違和感に気付いて吐き出されたお陰で一命は取り留めましたけれど、まだ閨から起き上がれませんの」

「・・・そっか」

辛かったね。

今も家族が心配だろうに、帰りたいと言い出さないってことは覚悟があるのだろう。

余計なこと聞いちゃったな、と、気丈に笑みを崩さないテレサを抱きしめる。

テレサをサンドイッチする格好でルナリアがテレサと私をまとめて抱きしめてきた。

「わたしも!」

「ありがとう。お二人とも」

私たちの励ます思いを受け止めてくれたのか、テレサは蕾が綻ぶように微笑んだ。

葬儀会場に戻った私たちは、暫くの休憩を与えられた後で、一足先に火が落ちたマークス様たちの遺灰を集めて墓地へと移動した。

ご遺骨だけの荼毘だと早いけれど、ご遺体に血肉が残っているマーサさんたちは、ご遺灰になるのに明日の朝まで掛かるらしい。

こっちの世界の墓地は、個別の墓標の下に埋葬されるのでは無く、広大な墓地区画の真ん中に地下霊廟のごとく設えられた20メートル四方もの巨大な遺灰槽へ、過去500年間の先達たちと同じように遺灰が撒かれ、個別に生前の名を刻まれた直径15センチメートルほどの石柱の墓標が家系ごとに集まって建てられる。

墓標の総数は明確に把握されていないけど、100万基は有るそうだ。

マークス様の真新しい墓標は既にウォーレス家直系の一角に建てられていて、その一角の奥には風雨に晒されて刻まれた文字が薄れてしまった初代レティア卿の墓標も有った。

ウォーレス家に仕えた無名の戦士たちの墓標はウォーレス家直系の一角を取り巻くように建てられていて、セイデスさんマーサさんたち一家の墓標は、その一角に建てられていた。

連綿と戦い続けてきたウォーレス家が、無名の忠臣たちを大切にしてきたことが墓標の配置からも察せられた。

ピーシス家系の墓標もピーシス領ではなくウォーレス家系の隣の一角に有るのだから、両家の関係がどれほど密接なのかが良く分かる。

私もルナリアも、いつの日かこの墓地に弔われて、ずっと隣りに在り続けるんだなあ、などと思いを馳せつつ、マークス様の墓標にお花を供えていたら、テレサはその間に遠いご先祖様のお一人であるレティア卿の墓標にお花を供えていたようだ。

マーサさんたちのご遺灰を弔うのは明朝になるけれど、これで一区切り付いたのだろう。

領主館に戻った私たちは、早めの昼食を摂ってから“魔の森”へと向かった。ルナリアとテレサを中心として馬上に揺られる一団には、今日はお婆様と猟師さんたちだけでなくセリーナ様と鉱脈調査の鉱山技師が随行している。

セリーナ様の腰痛は大丈夫なのかと心配したら、コルセットで腰回りを締め上げれば馬に乗れないほどでは無いらしい。

一緒に来たがったハインズ様とお爺様はセリーナ様たちに命じられてハロルド様に代わっての書類仕事を押し付けられているので、領主館でお留守番である。

今回の護衛部隊はピーシーズに加えてウォーレス領の領軍から100騎と王都騎士団の残留組30騎が随伴している。

テレサを担ぐ“保守派”だけが抽出された残留組ならウォーレス領軍と同じように機密漏洩を心配する必要が無い、ということで、今日からはピーシーズと同時にテレサにも風ジェットカッター魔法と魔石活用法を伝授して行くつもりだ。

この件は事前に考えを伝えてお母様の許可も取ったが、お婆様から推奨されている。

人に教えることで、いかに噛み砕いて理解させるかを考えることで私自身の理解も深まる、というのが推奨の理由らしい。

魔法術式が使える騎士様たちも教えて欲しがるのは目に見えていたので、そっちもハロルド様とお母様の許可を取ってある。

私としては、回り回って私たちの敵に情報や技術が伝わらないのであれば、味方が強くなる分には構わないので、是非とも、ワナ技術ともども修得して貰おうと考えている。

後で悔しがるだろうバルトロイ様の担当はお母様だから、バレた時点で上手く言い負かして丸め込んで黙らせるのだろうね。