軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

義母の出陣 ①

こっちの世界では、呪いに囚われなかった死者の魂は自然へと還り、いつの日か近しい者たちの元へと再び生まれて帰っていると信じられているらしい。

輪廻転生の死生観だね。神教会が唱える、神の救済で天国へ行ったまま帰ってこない天国思想はここ最近―――、と言っても千年単位に台頭してきたもので、神教会の影響力が浸透していない地域では昔ながらの輪廻転生を信じて死者を荼毘に付すのだそうだ。

動く死体や幽霊が現実に居る世界だからこそ、物理的に死体を焼却することで死者が魔物化するのを予防し、衛生管理を両立しているのではないだろうか。

じゃあ、幽霊は? というと、光系の魔法なんかで呪いを浄化すれば輪廻転生の輪の中へ帰ってくれるのだそうだ。

ちなみに、スープを取った家畜の骨なんかは魔物化することが無いらしい。

豚骨や鶏ガラのように骨髄や軟骨が溶け出して栄養素が抜けると魔物化しないなら、魔物化するには骨に含まれる栄養素が必要なんだろうか?

カルシウムとか、ゼラチン質とか。

葬儀の直後には出陣が控えているので、出陣を見送る予定の私たちの服装は葬儀なのに喪服では無い。左腕に喪を示す黒い布を巻いているだけで控え目な色目のドレス姿だ。

広場の真ん中に組み上げられた薪の上にご遺骨とご遺体が載せられ、遺族だけでなく、領民や領軍がひしめき合って取り囲む。

訓練場の宿営地はすでに撤収されて更地に戻り、甲冑に身を包んだ騎兵1万騎と、ウォーレス家傍系の領地からも駆けつけた領民6万人が葬儀の場に集結している。

ウォーレス領を含む王国南部地域においては特権的な神官やシャーマンが祝詞を上げるわけではなく、今回の葬儀では、遺族を代表して一族の長であるハインズ様が死者たちの前に立つ。

厳かな面持ちのハインズ様の目に涙は無く、こめかみにくっきりと血管が浮いている。

「お前たちのことを我らは決して忘れぬ。いつか再び生を受ける日にも我らはお前たちの家族で在り続けよう。痛かったであろう。辛かったであろう。苦しかったであろう。お前たちが受けた屈辱を、我らは必ずや晴らして見せよう。今はただ、安らかに眠るが良い」

ハインズ様の別れの言葉が終わったのを見計らって、騎士様たちの手で薪に火が点けられた。

煙を立ち上らせて燻っていた薪は、やがてパチパチと弾ける音を立てながら周囲を朱く染め始める。

無言を貫くお母様たちの目は炎の明かりを反射してギラギラとした激怒に光り、静かに目を伏せているのはテレサや王都から来た騎士団の方々ぐらいだ。

ざわめきすら無い群衆の間に啜り泣くルナリアの声が浸透し、沈痛な面持ちの領民たちの間から、怒りの炎が燃え上がる。

「“融和派”を許すな!」

「王国の敵を討て!」

「同胞の無念を晴らせ!」

遺族が立ち並ぶ一角から目を怒らせた甲冑姿のハロルド様が歩み出し、大きく腕を振った。

燃え上がっていた群衆が、波が引くように静かになり、ハロルド様に無数の目が集まる。

熱狂しているように見えて、みんな意外と冷静なのかな?

「これより我らは罪人どもを王都へと移送し、王国に巣食う奸臣どもを駆逐する! 我らウォーレスは王国の盾にして剣! 精強なるウォーレスの英雄たちよ! 出陣の時だ!」

「「「「「ウォーレスは王国の盾にして剣!」」」」」

「「「「「王国、万歳! ウォーレス、万歳!」」」」」

「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

ハロルド様が突き上げた拳に応えて、群衆も一斉に拳を突き上げる。

「統制」というよりも「統率」と表した方が正しいのだろう。

高度に訓練され、制御された激怒の渦は、甲冑の内側へと押し込められて剣の形になる。

枷を外された王国最強の猛獣たちは、速やかに解散し、馬房や訓練場から曳き出されてきた完全武装の軍馬たちが、レティアの町の目抜き通りを埋め尽くし始める。

通りの真ん中に、全長3キロメートルにも及ぶ1万頭もの軍馬の隊列が王都方面の城門に鼻先を向け、葬儀に参列していた6万人の領民たちは馬列を挟んだ路肩を埋めて出征を激励する群衆へと変わる。

テレサに付いて来た王都の騎士団も、テレサの個人的な信頼が置ける30名ほどだけがレティアに残り、他の170名ほどは罪人を乗せた護送馬車に貼り付いているベルーサー様やバルトロイ様と一緒に王都へ帰還することになっている。

レティアの町を出ると街道の道幅が狭くなるので、隊列の長さは、場所によっては10倍ぐらいまで伸びるらしい。

更には、軍馬の飼い葉を含む兵站を積んだ輜重部隊の幌馬車の隊列が100台以上も続くので、隊列の長さは下手をすると50キロメートルぐらいまで伸びるのでは無いだろうか。

騎馬隊だけでも横隊1列20騎、500列も並べば壮観ではあるけど、全体像が掴めないので何に圧倒されているのか自分でも判別が難しい。

行軍の先頭はハロルド様とお母様とエゼリアさんたち側近だから、見送る私たちも隊列の先頭である北の城門まで来ている。

ハインズ様とセリーナ様は荼毘に付されているご遺骨たちの傍に付いているために、早々に見送りの挨拶を済ませて城門へは来ていない。

私たちは私たちで、見送りを終わらせたら荼毘が燃え終わるのを待ってご遺灰をお墓に納める大事な役目が待っている。

しょんぼりして元気が無いルナリア手を握っている私の手にも力が入った。