軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界 ⑯ ※アンサンブルキャスト面

「御当主様。王都より、使者の方々がご到着なさっておられます」

「通せ」

ハロルドの指示に一礼したワールターが踵を返して退室する。

溜息交じりにフレイアがソファーから腰を上げる。

「ようやく来たか」

「こちらから早馬を出して、まだ8日だぞ? 十分に早い到着だろうに」

フレイアの対面側に掛けていたバルトロイも、手にしていたティーカップを置いて腰を上げた。

ハロルドからソファーを勧められたベルーサーは固辞して座らず最初から背もたれの後ろに立ったままだった。

使者の先触れが到着した時点でベルーサーとバルトロイが呼び出され、前領主ハインズの隠居と共に現役を退いているシェリアはベルーサーたちと入れ替わりで席を外している。

「お前たちの仕事は終わったのか?」

「「・・・・・」」

フレイアの問いにバルトロイが目を伏せ、眉間を険しくしているベルーサーが首を振る。

「やれることは、やっただろう。もはや戦は避けられん」

「後はもう、名前の挙がった奴等を片っ端から締め上げるしか無かろうよ」

ハロルドもフレイアも、王都から来た2人が大きな混乱を出来るだけ小さく納めようと、寝る時間を削ってまで取り組んできたことを知っている。

しかし、王国の行く末を憂う2人の思いはコーニッツ・ムーアの両者の心に届かず、“融和派”の壊滅を恐れているのか、一部の王宮貴族以外の名前は最後まで口を割らなかった。

予想通りに、予想通りの結果になっただけだ。

執務室の扉が再びノックされ、ハロルドの返事を待たずにエレーナとノイエラが入室して、観音開きの扉を大きく開放して脇に下がる。

二人とも、女中の服の上から甲冑を着けた有事態勢の女性騎士モードだ。

複数の足音が廊下に響いてきて、執務室へと近付いてくる。

姿を現したのは、甲冑に身を包んだ大柄な騎士3人である。

先頭に立った壮年の騎士は入室して足を止めると、手にした書状を拡げて両手で掲げた。

「王命である!」

ハロルドを筆頭に、壁際で護衛に詰めていた王都騎士団の騎士に至るまで、執務室内に居た全ての者が一斉に片膝を突いて頭を垂れる。

「国王陛下より、ウォーレス家当主ハロルド卿に、コーニッツ子爵、並びに、ムーア男爵の身柄を、速やかに王都へ移送することを命ずる!」

「王命、確かに承った」

「護送」ではなく「移送」。

王宮の”融和派“が事件を矮小化できず、陛下と”保守派“に押し切られた証拠だ。

ハロルドの返事を待って、3人の使者は寸分の乱れも無く同じ動作で固めた右拳をガツンと胸に当てた。

これで堅苦しい使者の任務は達成で有る。

重苦しく張り詰めていた空気が緩み、跪いていた面々が立ち上がる。

「久しいな! ハロルド!」

「ネルド隊長! ご無沙汰しております!」

初老の騎士とハロルドがガッシリと握手を交わす。十数年もの間、同じ釜の飯を食った大先輩との再会に、ハロルドの顔も綻ぶ。

「特務殿も! この度も、大役、ご苦労だった!」

「気にするな。これが私の務めだ」

完爾として掛けられた言葉に、フレイアは肩を竦めて応える。

「いやいや! ”保守派“のお歴々も、さすがは特務殿だと絶賛しておられたぞ!」

「それで、騎士団長閣下からは?」

ハロルドの問いに、ベルーサーとバルトロイの目がネルドへと集まり、笑みを消したネルドは面々の目を見回した。

一拍の間が数分間にも感じられる。

「内戦やむなし、と」

ギチッと、護衛任務で同席していた騎士たちが拳を握る音が聞こえた。

我慢に我慢を重ねてこられた国王陛下が、ついに大鉈を振るうご決断を下された。

外圧に晒されつつも国内の安定を望むが故に大鉈を振るうことが無く、「凡庸」などと侮られてきたが、今上陛下は決して愚鈍なお方などではない。

永らくの間、苦々しい思いを胸に押し込めてきた”保守派“が、戒めの鎖から解き放たれる時が来たのだ。

ただ、彼らは王国と民を守る守人であり、憂国の士である。

決して国を割っての大戦を望んでいたわけでは無い。

“融和派”は、やり過ぎたのだ。

「宰相閣下の動きは?」

「王宮に留まると陛下に申し入れられた、とのことだ」

バルトロイの懸念に、ネルドは首を振る。ハロルドは首を傾げた。

「“融和派”を切り捨てると?」

「そうも行くまい。宰相閣下個人として反旗は掲げぬ、との意思表示であろうよ」

「では、陛下の御身を案ずる必要は無さそうか?」

ネルドは再び首を振る。

「どうだかな。アリストテレジア殿下はウォーレス家に留め置くように、との仰せだ」

「殿下には、私から伝えておこう」

「頼む」

予断を許さない状況を察してくれたらしいフレイアに、ネルドは頭を下げた。

聡い王女殿下の心痛を和らげるには、むさいジジイよりも心強い女傑の方が適任だろう。

この場に王女殿下を同席させないように立ち回ったであろうハロルドの配慮にも感謝する。

王国の象徴として王城を離れるわけに行かない両親の身を案じるであろう王女殿下に、王国全土に激震が走るであろう戦火の始まりを告げる役目は、この老骨には重すぎる。

”融和派“の首魁たる宰相本人にクーデターの意志が無くとも、追い詰められた”融和派“の暴発は有り得る。

宰相は派閥の利益の最大化を図り派閥を取り纏めるのが役目で、派閥傘下の貴族たちは宰相の家臣では無いのだ。

首魁とはいえ危急存亡に追い込まれた個々の貴族がどう動くかまで縛りきれる保証は無いだろう。

ベルーサーとバルトロイが恐れていたものも、これだ。

強すぎるウォーレス家や特務魔法術師を恐れる貴族家は多い。

王国を蝕む病を根治するために強烈な劇毒物を投入することはやむを得ないにしても、より根深い病巣だけをピンポイントに摘出することで傷を拡大させず効率的な治療で済ませるべく情報を欲していたのだ。

だからこそ、ベルーサーは身を削って真相を解明しようと踏ん張ったし、バルトロイも志は同じだ。

むしろ、王家に近しい血を持って生まれたバルトロイの方が国を憂う気持ちは強かったのだろう。

所属組織や立場の違いを越えて、ベルーサーとバルトロイは互いにシンパシーまで感じてしまっている。

さっとアイコンタクトを交わした2人は、いつの日か、遠い昔の苦労話として酒でも酌み交わせることを願いながら、覚悟を決めた。