軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界 ⑮

「貴女がフィオレね?」

「・・・えっ!? は、はいっ!」

テレサの勇姿を賞賛している場合じゃ無かった!

一瞬、目を離した隙に、今度は私が 標的(ロックオン) されている。

とても強い目力で見据えられただけで自然と背筋が伸びる。

手招きされた以上は、私に抵抗する術は無い。

ごめん、ルナリア! これは警戒するだろうし、固くなるのも無理ないわ!

いや、待て。初対面の私までグリグリされることは無いはずだ。

今朝も森へ行ってきた後なので乗馬服を着ているからカーテシーが出来ずにお辞儀する。

どこかの欧州国の女性首相がパンツスーツでカーテシーしていたような記憶があるけれど、乗馬服を着ている時もカーテシーで良いのか教わっていないのでジャパニーズスタイルで勝負してみる。

「・・・お初、お目に掛かります。フィオレと申します」

「ふむ・・・」

頭の天辺から爪先までじっくりと観察されて、色々と見定められていることは分かるけど、何か言って欲しい。

お母様やお婆様に恥をかかせないかとドキドキしながら永遠にも思えるぐらいの間を、頭を下げたままで居ると、セリーナ様がポツリと呟かれた。

「悪くないわね」

「・・・うぎゅっ!?」

「貴女のことは詳しく聞いているわ! 大変だったでしょうけれど、もう大丈夫よ!」

「・・・あああああありがとうございますぅぅぅ!」

触角ヘビと肉弾戦を演じたときと遜色無いほどの力で体を締め付けられて、地面でグリグリと押し転がされるような勢いで首が右へ左へと振られて目が回る。

自分が何と返事をしたのか記憶が怪しいけれど、満足されたようでツヤツヤになっていらっしゃるセリーナ様の元からエゼリアさんに回収して貰った私はルナリアの隣の席へと設置されたようだ。

間違っても失礼に見えないよう密かに大きく息を吐いて居たら、何事も無かったかのようにディーナさんたちが食事を運んできてくれて、何事も無かったかのように談笑しつつの昼食が始まったので、本当にこれが日常風景なのだと理解せざるを得なくなって、私もルナリアに同情していられる立場では無いのだと現実を受け入れることにした。

昼食後は、基礎訓練に勤しむために、ぞろぞろと連れ立って乗馬訓練場へ移動する。

コーニッツ・ムーア制圧戦に従軍した騎馬兵力5000騎は地元へ帰還するどころか明日行われるマークス様たちの葬儀に参列した後はそのまま王都への出征にも参加する予定になっている。

新たに出征に動員される追加兵力5000騎を受け入れるための宿営用テントが更に増設されて、領主館に隣接した人間用の訓練場は、みっちりと仮設工作物が詰まったレティアの町で一番の人口密集地となっている。

更には、訓練場に収まりきらなかった輜重部隊1000人が別の乗馬訓練場を宿営地としているらしい。

人間用の訓練場に体を動かすスペースが無くなった騎士様や兵士さんたちは、私たちと同じように乗馬訓練場へと繰り出していて、訓練場の真ん中辺りで部隊ごとにグループを作って剣を振ったり筋力トレーニングしたりと汗を流している。

訓練場の外周付近はランニングで体力作りをする人たちが走れるように、ぐるりと空きスペースになっていて、フル装備の甲冑を着たままガシャガシャと走る賑やかな一団まで居る。

上官命令で嫌々やっている雰囲気に見える人がどこにも見当たらなくて、みんな生き生きしているように見えるのが脳筋なウォーレス領らしいよね。

私が屈伸運動をしたりアキレス腱を伸ばしたりと準備運動をしていたら、みんなが同じように見よう見真似で準備運動をしていた。

不要な怪我を防止するためだけれど、日本が誇るラジオ体操を教えるかどうかは要検討だね。

パチンとイディアさんが手を打った音が訓練場に響いた。

「はい。では、今日も術式を維持したまま走って下さい」

お母様はハロルド様に泣きつかれて執務の補佐に行ったから、お婆様と、エゼリアさんたちと監督役を交代したイディアさんとトリアさんが、私たちを見守っている。

少しはマシになったものの腰痛が残るセリーナ様は、大事を取って領主執務室でハロルド様の働きぶりを監視しつつ、お留守番するそうだ。

頭の上に風の塊を浮かべたまま、馬場の外周の内側一杯を走る。

ピーシーズのみんなも一緒になって私の後ろを走っているのだけれど、お師様のように複数の魔法を浮かべている子は居ないね。

森でもマルチタスクの話題に反応していたから、彼女たちの殆ども私たちと同じようにマルチタスクの壁で躓いて居るのだと察せられる。

テレサもルナリアも魔法の維持は意識しなくても出来るようになっているみたいで、体を動かすよりも魔法の方が得意っぽいテレサは特に、走りながら浮かべた光の塊の大きさを変えたり明るさを変えたりする余裕まで有るみたい。

ルナリアは体を動かす方が合っている様子で、私たちが疲れてきても、まだまだ余裕綽々の顔をしているんだよね。

きっと、テレサや私に基礎体力が無いせいだとは思うけれど、ルナリアが無意識に身体強化魔法を使っている可能性すら疑うほどに、体力差が有るように感じる。

脳筋一族のサラブレッドだし、ルナリアは無意識に身体強化しててもおかしくないし、得手になりそうな気がするんだよね。

今はまだ、それほど差異が明らかでは無いけれど、ルナリアは 肉体派(フィジカル) 寄りでテレサと私は 魔法派(マジカル) 寄りなんじゃないかな。

エゼリアさんたちだって、ディーナさんは戦闘でほぼ身体強化魔法しか使わないと言うし、エレーナさんはほぼ魔法しか使わないらしいし、今後、私たちも得意分野が分かれていくのだろう。

そうは言っても、ルナリアに置いて行かれるのは嫌だし、私もしっかりと身体強化魔法を身に付けなきゃ。

マルチタスクの習得は私たち全員の共通の課題だから、何とか早く突破口を開きたい。

誰もが真剣に取り組んでいるだけあって、誰もが集中して無言のまま周回を重ねる。

追い立てるお師様が居ないだけで、こんなにも静かなのかと驚くほど、タッ、タッ、タッ、タッ、と一定したテンポの靴音とみんなの息遣いだけが馬場に響いて、風の中に溶けていく。

それにしても、基礎訓練って地味だなあ。

同じ場所を走ってると景色も変わらないし。

周りを見る余裕が出てくると、みんなが口を揃えてキツいって言うの、分かるよ。