軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界 ⑬

「・・・ほほう」

なるほど、なるほど。こういうことか。

適切なタイミングで適切な筋肉に魔力を籠めてイメージで強化するのが身体強化魔法。

先ほどのエゼリアさんのヒントからすると、イメージが大雑把で全ての筋肉を等しく強化してしまうと効率が落ちるんだっけ?

一挙手一投足に、個々の筋肉を適宜意識して個別に強化する?

熟達すれば出来るのかも知れないけれど、目の前の敵に集中しなきゃいけない戦闘中でも続けられるレベルだと、私が真似るには滅茶苦茶ハードルが高すぎるよね。

筋肉に流す魔力を増やしてみて合わせた手のひらをグイグイと押し合わせていると、手首と肘に負担が掛かっていることに気付いた。

これ、自然に収まっている人体のバランスを意図的に崩して、問題が起こらない?

生き物は環境に順応するものだけれど、環境に適合できなければ自滅する。

海の鯨だって、水中の浮力が手伝って巨体を維持できているけれど、迷子になって陸へ打ち上げられれば自分の体重で内臓が潰れて死ぬらしいし、競走馬も筋力が強いから骨格の方が耐えられなくて骨折することが有る、ってどこかで読んだ気がする。

その辺の知識が本当かどうかは、自分の目で確かめたわけじゃ無いから知らんけど。

私って、動物を見たら、先ず、食べられるかどうかを考えるし、捕り方を考えることは有っても動物の健康を考えることは寄生虫の心配以外はしなかったし。

まあ、だとしたら、「部分的な筋肉だけを強化する方法は間違い」ってことにならない?

でも、エゼリアさんが間違いを教えるとは思えないんだよね。

脳筋揃いのウォーレス家の人たちは感覚的なものを優先しそうだし。

骨や腱も強化して耐久力を上げれば、部分的に筋力が上がっても耐えられるかな。

多少の効率の悪さには目を瞑って大雑把に体全体を強化しつつ、必要な時に必要な部分だけを上乗せ(ブースト)するのなら、脳筋な人たちでも出来るのかも。

いや、むしろ、脳筋だからこそ体感的に習得しやすい?

慣れ? 慣れか。

効率が悪いなら体内魔力の総量も要求されるだろうし、マルチタスクも要求されるね。

今も私は特に意識せずに歩きながら一部の筋肉に魔力を流す作業をしているのだから、これも簡単なマルチタスクと言えるのだけれど、「普通に歩く」という日常的動作と違って、戦闘行為を意識せずに行えるレベルまで熟練するのは簡単では無いだろう。

それでも、体を動かしながら必要な部分の筋肉を把握してブーストするなんて、もはや職人芸の世界だよ。

これかな? これっぽいな。

答え合わせに行ってみようか。

「・・・でもこれ、失敗すると、どうなるの?」

「筋肉や関節を痛めます。加減を間違えると筋力に負けて骨折することも有りますよ」

「・・・やっぱり」

「正解が分かりますか?」

「・・・多少の魔力効率の悪さには目を瞑って、体全体のバランスを維持しつつ骨格から耐久力を上げて、必要な時に必要な部分の強化だけを上乗せする、だと思う」

「満点です」

ヨシ、見破ったよ。

グッと拳を握って罠を乗り越えた小さな喜びを私が噛みしめていると、エゼリアさんは苦笑する。

「普通は痛い目を見てから気付くのですが、始める前に気付いてしまうのですね」

「・・・体を痛めてから気付いていちゃ遅くない?」

「その程度なら、ポーションで問題なく治りますし」

「・・・高いのに、勿体ない」

「痛い目に遭わせた方が早く覚えるのですよ。軍事は一定数の損耗が前提ですから、生存率が上がれば戦力の増強と等しくなります。ポーションなんて必要経費です」

「・・・そっか」

軍隊の損耗―――、味方の死。戦えば、味方にも必ず被害は出る。

理解していないわけじゃないよ。

分かっているから私自身だけじゃなく、ルナリアたちも強くしようと考えて居たわけだし。

でも、誰にも死んで欲しくないなあ。

地球で戦争のニュースを報じているのを見たときは、遙か遠くの世界の出来事だと特に興味を持って見ていなかったけれど、最先端兵器を山ほど持っている先進国と時間の流れから置いて行かれたような後進国の戦争でだって、先進国側にも犠牲者は出ていた。

どれだけ技術差や兵力差が有っても、どちらかが犠牲者を出さずに一方的に勝利するなんてことは無かった。

肉弾戦に近い戦争が当たり前の世界なら、尚のこと、無傷で済むわけがない。

私は、そういう「戦争」に直面する道を歩むのだろう。

そういう世界なのだから私が望まなくても、きっと「戦争」の方からやって来る。

お母様たちが護ってくれているうちに、私たちは大切なものを失わないための準備を万端に整えておかなければいけない。

攻めてくる敵を討ち倒して削ることも大事だけれど、物事を見る角度を変えれば、生存率を上げる―――味方の損耗を減らす増強の考え方も有る。

エゼリアさんが言っているのは、そういうことだ。

攻撃力を強化したり人員を増やすだけが増強じゃ無く、防御力を上げて損失を減らすことも増強の一つの方法なんだ。

後で聞いた話だけれど、ピーシス領では、貴族も騎士も兵士も平民も性別も関係無く、魔力を持つ者には身体強化魔法を学ばせるらしい。

ピーシス領には、一方的に守られるだけの領民は一人も居ない。

ただでさえ強いウォーレス血族の中でもピーシス領が突出して強いのは、これが理由。

魔力を持たない領民も武器の扱いは子供の頃から学ぶそうだし、私のワナ技術も乗馬と同じように領民に習得させることが決まっていて、魔力の研究と戦力の増強を兼ねて、獲物の血も全ての領民に飲ませてみる計画まで検討されているそうだ。

私は身近な人たちを強くして生存率を上げようとしていたけれど、お母様たちは領内の住民すべてを生き残らせようと全力で取り組んでいるんだね。

結果的に同じ方向性や結果へ収束されるにしても、アクセスの違いで見えてくるものは違うはず。

目的地へ行くのに、電車を使うかバスを使うかで道中のルートは違うし、ルートが違えば見える景色は違うのが当然だもの。

もっと広い視野で考えなきゃね。

お母様たちの跡を担うなら、私もお母様たちと同じ目線を身に付けなきゃ。

私が守るんだ、なんて、傲慢に考えるのでは無く、みんなが強くなって、みんなで守れば、もっと効率よく、もっと多くを守れるはずだ。

ワナも、魔法も、剣も、その手段の一つに過ぎないことを、忘れちゃダメだよね。