作品タイトル不明
世界 ⑩
そういや、現代の地球でも有ったね。暫く平和な世の中が続いて、「もう戦争なんて起こる時代じゃないよ」なんて、天然ガスとか原油とか、産業どころか越冬にまで必須のエネルギーを一定の仮想敵国に依存して、世界規模で流行った疫病が終息する前に関係国と産出国が戦争を始めた途端に、「お前ら俺のやることに逆らうの? 生意気だ!」などと言われて、直接戦争に参加していない自分たちまでエネルギーを禁輸されて世界経済全体にまで深刻な影響が出た。
確か、先の大戦で敗戦して痛い目に遭った日本だけが調達リスクを分散していて、産出国側と 思想形態(イデオロギー) が敵対する輸入国の中では軽微な影響しか受けなかったんだっけ。
リスクの分散は大事だよね。
万が一にも、戦争で塩の輸入が途絶えたりしないように、保険的な考え方で複数の調達ルートは確保しておきたい。
そう考えると、カリーク公王国や勇王国とも国境を開いて仲良くしようと言う“融和派”の理屈にも一理あるように聞こえるけれど、そもそも、自国を脅かす敵対国の産出品が安いからって問題の敵対国に依存しちゃったら防衛できないじゃん。
しかも、相手は永らく戦争していない仮想敵国どころか、頻繁に攻めてくる敵国だよ?
根本的な部分で考え方がズレてるよね。
この辺の市場寡占化と経済侵略についての話題でテレサが微妙な表情をしてると思ったら、テレサのお兄ちゃんは、今、まさしく、「もう戦争する時代じゃないよ」って遊び呆けてるんだっけ。
塩だけじゃなく、魔法道具に関しても同じことが言える。
こっちの世界は、というか、リテルダニア王国は“魔の森”に面した大自然で溢れ返っている辺境地帯だから、一般家庭では薪燃料の使用がそこそこ大きな割合を占めてるんだよね。
朝昼晩の食事時には、家々の煙突から調理に使用していると思しき煙が立ち上がっているのは、レティアの町へ来た当初から私も気付いていた。
大陸全土で見れば、薪燃料よりも家電的な位置付けの魔法道具による利便性の恩恵を受けている国の方が多くなっていて、ド田舎の辺境地帯は西方の他国よりも文明的な高度化は一歩も二歩も遅れているらしい。
ところが、そのド田舎であるリテルダニア王国こそが魔法道具のバッテリーとして使用する魔石資源の主たる輸出国で、先ほどの地球世界の例で当て嵌めればエネルギー産出国の立場になる。
逆に、リテルダニア王国では人間が生きる上での必須物資である塩が国内生産で賄えず、魔法道具という先端技術の輸入国なんだよ。
そうやって相互依存している戦略物資が有るから、表面上の平和はギリギリで保たれている。あくまでも、表面上はね。
奴隷制度がまかり通っている時点で、こっちの世界では甘っちょろい 倫理観(モラル) が発達していないことは明らかだものね。
侵略で隷属させた人口は消耗品であって、いくら増えても困らないからだ。
欲しければ奪う。
とても原始的で、とてもシンプルな鬼畜理論で「世界」は出来ている。
現代の地球世界みたいに人権が認識されていないから、「侵略拡大で人口が増えることによって社会福祉負担が増えるから領土侵略は止めて 供給連鎖(サプライチェーン) で繋がりましょう!」なんて「 全球主義(グローバリズム) 」は、普通の神経だったら通用しない。
まあ、関税障壁に利益を削られるのを嫌った投資会社や多国籍企業のグローバリストが国境破壊のために聞こえの良い極左ポリコレを利用しようとした地球では、共産主義に傾倒する極左思想活動家によって「全球主義」と同時に「全体主義」が平和ボケした世界各国に浸透して、戦争が起こらずとも不法移民の大移動が起こって、治安は悪化するわ、移民に雇用を食われて自国民が困窮するわ、社会福祉負担費が爆増して国家予算を圧迫するわ、移民で自国民が流出した国は労働力不足で更に困窮するわ、外国へ飛び出した移民は国籍が無い移住先で社会福祉の恩恵を受けられない、なんて、「誰も幸せにならない」笑えないコントが世界規模で起こってたんだけどね。
周辺国から見れば、高品質な魔石を産出するリテルダニア王国の領土は垂涎の獲物らしくて、物欲に駆られた周辺国が度々攻め入ってくる。
具体的に言えば、ウォーレス家の主敵であるカリーク公王国だね。
直接の国境を接していない勇王国も緩衝国に対するちょっかいを出し続けていて領土的野心を隠し切れていない。
この状況で「みんな仲良く!」なんて寝言が言える”融和派“の頭の中は腐ってるんじゃ無いだろうか。
地図上からだけだと隣国のカリーク公王国もリテルダニア王国と同様の“魔の森”に面した立地に見えるけれど、大きく違うのは、採れる魔石の質。
これは黒龍山脈に近付けば近付くほど強い種が棲息している魔獣の生態系によるもので、黒龍山脈から遠い位置にあるカリーク公王国で採れる魔石はリテルダニア王国で採れる魔石よりも大きく品質が劣る。
リテルダニア王国から見れば、「塩が採れる上に魔石も採れて、より安全な位置にあるカリーク公王国は平和で良いなあ」ってなるんだけれどもね。
品質が低くても魔石を自国で産出できるカリーク公王国にとって、リテルダニア王国産の魔石は輸出を止めても抑止力にならない。
よって、人間の醜い物欲に塗れたカリーク公王国は、品質の良い魔石が採れるリテルダニア王国の領土が欲しくて、隙あらば一方的に攻め入ってくる。
王権を持たない公爵家が叛逆を起こしてリテルダニア王国の領土の一部を切り取った経緯があるカリーク公王国の正統性は国際社会の既存国家から認められておらず、王権への反発を利用して建国しただけ有って、一応は「公王」さんは王国を名乗るわけに行かなくて、王様が居なくて貴族が国を治める「公国」でも公爵さんが国を治める「大公国」でもなく、「公王国」という中途半端な「公王」さんの立場を如実に表した国名で国際的に認知されている。
リテルダニア王国を侵略して併合できれば、王権を得た「公王」さんは目出度く「国王」にジョブチェンジ出来るのかもね。
“魔の森”に隣接するリテルダニア王国の一地方だったカリーク公王国は、高品質な魔石を取るためには強力な魔獣や魔物を狩る必要があることも、その討伐がどれほどの危険を伴うものかも理解しているはずなんだけれども、リテルダニア王国よりも安全な自国の領土に満足せず、何度も何度も侵略を試みてきた。
無い物ねだりだし、人間の「物欲」って底無しだからね。