軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界 ①

「普段の作り方ですかい?」

「・・・うん。見せて」

責任者らしき髭面のオジサンは怪訝そうに私を見る。

レティアの町に戻ると、私たちは水源であるナーガ川に近い南門の傍に有る食肉加工場へと直行した。

ここの食品加工場は主に軍事用の携行食を作る加工場で、実質、従業員は領軍の所属の、いわゆる軍属らしい。

今朝は日の出の頃に起こされて、朝7時前には森へ向かって出発したせいか、随分と早くレティアの町へ帰ってこられた。

朝から色々と有ったはずなのに、まだお昼の鐘が鳴るまでの時間があるぐらいだ。

予定よりも早く帰ってこられたとはいえ、一緒にお昼ご飯を食べようと私たちの帰りを領主館でハロルド様が待っている。

だから、さっさと見せて、オジサン。

荷馬車2台に満載された7頭の鹿は、猟に同行した猟師さんたちの手で担がれて、すでに加工場内へ搬入済みだよ。

森で血抜きは終わっているから、食肉加工職人を兼業している猟師さんたちは、さっさと獲物の解体作業に取り掛かっている。

プロの手で獲物がお肉へと変わる様子を見たいというテレサとルナリアには、馬車の荷台でシカの死体に囲まれて目を覚ました途端に悲鳴を上げて再び気絶したレーテさんが、ちゃんと目を覚まして付いていった。

石造りのそこそこ大きな建物の中は、余計な壁を極力省いた広い作業場になっていて、ずらっと大きな作業台が並んだブロックと、天井から下がったフックに骨付きお肉の塊を吊るして置くブロックと、大きな漬け樽が大量に積み上げられているブロックに分かれていて、壁にはお肉を捌くための多種多様な刃物がズラリと提がっている。

建物が石造りのせいか、そこそこの人数が居るのに、加工場屋内の空気は冷蔵庫の中のようにひんやりと冷たい気がするね。

赤黒いシミがたくさん染み付いたエプロンで体の前面を包んだ年配のオジサンたちは、困惑した顔でお母様と私を見比べた。

そりゃまあ、領の重鎮であるお母様まで一緒に来ると昨日から聞いていて何事かと身構えていたら、前に出てきたのは小さな子供でお母様は見守る体勢となれば、職人さんたちが困惑するのも無理は無いよね。

「見せてやれ」

「ピーシスのご当主様が仰るなら、そりゃあ構やしませんが」

お母様の指示で、ようやく動き始めたオジサンたちが肉切り包丁を手に作業台に向かう。

すでに作業台の上へ置かれているのは、食肉加工職人を兼業している猟師さんたちが捌いてくれたシカ肉の大きな塊だよ。

兼業猟師さんたちは毛皮を剥いで余分な骨を外すところまでの作業と、お肉以外の有価値部位を専門の加工場へ卸すのが仕事らしくて、今、私が話していたオジサンたちは、純粋な食肉加工職人なんだって。

で、実際に干し肉を作っているのは、この職人さんたち。

お肉の塊と向き合った職人さんは、要らない腱や脂肪を大雑把に削ぎ落として手際よくお肉を整形していく。

あっという間に、お肉屋さんの冷蔵ショーケースに鎮座しているようなブロック肉に姿を変えたシカは、適当な大きさのブロック肉に切り分けられて木桶に放り込まれていく。

適当な大きさ、と言っても、私の顔ほども有るお肉の塊だけれどもね。

木桶のお肉は、別の職人さんの手で私が3人はすっぽりと入れてしまう大きさの木樽が積み上げられたスペースへと運ばれて、香草混じりの大量の砕かれた岩塩と交互に樽の中へと詰められる。

ブロック肉の段階で塩漬けしちゃうのか・・・。

背伸びして樽の中を覗き込む。

贅沢に放り込まれた大量の塩に埋もれている姿は、まさに塩漬け肉って感じ。

使っている香草はタイムだね。

胡椒は無さそうかな。

「この状態で1ヶ月ほど置いた樽が、こっちのヤツでさあ」

「・・・うん」

積み上げられていた樽の一つを転がしてきて、職人さんは樽の蓋を開けて見せてくれる。

お肉から滲みだした肉汁で赤茶色に染まった岩塩の中へバリっと腕を突っ込んで、固まった表面のお塩を払って取り出した肉塊が私に手渡された。

ずっしりとした重みのお肉の塊は、撲殺に使えそうなぐらいのカチカチに固まっていて、僅かに湿気って居ながらも塩の粉を吹いている。

うーん・・・。完全に塩漬け肉だよね。

こんなの食べてたら、そりゃあ塩辛いに決まってるよ。

食生活を改善させなきゃ、高血圧からの成人病コースで早死にすると思う。

食材からの食文化改善を密かに決意しつつ、撲殺用の鈍器を職人さんに返却する。

「・・・この後は?」

「あちらへどうぞ。お嬢さん」

大雑把に塩を払い落した塩漬け肉の塊を木桶に放り込んだ職人さんの後に付いて、作業台スペースの一角へと戻ってきた。

壁際からゴツい鉈のような包丁を取ってきた職人さんは、筋肉でムキムキの腕に力を込めて、ザクッ、ザクッ、と、切りやすい角度で適当に塩漬け肉をスライスし始める。

固い半生状態にまで締まったお肉は、私の手のひらよりも大きな肉片へとカットされて、再び木桶へと放り込まれていく。

既存の干し肉が固い原因はコレだね。厚みも結構バラバラだし。

「これを、風通しのいい場所で半月ほど干しやす」

「・・・それで完成?」

「へい」

「・・・なるほど。ありがとう」

理解した。

非常にシンプルな調理方法なのは、文明の発展度の問題なのかと思っていたけれど、お肉の切り方を見て、風土というか、ウォーレスの気風的な要因だと確信した。

不要部分を取り除くお肉の掃除も大雑把だったしね。

きっと、職人のオジサンたちも脳筋なのだ。

シンプルさは大量に加工するだけなら合理的かも知れないけれど、お塩も勿体ないよね。

改善点が見えて大きく頷く。