軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法というもの ⑧

コントロールを優先すると速度や威力が出ないせいか、空中を飛ばす攻撃でさえシカは身を捻って躱すことが何度も有って、1発で命中させたアリアナさんたちでさえ、私たちよりはシカにダメージを与えているけれど、決定的な打撃では無いように見えるね。

ワナに掛かって動きを制限されていてコレだと、自由な状態の魔獣を相手にしたら?

お婆様が一緒に行く予定とはいえ、魔獣の間引きに行く際には拘束されていない魔獣と戦う事態も有り得る。

最悪の状況では、群れで襲って来る俊敏な魔獣を相手に―――。

誰かが大怪我を負わされる姿を幻視する。

背筋に冷たい物が走ってゴクリと息を呑んだら、お婆様の声が私を現実へと引き戻した。

「良く出来ましたね」

「・・・い、いいえ。甘く考えて居ました」

「それを理解できたのなら、次は幾らか上手く出来ることでしょう」

「・・・そうでしょうか」

足りない。

私の細腕では、根本的に攻撃力が足りていない。

今現在、まともな攻撃力を持っている私の攻撃手段と言えば、風ジェットカッター魔法の一つだけだ。

あの魔法だって、手にしているのが物理的武器か魔石かの違いだけで、現実的には物理攻撃と言える。

アリアナさんのように身体強化魔法を使えれば、いくらかは攻撃力を上積みすることが出来るだろう。

でも、身体強化が出来ても、それは身体能力を底上げするもので有って、基礎となる身体能力に準拠するはずだ。

100に100を上乗せすれば200だけれど、1に100を上乗せしても101にしかならない。

身体能力で劣る今の私が皆に見劣りしない攻撃力を得るには、魔法に頼らざるを得ない。

さっきの攻撃で言えば、もっと魔力を詰め込んで杭を大きくしたとしよう。

杭が大きくなれば攻撃力が上がる?

答えはノーだ。

物理的に質量が大きくなっても、「そこに有る」だけでは、攻撃力は上がらない。

質量に加えて、位置エネルギーなり、運動エネルギーなり、別の要素が生じてこそ攻撃力が上がる。

私の攻撃には、その、別の要素が足りていない。

これが火魔法だったとしても、ルナリアが火の玉を撃ってきたとすれば、私でも、私以外の誰かでも、のろのろフワフワと飛んできた玉なら避けられるだろう。

ムーアの町で見せて貰ったお師様の“白焔”を避けられるか?

あの時、お師様の“白焔”は500メートルほどの距離を5秒ほどで飛んで城門を吹き飛ばした。

秒速100メートルってことは、え~っと、時速360キロメートルか。

プロテニスプレーヤーのサーブだって時速200キロメートル程度だと聞いたことが有る。

新幹線の営業運転速度よりも遙かに速い攻撃なんて間近で撃たれたら避けられるわけが無い。

私たちの魔法で、あんな速度は出せない。

なぜ、私たちは速度を出せないのか?

単一の魔法しか使えていないからだ。

タケノコを生やす土魔法。

タケノコを圧縮して杭に変える土魔法。

杭を投げる「見えない手」に至っては身体能力に依存するもので土魔法ですら無かったと言える。

「・・・お婆様。どうすれば、複数の魔法を同時に発動できますか?」

同時発動が出来れば、威力を上げる方法なら考えつく。

圧力を溜め込んだ爆発エネルギーなり、加速させる運動エネルギーなり、魔法の威力を増大させるには、単一の魔法では決定的に「要素」が足りないのだ。

「もう気付いちゃうのねえ」

お婆様は上品にクスリと笑った。

ああ、やっぱりか。

これこそがハードルなんだ。

魔獣を相手にする恐ろしさに気付かせるためだけでなく、お婆様は魔法で戦うために何が重要かを真に理解させるために、私たちに土魔法を使わせたんだね。

お師様も“白焔”を使ったときに複数の魔法を同時に使っていた。

それこそが“白焔”や“紅蓮”を使う際の最重要ポイントで、以前、お師様が私に“白焔”を見せたのはヒントを与えるためだったのだろう。

マルチタスクが必要なことを理解していても、マルチタスクの使い方が分かっていなければ相乗効果は望めない。

それ以前に、やり方が分からない。

さっきの土魔法でも、私がムキムキマッチョの筋肉ダルマなら、単一魔法でも威力を出せるかも知れないけれど、それだけでは“白焔”どころか“紅蓮”へ至る道筋も見えて来ないはずだ。

“紅蓮”の習得がピーシス家を継ぐ必須条件なのだから、同時発動という魔法技術のハードルは、それほどに高いものと見て間違い無い。

私が目指さなければならないのは、“紅蓮”のもっと先。

「感覚的なものも有るから具体的に説明するのは難しい質問ね。でも、フィオレちゃんはもう使えているじゃないの」

「・・・え?」

もう使えている? どういうことだろう?

「まだまだ時間は有るのだから、しっかりと見て、しっかりと考えなさいな」

私の頭を一撫でしたお婆様は、未だ暴れている手負いのシカへ向かって歩き出した。

お婆様は、腰の剣帯に剣と並んで提がっている細長いホルダーから、30センチメートルほどの長さの棒を抜く。

オーケストラの指揮者が振る 指揮棒(タクト) みたいだね。

あれって、杖かな?

ハリウッド映画に出てくる西洋の魔法使いが持つようなやつ。

「この子は私がトドメを刺すわね」

「おう」

お婆様の宣言に、お師様は頷いて見届ける体勢になった。

「シェリア様の術式・・・」

ピーシーズは身を乗り出して、お婆様の一挙手一投足を食い入るように見ている。

お師様に対するものとは少し違う、お婆様への憧憬と敬意が見えるね。

シカから3メートルほどの距離を置いて足を止めたお婆様は、スッと頭上へと杖の先端を向け、スゥっと円を描く。

示された円の形にお婆様の魔力が滞留しているのが感じ取れる。

力強さが前面に出ているお師様とは対照的な、女性らしく繊細で優雅な所作だね。

でも、霧散すること無く宙に滞留している魔力は揺らがず緻密に制御されていて、お師様に劣らず強い。