作品タイトル不明
魔法というもの ⑦
攻撃を受けたシカが暴れ出すことを想定して、石の棘で地面に縫い付けるイメージかな。
鹿が寝転がっている地面の下から鋭いタケノコが生えてくる場面を、可能な限り具体的に、明確に想像する。
「・・・行くよ。―――あっ」
私は目を見開いた。
地面に魔力を通した瞬間、跳ねるようにシカが胴体を捻って、地面から突き上げた石の棘は紙一重で躱されていた。
「・・・避けられた? 偶然?」
呆気に取られた私は、心底、驚いていた。
も、もう一回!
ズッ! っと低い響きを伴った石の棘は、再び捻られた雌ジカの体を外した。
またギリギリだったけれど、偶然じゃ無いと思う。
何で!? と、驚愕していたら、クックック、と笑い声が私の耳に届いた。
「・・・お師様?」
「なぜ外したのかを、よく考えてみろ」
いつも通り、腕組みで見守る態勢のお師様は答えを教えてくれるつもりは無いらしい。
「・・・はい」
なぜ外したのか?
さらに興奮して威嚇が激しくなったシカを、じっと見る。
シカのように見えてシカでは無い「魔獣」と、目を合わせる。
私が 「外した」のでは無く、貴女、絶対に「避けた」よね?
どうやって避けたんだろう?
いや、どうやって攻撃の瞬間を察知したんだろう?
地面に魔力を通したら避けられたんだよね? あれ? 魔力を通したら?
「魔獣」って何? 文字で表せば「魔」の「獣」だよね。
もしかして?
確か、魔法を使える人間のように魔獣が魔力を持っている野生動物なのでは無く、「魔力から生まれた何か」だと考える人も居たんだよね?
大昔のエルフ族だっけ。
仮に、魔獣が本当に「魔力から生まれた何か」だとしよう。
そんなモノに魔力で挑むの?
しかも、地面に急所を密着させて寝ている魔獣に、地面に魔力を通して?
これが答えじゃないかな。
「・・・ふむ」
地面から浮いた物なら、どうなんだろうね?
再び地面に魔力を通すとシカは身動ぎしたが、今度は地面から直接攻撃するのでは無い。
通した魔力を維持したまま立ち上がると平坦な地面の一部が盛り上がって、私の手のひらに導かれて地面から土のタケノコが生えてきた。
ギュッとギュッとタケノコを固めると、圧縮された土は体積を小さくして石の杭になる。
そこで、地面に流していた魔力を変化させて、手のひらから伸ばした「見えない手」をイメージして持ち上げると、地面から切り離された杭がスゥッと宙に浮く。
日本でやれば、「来ました! ハンドパワーです!」みたいな絵面だけれど、日常的に魔法が使われる世界では誰も驚かないし、むしろ不慣れな様子を微笑まし気に見守られている。
魔力の手で杭を握った私は、杭の先端をシカに向けて調整し、狙いを定めて投げた。
槍の穂先のように鋭い杭は、ワンテンポ遅れたために避け損ねて「ギャッ」と悲鳴を上げたシカの首に突き刺さる。
やった。杭の接近を「目視した」シカは避けようとしたけど避けきれなかった。でも。
「・・・浅い」
トドメには程遠いけれど、私の土魔法で一応は傷を負ったシカが、ワナによる拘束から逃れようと激しく身を捩り始めた。
「次! ルナリア!」
「は、はい!」
「近付き過ぎるな! 十分に距離を取れ!」
「はい!」
試技の終わりを告げるお師様の声にホッと息を吐いた私は、ルナリアに場所を譲って後ろへと下がった。
自分の手のひらを見つめる。
「・・・やっぱりか」
魔力・・・。
魔力だよね。
シカは「私の攻撃」を躱したのでは無く、「攻撃的な魔力」を躱したのでは無いだろうか。
恐らく、魔獣は魔力を察知するのだろう。
魔法だけでは倒せない相手の存在を知ることは、今後、魔獣と戦うときに活きてくる、とても重要な情報だ。
魔法で「生き物」を傷付けたのは初めてでは無いけれど、知恵と経験で判断する人間と本能で生きている魔獣では、大きく勝手が違うんだね。
人間と違って、野生動物の動きは速い。
ただでさえ俊敏なのに、魔力の動きを感知して魔獣が魔法攻撃を避けるのだとしたら、魔法攻撃を当てるためには武器で攻めて魔獣の行動を制限する必要が有るのかも。
人間だって魔法を避けたり攻撃を防ぎきる相手が居るのかも知れない。
訓練を見学していて、エゼリアさんたち8人の中に純粋な魔法使いタイプが一人も居ないな、とは思っていたのだけれど、その理由が分かった気がするよ。
取り囲んだ魔獣を盾や武器で牽制して、動きを制限したところへ魔法を撃ち込む?
それって、私の頭の中に有った、跳んだり跳ねたりで敵の攻撃を避けながら魔法を撃つ魔法使いのイメージと戦い方が大きく違うんだけど、現実問題を現実として受け止める方が大事だ。
現実的に通用する対処方法を身に付けておく必要がある。
私を真似たルナリア、テレサ、ピーシーズ、と、順に指名されてシカを攻撃する。
ルナリアは1回、テレサは2回外して、ピーシーズでも1発で土魔法を命中させたのはアリアナさんを含む年長組の3人だけだった。
ピーシーズには、ほぼ身体強化魔法しか使えない子も何人か居るらしいけれど、例外は無いとお師様に睨み付けられて、何度も何度もやり直しをさせられていた。
不得手な子にスパルタ方式でやらせるのは可哀想だけれど、本人が生き残るために、出来ないよりかは出来た方が良いのだから、頑張ってもらおう。