作品タイトル不明
魔法というもの ⑥
「貴女の教え方も間違いでは無いと思いますよ」
「・・・うん。自分で考えて工夫するのは大事だと思う」
「生意気な。この」
お婆様と私の顔を見比べてニヤッと笑ったお師様は、私の頭を両手で掴んでワシャワシャと髪を掻き混ぜる。
自然と私の口から笑い声が漏れた。
こういう触れ合いって、くすぐったいんだね。
ネグレクト子の私は母親との触れ合いなんて無かったから、ちょっとだけ憧れていたんだよ。
「・・・テレサとルナリアも一緒で良い?」
お師様とお婆様を見比べると、乱れた私の髪を手で梳かしながら二人とも頷いてくれた。
ヨシ。同時発動のヒントが欲しかったんだよね。
同時発動は高度技術だとテレサも言っていたし、普通なら何年も時間を掛けて身に付けるものなのだろうけれど、襲い掛かってくる人間に、魔物にと、身近に脅威が多すぎる世界だからこそ、一刻も早く身に付けたい。
風ジェットカッター魔法の習得をピーシーズも望んでいるし、外に出て実践する格好の機会を逃す手は無い。
身に付けるのが早ければ早いほど、取りこぼす物を一つでも減らせられると信じる。
私自身だって殺されたくないし、私を受け入れてくれた私の大切な人たちを、誰一人だって失ってなるものか。
そのためなら、どんな小さなチャンスにだって食らい付いてやる。
お婆様もピーシーズを鍛える必要性を感じているのだろうから、私も全力で協力するよ。
みんなで強くなって、みんなを守るんだ。
「お婆様の指示に従うんだぞ?」
「・・・はい!」
お師様にぐりぐりと撫で回されていると、イディアさんとトリアさん、エレーナさんとノイエラさんが、戻ってくるのが見えた。
いつものペアを組んで、手分けしてワナの見回りに行ってくれて居たのだけれど、4人とも、明るい表情では無いね。
私の目線を追って、イディアさんたちの帰還に気付いたお師様たちが迎え入れる。
「戻りました」
「おう。どうだった?」
「バイコーンの 牡(オス) が1頭、掛かっていました」
「こちらは2頭です。内、1頭は仔で、母親と思われる雌が傍を 彷徨(うろつ) いておりましたので、危険と判断して母親ともども仔は仕留めました」
仔が掛かったと聞いてテレサとルナリアがピクリと反応したけど、飼えないからね?
野生動物―――、というか、シカ―――、バイコーンって雑食性の魔獣なんだよね?
奈良公園のシカは人間に懐いて居たけど、魔獣はハロルド様が許さないんじゃないかな。
待てよ? 飼えるのかな?
魔獣って畜産できるんだろうか? 成長が早いんだっけ?
「ご苦労でしたね」
「大猟だな」
私の頭が横道に逸れている間にもお婆様が労い、嫌そうな顔をしたお師様は首を振る。
全部で6頭、ううん。
ワナに掛かっていなかった母ジカ1頭が追加で合計7頭。
ずっと掛かり過ぎじゃないかと思っていたけれど、お婆様の懸念が当たって居そうな気配がする。
「回収に向かいますか?」
「そうだな。手近なヤツから片付けるとしよう」
エゼリアさんの問いにお師様が応えて、みんなが動き始める。
先ずは、目の前に居る雌ジカから、だね。
「フィオレちゃん。土の術式は使えるのかしら?」
「・・・やってみます」
お婆様の視線を受けて、一歩踏み出す。
トドメ用の武器を使わずに魔法だけで獲物を仕留めるのは初めてだね。
王都勢が居るから魔石はナシだよ。
威嚇を続けている雌ジカの傍からテレサとルナリアが離れ、二人を取り巻いていた騎士様や猟師さんたちも、そそくさと距離を取る。
私の土魔法は、正直、使えるというレベルでは無いと思う。
土魔法自体は何度か発動してみたことは有るのだけれど、何も無い虚空から土が発生するイメージが難しくて頭を捻って居たら、通り掛かったディーナさんからノイエラさんが土魔法を得意としていると聞いて、ノイエラさんに相談してみたら、土そのものを生み出すのは魔力を無駄に消耗するから、慣れない内は足元の地面に魔力を通して使うのがエコなのだと教えてくれた。
身近に実在する土を使うということは木造家屋の中では使えないし、石造りの領主館の中で使うと床や壁に穴が空いたり抉れたりしてしまうわけで、私の練習が一番遅れている魔法なんだよね。
屋外でしか練習できないから、単純に練習する回数が少なくなっている。
他の魔法と較べて土は重いというか、抵抗が強くて制御や維持が難しいのも難点かなあ。
シカから反撃を受けない距離でしゃがみ込んで、私は足元の地面に手のひらを当てる。
魔法全般が上手なイディアさんに言わせれば魔力を扱うのに手も足も無いってことで、現にノイエラさんは普通に立ったままで何の予備モーションも無く足元の地面に 錐(きり) のような岩の棘を生やしてお手本を見せてくれたし、剣を振るって戦いながらでも敵を足元から串刺しにするぐらいは平然とやってのけるんだって。
あのノイエラさんの土魔法、格好良かったなあ。
爪先で地面をトンとやったら、数歩離れた地面から大きな土の棘がズバっと突き上げるんだよ。
あんなの避けようが無いはず。
初心者の私は、ノイエラさんの真似をしようとしても、爪先から魔力を送り出しても狙った場所との距離感が掴みにくくて明後日の場所に魔法が発動したりするんだよ。
難しい、って零したら、ノイエラさんは見事なドヤ顔になっていた。
ともあれ、今は雌ジカと対決中。集中しなきゃ。