軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法というもの ⑨

「 其(そ) は母神の 御手(みて) 。渡る旅の導きに従いて、裁きを 齎(もたら) すもの」

歌うように朗々とした美声が、ゆったりと、一句、一句、と織りなす度に、杖を伝って送り出された魔力が虚空へ砂粒のような霧を生じさせ、寄り集まって、三角錐の底辺同士をくっつけたような菱形の鋭い杭を形作る。

杖先の周囲には風が渦巻いていて、風が纏わり付いた杭は杖先の動きに釣られたように回転を始めた。

杭が形成される間も、風が渦巻いている間も、先端と後端を軸に円軌道で杭が自転している間も、均一で濃密な魔力は一定の速さで 澱(よど) みなく送り込まれていて、魔法は強化され続けている。

この間、10秒ほどだっただろうか。

「 疾(と) く駆けよ!」

振り下ろされた杖先と共に杭は解き放たれ、肉眼では捉えきれない速さで宙を走る。

カツッ! と、固い音が響いた直後に、雌ジカの体がドサリと崩れ落ちた。

音を追いかけて視線を動かすと、シカの眉間に頭骨を貫いた石質の杭が生えていて、シカをこれ以上、無駄に苦しませること無く、一瞬でトドメが入ったのが分かる。

「・・・綺麗」

芸術的な美しさを持った魔法の使い方だと思った。

そして、凄い。

土と風の魔法の複合だけで、これだけの威力が出せるんだね。

真似ができる気は、ぜんぜんしないけど。

何より、ルナリアに教えて貰った火魔法や風魔法と変わらない呪文の長さだったのに、複数の魔法を一つの呪文に織り込んで同時に発動するなんてことが出来るんだ・・・。

お婆様の呪文を思い返してみる。

「其は母神の御手。渡る旅の導きに従いて、裁きを齎すもの。疾く駆けよ」だっけ。

「母神の御手」?

「御手」は杭のことかな。

じゃあ、「母神」って何?

土魔法だったから、「土」を表しているのだろうか。

「母なる大地」って比喩? 「地母神」?

要は、「土魔法の杭」という指定の句なんじゃないかな。

神教会とかいうカルト宗教のことも有るし、宗教的な感じのものは教義を調べないと理解できそうに無いな。

「渡る旅の導き」は?

「従え」って指示しているのだから、状況から察するに「渡る旅」は風魔法を表していると想像できる。

「風魔法に乗れ」って意味かなあ。

詩的な表現の呪文は解釈が分かりにくいよ。

分解してみると、土と風の魔法は、それぞれ一句の呪文しか無いね。

ルナリアがお師様から習ったという呪文は、もっと直接的で説明的な表現だったはず。

イメージが明確なら無詠唱でも魔法は発動するのだから、呪文が短いこと自体に疑問は無いよ。

慣れ? やっぱり、慣れかな。

何度も何度も使って、意識しなくても発動できるぐらいに使い慣れれば、複数の魔法を一つのものとして認識することは可能なのかもしれない。

これは大きなヒントだね。早速、やってみよう。

日常的に維持するようにしていた風魔法の練習を再開する。

維持も大事だけれど、発動の慣れが必要なのだったら、と、発動して解除して、出したり引っ込めたりを繰り返す。

お婆様は「感覚的なものもある」と言っていたから、「本人がイメージし易いものは個人差が有る」ってことなんじゃないかな。

この時点で魔法は発動できそうに思うけど、「裁きを齎すもの」は?

「裁き」=「攻撃」だろうか?

わざわざ「これは攻撃魔法だぞ」って念押ししてるの?

どういうイメージなんだろう? 威力強化?

現象だけで見れば、この一句を唱えているときには、風に纏わり付かれた杭が自転して加速している 段階(フェーズ) だったよね。

それに、なんで回転してたんだろう? 回転する意味は有った?

今の魔法で起こった現象をトータルで眺めれば、風の銃身で打ち出された銃弾がシカの頭蓋骨を貫いたように見える。

地球で発達した銃弾も火薬の燃焼によるガス膨張の圧力で銃身から押し出される際に 腔線(ライフリング) によって軸回転を与えられて自転する。

これは軸回転によるジャイロ効果が云々(うんぬん)で弾丸を真っ直ぐ遠くまで飛ばす物理法則によるものだ。

あの軸回転が物理法則と同じ効果を持っていたとしても、石の杭が飛ぶ軌道の安定や照準の付けやすさには寄与しそうだけど、威力には関係なさそうだなあ

もしかしたら、あの風魔法は杭を回転させるのが目的じゃ無くって、単なるカタパルト的な魔法なのかも。

風の威力を高めるのに1ヶ所に留まった風の滞留の副次的効果で勝手に杭が回転して命中精度や弾道が安定したと考えれば、まだ納得できるかな。

「疾く駆けよ」で「早う行けゴラァ!」と杭を発射しているのは想像できるから、そこはパスしよう。

ダメだな。解明できない。

真似できる気がしないのは、魔法には、物理法則で説明できないファンタジームーブが含まれるからじゃないだろうか。

ファンタジームーブの典型例が、「火種が無いのに火が点く」とか「石の杭が宙に浮く」とか。

ファンタジームーブが気になって理解を邪魔するなら、個々の機能を一旦まとめてポイして、全てが一体の「そういうものだ」とイメージすればイケる?

お婆様が呪文の一句一句で個別の魔法を使っているにしては、一句ごとが短すぎる気がするから、こっちの方が正解に近いんじゃなかろうか。

そうすると、お婆様の頭の中で個別の魔法は、フワッとしたイメージしかしていない?

「こんな感じ」って全体のイメージに合わせて欲しい個別の現象を当て嵌めて、その個別の現象をイメージしやすい呪文を唱えているだけで、実際には一つの魔法しか組み上げていないのかも?

だったら、お師様が訓練中にやっている、複数の属性の魔法を同時に発動してるアレは? 発動?

同時に発動してたっけ?

入れ替わり立ち替わりに複数の属性を出したり消したりしていたってことは、同時に発動しているんじゃ無いのか。

個別に発動して、魔力制御で複数の魔法を維持し続けるだけなら慣れればイケるかも。

だとしたら、同じマルチタスクでも作業の用途が「思考」と「維持」でぜんぜん変わってくる。

聖徳太子の逸話で「10人の陳情を同時に聞いた」とかって話を日本史の授業で聞いた記憶があるけど、あっちは「思考」の話で、「自転車を漕ぎながら鼻歌を歌う」なんてのは慣れの問題で「維持」に近いマルチタスクだよね。

この「慣れの問題」なら訓練を重ねれば出来るようになるのも理解できる。