作品タイトル不明
魔法というもの ②
みんな馬に乗れるし、2時間ぐらいで実家に帰れるらしいから、本人たちも実家を離れることをあんまり気にしていないみたいだね。
モチベーションが高すぎるぐらいだし。
こっちの世界の常識に疎い私が、日本の常識を勝手に押し付けるのは違うよね。
アリアナさんとは少し話したけれど、ピーシーズの他の子たちも風バリアー事件で私を嫌うのかと思ったら、お母様やお婆様の治癒魔法で立ち直った途端に、あれ何!? と、もの凄い勢いで食い付かれて、彼女たちにも教える約束をさせられてしまった。
ピーシーズ全員がエゼリアさんたちみたいに強くなってくれるのは大歓迎だしね。
風バリアーを張った全員で、横一列に並んで突撃すれば、敵を面制圧できるかも。
どうやら、彼女たちにとって重要なのはピーシス家を率いることができる強さで、お母様たちが私を後継と決めた以上、お母様との血の繋がりが無かろうと、ポッと出の私が出自不明だろうが何だろうが、割とどうでも良いことだったみたい。
彼女たちのお母様たちに対する絶対的な信頼と、強さへの信奉が感じ取れるね。
お母様たちが止める気配も無く見守っていたのは、それを知っていたからっぽい。
いきなり初っ端から正面突破で実力行使に踏み切るとまでは思っていなかったみたいだけど、立ち向かう選択をした私の判断は正しかったんだね。
むしろ、お母様にもお婆様にもお爺様にもハロルド様にもハインズ様にも、よくやったと褒められた。
後継者の襲名披露では舐められないのが、先ず最初のお仕事で、私が舐められないってことは、私が護ろうとしているルナリアやテレサが舐められないってことだから、とても大事な最初の試練を力尽くで乗り越えた私は、褒められこそすれ叱られることは無かった。
戦場では上司が先に戦死して指揮官が替わることなんて日常茶飯事で、指揮官が優秀で有れば騎士や兵士が生き残って戦線を維持出来るのだから、指揮能力に出自は関係無い、などと言われれば戦場に立った経験が無い私でも納得したよ。
戦えば誰かが亡くなることなんて当たり前で、強さが全て。
戦場では死なない強さが重要で生き残りさえすれば他のことは割とどうとでもなる、などとエゼリアさんたちの結婚観と同じようなことを言い出した。
私に求められる役割は、敵に勝つだけじゃ無く、みんなで生き残ること、で良いのかな。
私は自分自身だけじゃなく、ルナリアやテレサにも強くなって貰うつもりだったから、私がすべきことは何も変わらないんじゃないだろうか。
身構えていた私がバカみたいだね。
私は迷わず、お母様の背中を追えば良い。
次は絶対、自分の力だけで全員を轢くよ!
小さな目標だけれど、何事も一歩から、だよ。
私には熊を絶滅させるという壮大な野望があるのだから、人間程度に負けていられない。
馬に揺られながら後ろを振り返れば、ルナリアの馬のすぐ後ろにアリアナさんの馬が付いていて、周囲を警戒しているアリアナさんと目が合う。
どうやったら捕獲できるかなあ。
ディーナさんが捕まえてくれなかったら、アリアナさんも捕まえられなかったんだよね。
私の視線から何か不穏な気配を感じ取ったのか馬上のアリアナさんが仰け反ったので、落馬事故を起こされても困るし、ニコリと笑いかけてから前へ向き直す。
私の身長が伸びるまでは脚の長さからして違うし、普通の手段じゃ追いつけないよね。
身体強化魔法だっけ?
あれって、どうやって使うんだろう?
アリアナさんが私から逃げるときにも使っていたと思うんだよね。
だったら、私も使えなきゃ、ワナへ追い込みでもしないと捕獲は難しいだろう。
筋肉を意識して強くなるようにイメージすれば良いんだろうか?
後で試してみよう。
王都の騎士団が帰ったら、テレサの無詠唱講習と一緒にピーシーズの風カッター講習も纏めてやるかなあ。
魔石の使い方も全員にマスターさせたいんだけれど、コーニッツとムーアの領主たちは事件に関係する王都の“融和派”の名前を問われると途端に口が固くなるそうで、バルトロイ様たちによる大人の時間は継続中なんだって。
早く王都へ帰ってくれないかな? なんて考えてしまうことも有るけれど、大人の時間が終わるということは、お母様たちが出陣する日が近いという意味でもある。
お母様たちもハロルド様も行く気マンマンだけれど、万が一にも、なんて考えてしまうと、もう、夜も眠れなくなる。
そして、そんな不安はルナリアも同じらしくて、テレサとルナリアが眠ったと思って私が勉強を始めたら、ルナリアが起き出してきたことが有った。
出来るだけ考えないようにしているけれどダメなんだよね。
せめて、魔法の練習や基礎体力の訓練の間は集中しないと、早く強くなりたいのに本末転倒だよ。
お母様たちが不在の間にルナリアたちが上達していたら、喜んでくれるだろうか?
きっと喜んでくれるはず。
ルナリアに物理現象の理解を深めさせるのに実験室的な物が欲しいと考えていたけれど、地球での記憶がテレサにも秘密なら、実験しちゃうと色々とバレて拙いよね。
お友だちとしては心苦しいけれど、地球の知識を持つ私を獲物認定した有象無象に追い回されるのは嫌だし、秘密にするのは勘弁して欲しい。
ルナリアたちに噛み砕いて物理現象の原理を教えることは私自身の理解を深めることにもなると思うんだけれど、手段に制限が掛かるなら別の方法を考える必要が有るなあ。
馬の揺れに合わせて私も揺られながら、つらつらと考えていたら、落ち葉が一枚、ひらひらと進行方向の頭上から落ちてくるのが目に入った。
釣られて、何となく、さらに頭上を見上げたら、枝の上から大きな何かが身を躍らせたのが見えた。
その下に居るのは―――。