軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟と決意 ⑬ ※アリアナ面

「ちょっ! 待って待って!」

「・・・ヤダ!」

ヤダじゃないでしょう!

林檎を一瞬で摩り下ろしそうな勢いで地面をガリガリと削り取る風の壁なんて危険物にぶつかられたら、無事で済むはずが有りません!

駄目です! この子、まるで止まる気が有りませんよ!

少女の動きに合わせて動く風の壁を何度か避けましたが、止める手立てが有りません!

楽しそうに口元に浮かべている笑みから理解しましたが、華奢で可憐な容貌から大人しそうな子だと私が勝手に誤解していただけで、この子は猛獣です!

ゾリッ!!

うわっ! 危なかった!

掠っただけなのに固い革鎧の籠手が抉れましたよ!?

こんなのに巻き込まれたら、血塗れの肉塊にされてしまいます!

私は身を翻して一目散に逃げ出しました。

幸いなことに、体格差が大きいので全力で逃げれば追いつかれることは無さそうです。

「・・・まあ、良いや」

しばらく追いかけて来ていた少女は、諦めたのかクルリと向かう先を変えました。

「「「「「嘘っ!? こっちへ来る!!」」」」」

「ギャ―――ッ!」と、蜘蛛の子を散らして逃げ回る女性騎士候補者たちを狙って突進しては、跳ね飛ばしています。

「うわぁ・・・」

今もまた、剣を抜いて少女を迎え撃とうとした1人が剣ごと風の壁に弾き飛ばされてひっくり返りましたが、犠牲者を顧みずに次の標的を手当たり次第に追い回しています。

方向転換しようとして、追い付かれた子が風に弾かれて明後日の方向へと頭から滑って行きます。

ゆっくりと走っているかと思えば急に速度を上げたりと、動きが読めません。

足の速さで幼子に負けるはずは無いのですが、遠慮と困惑と予想外の行動に惑わされた候補者の足は鈍り、どうするか迷ったところを狙いすましたように進路を変えて候補者を犠牲者へと変えて行きます。

「・・・ふひひっ」

あの子、すっごくイイ笑顔で笑ってるんですけどぉ・・・。

だ、誰か止めないのですか?

止める気は無さそうですね。

フレイア様やシェリア様だけでなく、エゼリア様たちまで腹を抱えて笑い転げています。

「・・・成敗!」

あ。また一人やられました。

数十メテルも離れた場所へ避難した私は荒い息を吐きながら、少女の姿を視線で追います。

あの子―――、いいえ。

あの方が、フィオレ・ピーシス様・・・。

認めざるを得ません。私は完全に見誤っていました。

強く、賢く、美しく、大人しそうに見えて、牙を剝いたら、とんでもなく凶暴。

予想しない術式の使い方を編み出す高度な知恵と技術を持った、危険な猛獣。

あら? それって、ウォーレスの女の理想像そのものじゃないですか?

道理で姉様たちが―――、フレイア様を始めとした皆様が認めるわけですよ。

あれで、魔法術式を覚えて僅か1週間なんて嘘でしょう?

その調子で成長したら、将来は、どれほどの怪物に育つのですか。

背中がゾクゾクとします。

「アリアナ?」

「ヒッ!」

不意に肩をガッチリと掴まれて、みっともない悲鳴を上げてしまいました。

肩越しに返り見れば、私よりも頭一つ高い位置から、蒼色の瞳が見下ろしています。

「でぃ、でぃでぃでぃ、ディーナ様!?」

私などまだまだ未熟だと姉様との模擬戦で思い知らされたばかりですが、音も気配も全く察知できず背後を取られました。

「こんな所で、何をしているのかしら?」

「ハッ! い、いえ、これは!」

にっこりと笑っておられますが、ディーナ様の目は、ちっとも笑っていません。

逃れようとしても、姉様たちフレイア様の側近の中でも一二を争う怪力をお持ちのディーナ様の手を、身体強化も未熟な私ごときの力で振り解けるものでは有りません。

「は、放して下さい!」

「自分から挑んでおいて、逃げるな馬鹿者」

分かってますよ!

無駄とは知りつつもディーナ様の手から逃れようと抵抗を試みます。

あんな術式に巻き込まれたく有りませんからね。

「・・・あ。居た」

「あら。見付かっちゃいましたね」

「えっ!?」

慌ててディーナ様の目線を追えば、バッチリとフィオレ様と目が合いました。

フィオレ様が花の蕾が綻ぶように微笑みます。

うわっ! 見つかった!

自分の頬が引き攣るのを自覚しました。

フィオレ様は私を目指して一直線に広場を横断して駆けてきます。

意外に速い!?

指先をピンと伸ばして直角に曲げた両腕を大きく振って、私に向かって一目散に駆けてきます!

真っ直ぐに私の目を見据えたままだから、余計に怖い!

「フィオレ様! どうぞ!」

逃げなきゃ! と考えても無駄で、空いた手で私の剣帯の腰をガッシリと掴んだディーナ様によって、私の身体は軽々と持ち上げられます。

「・・・ありがとう! ディーナさん!」

「いやいやいや! おかしいでしょう、コレ!」

ジタバタと手足を振り回しても、背中から掴み上げられているので、首の後ろを摘まみ上げられた猫のように、まさに手も足も出ません。

「・・・問答無用!」

「ギャ―――ッ!」

真っ直ぐに私を見据えて駆けてくるフィオレ様へ向けて、私の体は放り投げられました。

迫ってくるフィオレ様。

唸りを上げる濁った風の壁。

何とか我が身を守ろうと身体強化術式を全力で行使しましたが、手脚が宙に浮いたままでは避けることも出来ず為す術がありません。

頭を強烈に殴打されたように、私の意識はそこで途切れました。