軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟と決意 ⑫ ※アリアナ面

「ふぃ、フィオレ様・・・。それは?」

「・・・気にしなくて良い」

「気にしますよ!」

「・・・敵に手の内を教えたりしないよね?」

「そ、それはそうですね・・・」

ぐうの音も出ません。思案顔の少女は風の形状を、首を傾げながら成形しています。

これ以上、一体、何をするつもりでしょうか?

板状から輪の形へと形を変えた風の円盤に、少女の目が輝きました。

もしや、手合わせの場で、初めての試みを試しているのでしょうか。

すっぽりと自身が入り込む大きさにまで円を広げると、少女は回転する風を頭上に持ち上げて輪の中に入りました。

掲げた腕を徐々に下げると風の輪も腕と一緒に下りて来ます。

さらに風の形状が変わって、少女は土気色の風の中に囲まれてしまいました。

「・・・ふひっ。・・・出来た」

驚きと困惑に硬直している私を他所に、満足したのか笑みを浮かべていますね。

そういえば、この少女は相当に凶悪な方法で10数人もの敵兵を殺したのでしたか。

そう考えると、可憐な笑みも、とても邪悪に見えてきますね。

ヒュオオオオオ! と、唸る激しい風の渦に煽られた少女の銀髪が、意志を持った生き物のように泳いでいます。

「・・・いつでも良いよ!」

「始め!」

「えっ!? あ。はっ!」

騒音に負けないようにか、準備が終わったと大声を張り上げた少女にアンリカ姉様が応えて、模擬戦が始まりました。私もボーっとしている場合では有りませんね。

風の壁に包まれた少女は動く気は無い様子です。

何かを飛ばしてくる恐れも有るので油断できませんが、先手必勝です。

「はあっ!!」

一撃で勝負を決めるつもりで一気呵成に接近し、渾身の力を込めて袈裟懸けに斬り下ろしました。

「―――っ!?」

まるで固い岩を叩いたかのようなガツンと重い衝撃が剣先から柄に伝わり、私の剣は、剣先どころか振り下ろした両腕ごと弾かれました。

目を瞠った私は息を飲みます。

これは・・・防御術式なのでしょうか?

風の防御術式に斬りつけた経験は初めてではありませんが、確たる形を持たない風の性質上、風の術式は柔らかく受け止められたり逸らされたりすることは有っても、斬りつけた側が体勢を崩されるほどの衝撃を返されることなど有りませんでした。

地面の土を取り込んだことで、強固な防御術式に用いられる土の性質を引き継いでいるのかも知れません。

風に土が混じるだけで、これほどまでに固くなるなんて。

しかし、風は風です。

形が無く、厚みが一定ではない風なら、薄くなる部分がどこかに有るはずです。

気持ちを改めて剣の柄をグッと握り直しました。

じっと見ているだけの少女に動く意思は無いと判断して間合いを詰め、足を止めた私は全力で剣を振り始めました。

ガキン! ゴツン! と、固くて重い衝撃が私の両手に響いてきます。

剣術の稽古を始めた当時に使っていた 木人(もくじん) に斬りつけている気分になりながらも、私は剣を振り続けます。

木人とは、太い木の杭を人間に見立てた標的ですね。

地面に深く打ち付けられた杭は、当然のことながら動きませんし反撃もしません。

剣先が当たると壁の厚みが揺らいで部分的に薄くなる気はするのに、何度斬っても壁を破れないことに苛立ちが募ってきます。

「・・・んー。もうちょっとかな」

じっと観察する目でこちらを見ている少女には、手合わせ中の 相手(わたし) ではなく風しか見えていない様子です。

この子は一体、何を考えているのですか!?

私など眼中に無いように見えて、すごくムカつきます!

何やら風の厚みを変えたりと試行錯誤しているようですが、それ、模擬戦の最中にすることでは有りませんからね!?

そろそろ手に残った衝撃の痺れが辛くなってきた頃、風の渦の中に立つ少女と目が合いました。

「・・・ヨシ」

納得したように一つ頷いた少女は、私に向かって笑みを浮かべました。

私の背筋にゾクリと寒気が走ります。

あ。これ、ヤバいヤツですね。

本能的なものか、私の悪寒は当たることが多いのです。

警戒心は一瞬で最高域へ達しましたが、どう対処すべきか迷いました。

何せ、初めて見る術式で、少女は少女で何を考えているか分からないのですから。

「思いもよらない術式の使い方をする」という姉様のお言葉が脳裏を走ります。

ゆらりと風の壁が動きました。

「・・・行くよー!」

「えっ!?」

チリチリと訓練場の地面を削る風の壁が迫って来て、私の顔が引き攣りました。

大きく飛び退いて避けたら、少女は全速力で追い掛けてきます。