作品タイトル不明
覚悟と決意 ⑪ ※アリアナ面
気を取り直したアンリカ姉様が口を開きました。
「すでに聞いている者も居ると思うが、“白焔”の後継者に指名されたフィオレ様だ。この意味が分からん者は居ないな?」
「「「「「はっ!」」」」」
これが私たちの主君ですか・・・。
溜息が漏れそうになるのを堪えただけでも私は自分を褒めて良いのではないでしょうか。
多少、自分の目が険しくなっている自覚は有りますが、このぐらいは構わないでしょう。
すぅっと顔色が冷めた少女は、また少し思案する仕草を見せました。
「フィオレ様」
「・・・はい」
一つ、深呼吸して、さらに一歩前へ出ます。
順に一人ひとりと目を合わせて私たち全員の顔を見回して、少女は口を開きました。
「・・・フィオレです」
「「「「「・・・・・」」」」」
それだけですか?
そう思ったのは、私だけでは無かったはずです。
誰もが無言のまま、間が開きました。
先ほどまでの狼狽え振りと打って変わって、落ち着いて私たちの目を見返して来ます。
へえ? なかなかに肝は据わっているのでしょうか。
私は口を開きました。
「フィオレ様。宜しいでしょうか」
「・・・何?」
まるで動じた様子が無い少女と目を合わせます。
「お手合わせ願っても?」
「・・・良いよ」
即答ですね。手合わせの意味が分かっていないのでしょうか?
いいえ。そんな様子では無さそうですね。
「ちょっ! フィオレ!?」
「ルナリア。黙っていろ」
「でも、叔母様!」
「黙っていろと言った。何度も言わせるな」
顔色を変えているルナリア様を見もせずにフレイア様は却下されました。
エゼリア様たちもシェリア様も止めに入るご様子は有りませんね。
この子・・・、この状況を予想していたのでしょうか?
腰に佩いた訓練用の鉄剣の柄を撫でながら、私は首を傾げました。
「宜しいのですか?」
「・・・遅かれ早かれ、だよね? なら、早い方が、面倒がない」
「そうですか」
良いですね。
この度胸の据わり方は好ましいです。
「フィオレ様。どうぞ」
「・・・ありがとう」
アンリカ姉様から何かを握らされた少女は、ニコリと笑いました。
表情の乏しい子かと思ったのですが、ああいう顔で笑うのですね
歳の差を考えれば大人げないと思いますが、手加減をする気は有りませんよ。
まだ私も成人を迎えていませんけれどもね。
「・・・お母様。・・・良い?」
「構わんとも」
少女が振り向いて問えば、面白そうに目が笑っているフレイア様は一つ頷いた。
先導してトコトコと広い場所まで移動するので、私は黙って付いて来ました。
立会人を務めてくださるらしいアンリカ姉様も一緒に移動してきます。
5メテルほどの距離を空けて、私と少女は向かい合いました。
「武器は使わないのですか?」
「・・・まだ教わって無いし」
「そうですか」
私が柄を握って剣を鞘から抜くのに併せて、緩く握った拳を目の高さに掲げた少女は風の魔法術式を発動したようです。
私と言葉を交わしていても、少女が翳した拳の先には小さな風の塊が発生しました。
「姉様から聞いてはいましたが、本当に無詠唱で術式を使うのですね」
「・・・うん」
気になったので、昨夜、アンリカ姉様に、どんな子なのかと問うた答えが、「強いわよ」と言った端的なものでした。
思いもよらない発想で術式を使う、と。
興味深いですね。
これで魔法を教わり始めて1週間も経っていないと言うのだから、フレイア様が惚れ込むのも無理は無いのかも知れません。
それにしても、開始の合図が出ませんね。
速度を上げた風は目に見えるほど密度を増し、円盤状に大きく成長して唸りを上げ始めています。
これでもまだ準備段階ということでしょうか?
面白そうにしているアンリカ姉様は見守る体勢を変えていないので、そうなのでしょう。
何を考えたのか、徐に少女が風の円盤を地面に押し付けると、魔獣の威嚇声のような聞き慣れない激しい音が広場に響きました。
ギョッとした私は目を剥きました。
円盤が触れた地面に深い斬撃痕が刻まれています。
意味が分からないのですが、音を聞いただけでも、何やら危険な気配だけはひしひしと伝わって来ますね。
触れただけで斬り刻まれるなんて何の冗談でしょうか。
何ですか? これ。
土が混じって色を変えた風の円盤は肥大して、すでに少女の背丈よりも大きくなっています。
初めて見る常識から外れた魔法術式の使い方を見せられて、困惑に耐えきれず私は口を開きました。