作品タイトル不明
覚悟と決意 ⑧ ※アリアナ面
「しっかり務めて来なさい! アリアナ!」
「ありがとう、母様! 行ってきます!」
昨日の午後、御当主・フレイア様の側近を務めるアンリカ姉様を通じて突然の召集が掛かり、私たち女性騎士候補者はバタバタとレティアの町へと向かいました。
母様が用意してくれた馬を駆けさせて、私たちピーシス家に連なる者にとって総本家とも言えるウォーレス家の領主館に到着したのは日暮れ直前です。
緊急召集など、辺境地帯の最前線に暮らす私たちにとっては日常茶飯ですから、誰も不満を零すこと無く、出陣の身支度を済ませた私たちは 恙(つつが) なく集合し、ピーシス領を出立しました。
女性騎士として騎士団に勤めることを目指す入団見込み者は、私を含めて10人です。
私の他、数人は来春の騎士団入団選考に挑む予定でしたが、残りの者には、まだ剣技を習い始めたばかりの者も居ます。
聞けば、先日、ウォーレス御本家のルナリア様がご無事に帰還されると同時に、御当主様が“白焔”の後継者をお決めになられたとか、何でも、御当主様は養女を取られるとか。
何が起こるか大体の予想は付きますが、大丈夫でしょうか・・・。
「皆、ご苦労。急な召集だが、必要とされたことを誇れ」
「「「「「はっ」」」」」
レティアの領主館で私たちを出迎えてくださったのは、御当主様の側近筆頭を務められているエゼリア様と、私の実姉であるアンリカ姉様です。
女中の服装で腰に剣を佩いていますが、一流の騎士であるお二人の姿は実に堂々としたものですね。
他領からの客人や領民が怖がって領主館に近付きたがらないせいで、姉様たちはこんな格好をさせられるようになったとか。
正統な誇り高き騎士が女中の服装をさせられるなど、他家では考えられないかも知れませんが、エゼリア様もアンリカ姉様も些事を気にされる方では有りませんからね。
主君である御当主様ご自身もドレスで着飾るような方では有りませんし。
「アリアナ。領地の様子はどうでしたか?」
「特に大きな問題は起こっておらず、平穏そのものです」
「そうですか」
安心したご様子の姉様が表情を和らげました。
お仕事中の姉様は格好いいですね。
家では、だらしないですが。
我が家はピーシス家傍系の騎士爵家です。
小さいながらも、本家であるピーシス家の領地の一部を我が家の領地として賜っているので、本来であれば、お父様は領地を治めて経営する必要が有るのですけれどね。
カリーク公王国のクソ野郎どもとの防衛戦や警戒態勢が長く続いたせいで、父様は長らく領地を空けていることが当たり前になっており、代官を務めていたお母様も忙しく、姉様と私は10歳以上も歳が離れています。
遠縁とはいえ我が家もウォーレス血族の末席ですし、本家に仕え、総本家兵力の一翼を担うのは当然の義務ですから、よくあることです。
まあ、現実問題として現役騎士の父様よりも元・女性騎士の母様の方が強いですし、姉様が不在でも、私は母様に手ずから鍛えて頂いていたので、何の問題も有りません。
我が家の末子である弟のアイオスと姉様は16歳も離れていますから、たまにしか家へお帰りにならない姉様が、弟と言うよりもアイオスを我が子のような可愛がり方で接するのを、よく羨ましく思ったものです。
お仕事中で凛々しい姉様と、領へお帰りになったときの全力でだらけている姉様の落差は激しいですが、長年、ご当主様の補佐を務めている姉様は、私たち家族の誇りです。
私が物心ついた頃には、すでに姉様は次期当主に決まったフレイア様の側近として召し上げられて居ましたから、年に数度しかお帰りにならない姉様が再びお出掛けになられるときには、私も子供の頃は、よく泣いて困らせたものです。
私も成人すればピーシス家騎士団の一員としてウォーレス家に出仕して、ルナリア様のお傍に就くものだと疑っていなかったのですが、先日、マルキオ様の側近を務めている父様が突然お帰りになって、フレイア様が養女を迎えられたことを聞かされました。
ルナリア様に仕えることになるのか、それとも、養女の方に仕えることになるのか。
私たち女性騎士候補者はルナリア様の側近として務めるものと思っていましたから、正直、困惑が無いと言えば噓になります。
突然のことで困惑はしていても、私たち傍系は主家で有るピーシス家当主に仕えるのが本来の在り方ですから、養女の方に仕えること自体に否やは有りません。
本家の当代ご当主様であるフレイア様が、いつまで経っても婿をお迎えにならないので、父様も母様も、やきもきしていらしたようですが、まだお若いのに、まさか、ご結婚なさらないまま養女をお迎えになられるとは。
先代ご当主様の奥方になられたシェリア様の護衛を務めていたという母様は、平然と受け入れていましたが、私の心中は複雑でした。
我らウォーレス血族において、100年に一人の天才と大陸全土に名を馳せるフレイア様は別格のお方です。誰よりも強く、王都のモヤシ学者などよりも遥かに賢く、凛とした美しさを兼ね備える、ウォーレスの女を見事に体現された、血族の象徴のような女性です。
そのフレイア様が一も二も無く迎えられたという養女。
まだ幼い上に、異国人だと聞いています。
しかも、出自が分からない平民?
僅か5歳にして初陣を果たし、多くのムーア兵を倒してルナリア様を守ったとは聞いていますが、ちょっと、ムカつきますね。
まだ会ったことも無い少女を相手に何がムカつくのか自分でもよく分かっていませんが、フレイア様の息女を名乗って無様を晒すような方であれば許せそうにありません。
「追って、ご当主様からお言葉が有るだろうが、ご当主様が“白焔”の後継者を定められた。お前たちは、騎士団の一員であると同時に、将来の次期当主様の側近に就くことを求められるだろう。心して置け」
デキる女の空気を全身から放っているエゼリア様から告げられたのは、父様から事前に聞いていた通りの話でした。
他の女性騎士候補者たちも事前に聞かされていたのか、特に反応は無いですね。
私たちを招集なさった御当主様にお目通りするのは、今日はもう遅いから明朝に回されることになっている、とのことでした。
「日が暮れたから」とお目通りが延期されるということは、「そういうこと」でしょう。