軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟と決意 ⑥

「姉様から聞いてはいましたが、本当に無詠唱で術式を使うのですね」

「・・・うん」

目を瞠るアリアナさんに軽く返事しながら魔石の魔力を押し出す力を強めると、私が翳した拳の先に蟠る風の回転刃が唸りを高くする。

遠慮は要らないらしいから、と、気兼ねなく魔力を注ぎ込めば、速度を上げた風は目に見えるほど密度を増して、周囲の地表からも空気を吸い上げて砂埃を舞い上げ始めている。

みんなから離れたのは安全のためでもあるけれど、魔石を使っている様子を王都から来たテレサの騎士様たちから見えにくくするためでも有るんだよね。

どんな情報も知らなければ軋轢は生まない。

興味深そうに私を見ているアリアナさんの前で私が回転刃を地面に押し付けると、激しい擦過音が厩舎前に響いてアリアナさんが顔色を変えた。

全力でやれ、って、お師様は言ったからね?

悪いけど、本気でやる。

研磨剤を多めに取り込んだから、強く保持しないと魔法が崩壊しちゃいそう。

どんどん魔石から魔力を押し出して風に注ぎ込むと、研磨剤が加わって色を変えた回転刃は肥大して私の背丈よりも大きくなる。

おお、魔力保有量が増えてるって言われたけれど、魔力が多いと魔法を使うのがすごく楽になるんだね。

何度も使っているから、慣れの方が大きいのかな?

魔法の維持は意識しなくても出来ているから、形状を変える作業に集中できそうだよ。

もの凄く警戒しているアリアナさんが困惑に耐えきれず口を開いた。

「ふぃ、フィオレ様・・・。それは?」

「・・・気にしなくて良い」

「気にしますよ!」

「・・・敵に手の内を教えたりしないよね?」

「そ、それはそうですね・・・」

出来るかな? と、思ってはいたけれど、イメージが大事、と、自分に言い聞かせて、カッターの形状を成形する。

アスファルトカッターのイメージから円盤状になってしまっていた回転刃を、ダンボール箱送風機のイメージに戻すように意識すると円盤の真ん中に大きな穴か開いてドーナツ状になった。

行けるね・・・。

すっぽりと私が入り込む大きさにまでドーナツの穴を広げると風の輪っかを横向きに寝かせて、頭上に持ち上げると輪っかの中に入る。

掲げた腕を徐々に下げるとドーナツも腕と一緒に下りて来る。

直径2メートルも有る浮き輪の中に入っている感じだけど、ここからだよ。

浮き輪を縦に広げるように引き伸ばすと、私はカッターで出来た筒の中に囲まれる。

通常のカッターが縦回転で、この円筒形の風は横回転でイメージを固定だね。

薄く引き伸ばされた風の筒は、私の爪先から背丈の1メートル上までをすっぽりと隠す高さにまで成長した。

風の向きがどう回転しているかの違いだけだから、たぶん、カッターの応用で出来るだろうと考えては居たんだよね。

あんぐりとアリアナさんが口を開けて居るけれど、気にしない。

「・・・ふひっ。・・・出来た」

私の口角が引き上がる。

頭の上と足元が開いているけれど、水平方向は全方位防御のバリアーだよ。

ヒュオオオオオ! と、周囲から激しい風の音が聞こえて、風に煽られた髪が宙に泳ぐ。

「・・・いつでも良いよ!」

「始め!」

「えっ!? あ。はっ!」

風の音に負けないように準備が整ったこと大声で告げると、アンリカさんの大声が間髪入れずに応えて、模擬戦が始まった。

我に返ったアリアナさんが警戒しながらも斬り付けてくる。

研磨剤を含んで重くなった風の壁は鋭く叩きつけられた剣先を易々と弾いた。

一瞬、愕然とした心情を表に出したアリアナさんは、表情を改めて剣を振り始める。

カッターで金属鎧を斬れるのなら、さらに摩擦力を上げれば攻撃を弾くことも出来るんじゃ無いかと予想していたんだけれど、正解だったね。

形状変更を終えて魔法の維持の他にすることが無くなった私は、じっと観察する。

「・・・んー。もうちょっとかな」

剣が当たると壁の厚みが揺らいで部分的に薄くなる気がして、さらに魔力を注ぎ込む。

風を分厚くすると視認性が悪くなるね。

ぎゅっと固める感じで密度を高くしてみては、どうだろう?

ダメか。研磨剤の密度が上がると視認性は余計に悪くなった。

アリアナさんが斬り付けてくる度に、風の揺らぎを見ながら色々と調整を試してみる。

ふむふむ?

縦斬りや刺突は問題無く弾いているけれど、風の旋回方向と同じ水平斬りだと幾らか揺らぎが大きいね。

女性のアリアナさんよりも体が大きい男性の騎士様が大きな剣で斬り付けてきたら、突破される恐れが有るかも。

防御力の向上は今後の課題かなあ。

頭の上と足元の防御も考えなきゃ。

最終目標は“白焔”でも防ぎきる感じで。

「・・・ヨシ」

思考から復帰した私は一つ頷く。

ありがとうね。アリアナさん。

私の防御力がアリアナさんの攻撃力を上回っているので落ち着いて検証できたよ。

遠慮どころかバリアーを突破できないことが悔しくなったらしいアリアナさんは、ムキになって斬り付けてきている。

このままアリアナさんのスタミナ切れを待つのも芸が無いね?