作品タイトル不明
覚悟と決意 ③
「それで、今日の予定は?」
「朝メシを食ったら騎士見習い候補と顔合わせをして、そのまま森で検証だ。レティアへ戻ってからは食肉加工場で干し肉製造の教導を行う。館へ帰った後は訓練だな」
「昼までに戻れたら、昼食を共に摂るか」
「良かろう」
上手にフォークの背に煮豆を載せて口へと運びながら、お母様はハロルド様に答える。
お婆様の前だからか、今朝のお母様は襟元にキッチリとナプキンを挟み、スッと背筋を伸ばして上品にカトラリーを操っている。言葉遣いは、いつも通りだけどね。
お行儀良くできるお母様の姿にも驚くけれど、お母様にも怖いものが有るのか、ってことのほうが遙かに驚きが大きいよね。
あれこれと給仕してくれているマキアナさんたちの姿をチラリと見たハロルド様は、お母様へと目を戻す。
「エゼリアたちは?」
「今、訓練場で仕上がり具合を確認している」
お上品に食べるのが面倒くさくなってきたのか、お母様のフォークで突き刺されているベーコンの切れ端が、段々と大きな欠片になってきている。
小さく肩を竦めたお婆様は、お上品さに手を抜く様子は無い。
「今すぐに使えなくても良いでしょうに。主君と共に学べば良いのです」
「分かっているさ。ただ、力量は把握しておく必要が有る」
「それもそうね」
あっさりと引き下がったね。
そう言えば、お婆様も騎乗服姿ってことは、お婆様も一緒に森へ行くのかな?
ん?
視線を感じると思ったら、ハロルド様が心配そうに私を見ていた。
「しかし、大丈夫なのか?」
「大丈夫だろう」
「・・・私?」
お母様も私を見て、ニヤリと笑う。
「手加減は要らんから。全力でやれ」
「・・・? はい」
昨日もアンリカさんに似たようなことを言われた気がするね。
何か、心配されるようなことが起こるってことかな?
しかも、口にしたのがアンリカさんとお母様と来れば、バイオレンス的な何かに関係するものとしか思えないんだけれど、教える気は無さそうだから警戒しておこう。
つつがなく朝食を終えた私たちは、今日は見送りに出られないと情けなく眉尻を下げるハロルド様に出立のご挨拶を告げて、領主館の裏手に有る厩舎へと移動する。
訓練場ほどでは無いけど、この厩舎の前も、少しばかりの運動ぐらいは出来る広さが有るんだよね。
先頭に立つお母様とお婆様に率いられて、私たち3人とレーテさんを挟んだ後ろには、マキアナさん、イディアさん、トリアさんの3人が続く。
マキアナさんたちの後ろにはテレサの護衛の騎士様たちがぞろぞろと続いているから、大名行列みたいだよね。
お母様たちの後ろに付いて歩くと、厩舎の前でエゼリアさんたちの前に女の子たちが整列しているのが見えてきた。
2、4、6、8、全部で10人だね。
動物っぽい耳が頭上に付いた獣人族の子が2人混じっている。
獣人族は身体能力が高いそうで、騎士団にも獣人族の騎士様は、ちらほら居るしね。
年齢的には、20才ぐらいに見える子が3人と、高校生ぐらいに見える子が4人と、中学生ぐらいに見える子が3人で、どう見ても私たち3人よりも年上。
「見える」っていうのは、こっちの世界の人たちの年齢を見分ける私の目がアテにならないからだよ。
地球だったらアテになったのかと言えば、日本人よりも発育が良い欧米人の年齢なんて、ぜんぜん見分けられなかったけれどね。
ルナリアとテレサの例に当て嵌めて考えるなら、たぶん、彼女たちも見た目の歳より数歳は若いんじゃないかな。
女の子たちはみんな、緊張した表情に見えるね。
お母様の姿に真っ先に気付いたアンリカさんに告げられ、エゼリアさんたちはお母様に場所を譲って敬礼した。
編み上げブーツの踵がカツンと鳴って、いつものメイド服姿のエゼリアさんたちの大きな胸がポヨンと揺れる。
この、固めた右拳を胸に当てる敬礼って、格好良いんだよ。
姿勢が良くてスタイルが良い美人さんばかりだから、すごく映える。
エゼリアさんたちは立っている場所がバラバラで、女の子たちのように整列はしていないけれど、キリッとしていると猛者っぽい風格が有るんだよね。
「皆、ご苦労」
「「「「「はっ!」」」」」
整列している女の子たちも敬礼でお母様に応える。
エゼリアさんたちと模擬戦でもしていたのか、女の子たちは革製と思われる要所だけを覆う防具を身に付けていて、上気した顔や衣服は土で汚れて汗ばんでいる。
女の子たちがお母様へ向ける目は、憧憬、尊敬、畏怖、かな。
その場に立っているだけで、お母様の存在感が凄い。
「どうだ?」
お母様がエゼリアさんに問うた一言に、女の子たちの表情に緊張が走る。
「はっ。数名は及第点かと」
「そうか」
採点基準は騎士団入団テストの水準なのかな?
それ以上の言葉が続かなかったことで、ホッとした心情が垣間見えた子の方が多いね。
エゼリアさんが女の子たちに向き直る。