作品タイトル不明
覚悟と決意 ②
「では、ルナリア様と殿下を起こして着替えましょうか」
「・・・はい」
そういえば、「今日は起こしに来るのが随分と早いんだな」と思ったら、今日はお師様も一緒に森へ行く予定で、いつもより早く起きるように言われていたことを思い出した。
イディアさんと一緒にルナリアとテレサを揺り起こしたら、目を擦り終わった二人ともから、なぜか頭を撫でられた。
用意して貰った洗面器と水差しの水で顔を洗っている内に、トリアさんとマキアナさんも来て、乗馬服に着替えて髪を梳かして貰ったら、みんな揃って食堂へと移動する。
「おはよう。三人とも」
すでにテーブルに着いているお師様とシェリア様も騎乗服姿だ。
ハロルド様は睡眠不足なのか朝なのに疲れた顔をしていて、お爺様たちの姿は無い。
「おはよう!」
「おはようございます。皆様」
「・・・おは、―――うっ!」
私も続いて挨拶しようとして、お師様とシェリア様の視線が私に集中していることに気付いて言葉が止まる。
ど、どうしよう・・・!?
昨日のあれって、現実だったの!?
私の妄想じゃないよね!?
そう言えば、夜中に目が覚めて、このことを思い出そうとしていたはずなのに、ボーッと空を見てて完全に忘れてた!
私の勘違いだったら、二度とお師様たちの顔を見られないよ!
「・・・う、ぅぅぅ・・・」
私がモゴモゴしていたら、お師様たちだけじゃなく、面白そうに見ているルナリアたちや微笑ましそうに見ているイディアさんたちの視線までもが私に集中している。
お師様とシェリア様は何も言わず、期待感が籠もったような目で私が挨拶するのを待ってくれている。
急激に顔が熱くなって、頭に血が上っているのがありありと自覚できる。
も、もう覚悟を決めるしかない!
ぎゅっと目を瞑って、お辞儀する。
「・・・お、おはようございます。・・・お、お母様、お婆様」
「おう。おはよう、フィオレ」
「おはよう。良く出来ましたね」
お師―――、お母様とお婆様は柔らかく笑ってくれて、ハロルド様も目を細めて私たちの遣り取りを見ている。
良かった! 夢じゃ無かった!
「・・・ふぁぁ」
足腰の力が抜けて座り込みそうになったら、両脇の下にサッと手を差し込まれて、トリアさんにヒョイと持ち上げられて椅子の上へと設置された。
うぅ・・・、恥ずかしい。私って、伸びた猫みたいに、気軽に持ち運ばれることが多い気がする。
何事も無かったように食堂内を見回したルナリアが席に着きながら首を傾げる。
「叔母様。お爺様たちは?」
「牧場の視察だ。産気付いた牝馬が居るらしくてな」
「少し遅くない?」
ぱちくりと瞬くルナリアをテレサが見る。
「何が遅いのですか?」
「・・・馬の出産期は柔らかい牧草が豊富な春から夏の間、だったはず」
「そうだ。季節外れの出産は母馬の体に障ることもあるからな。場合によっては力尽くで仔を引っ張り出してやる必要があるんだ」
代わりに答えた私に頷いたお母様が補足する。
私がなぜそんな豆知識を持っているのかと言うと、馬、美味しそう、と小学生の頃に図書館のパソコンで、インターネットで調べたことが有るからだよ。
仔の方が、お肉が柔らかくて美味しいのは定番だから、生態の把握は基本中の基本。
野生の馬は日本に居ないと知って、獲るのは諦めたけどね。
テレサが首を傾げる。
「それで前領主様が自ら?」
私もテレサの疑問に同意。
「良い馬には多くの仔を生んで貰いたいが、母馬が潰れてしまっては元も子もない。領主一族にとっても良馬の出産は一大事なのだよ」
「ウォーレス領は小麦や果実だけでなく軍馬の生産も盛んですものね」
ハロルド様の説明でテレサは理解したみたいだね。
産業的な意味で心配になった経営陣の重役が視察に行ったってことかな?
広大な小麦畑は私も見たし、ウォーレス家は紋章にリンゴの図柄が入っているぐらいだから、リンゴも名産なんだろうね。
一度、市場を覗いて見たいなあ。
テレサの答えにお婆様が満足そうに頷いている。
「よく学んでいらっしゃるようですわね」
「わたくしなど、まだまだですわ」
「何事も積み重ねですよ。詰め込んで覚えたところで身には付きません」
「心しておきます」
テレサはニッコリと笑う。
これで5才だよ。
如才ないテレサの受け答えに戦慄を覚える。
知識も理解力も有るし、テレサはルナリア以上に頭が良いんじゃないかな。
お婆様って先生っぽいなあ、なんて、カトラリーで切り分けたベーコンの欠片をモグモグしながらテレサたちの遣り取りを眺めていたら、牧場の話題が終わったと見たのか、ハロルド様がお母様へと顔を向けた。