軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟と決意 ①

「・・・・・うぅぅぅ」

目が覚めたら、ベッドの中だった。

くぅぅ、とお腹が鳴る。

夜中、って言うか、夜も明けていない早朝っぽいんだけど、お腹が空いて目が覚めた感じかなあ。

薄らと見える暗がりの中には毛布の下の盛り上がりが二つ有って、静かな寝息と僅かに上下するものの正体はテレサとルナリアなんだろうな、と予想がつく。

今日は私が真ん中に寝ていて両脇を挟まれている状態だから、どちらかを乗り越えては目を覚ましちゃうかな。

もぞもぞと毛布の中へ潜って、二人を起こさないように毛布の足元からベッドを這い出して、壁際の小さなテーブルに常備されている水差しからカップに水を注いで一気に飲む。

喉の渇きと一緒に空腹感が和らいで、一息つく。

いつ寝たのか覚えていないや・・・。

寝る前に何が有ったのか、定かでは無い記憶を手繰ってみる。

カップに水のお代わりを注ぎながら、順を追って思い返す。

ええっと? 昨日は森へ狩りに行って、倒れて、運動して、お爺様たちとの話し合いをしたんだよね。

話し合いが終わったと思ったら、シェリア様が来て・・・。

そうだ! シェリア様! ハッと思い出して、カップを取り落としそうになった。

確か、シェリア様に“お婆様”だと言われて、お師様を“お母様”と呼べって・・・。

そこまで考えて、首を傾げる。

あれ? あれって現実なの? 夢なんじゃない?

まるで実感が無いんだけれど、私の妄想だったりしたら、もの凄く痛い子だよ。

瞼が腫れぼったいのは、単なる寝起きだから、じゃ無いとは思うんだけれどなあ。

拙い・・・。自分の記憶に自信が無い。

お師様と―――、お、お母様と会ったら、どんな顔をすれば良いんだろう?

本当に私なんかが“お母様”なんて呼んでも良いんだろうか・・・?

今の私って、正体不明の浮浪児で、外国人で、転生者だよ?

何このファンタジー設定?

ちびちびと、唇を濡らすように水を飲む。

そりゃあ、まあ、 育児放棄(ネグレクト) で育った私だって、同年代の話題に付いていくために、ライトノベルや漫画の数冊ぐらいは読んだことは有るよ。

学校の図書室に置いてあったものだけれど、2~3時間も有れば読破できる本だしね。

そんな都合良く大成できたり生き延びられたら苦労しないよ、って失笑しながら読んだ。

私の幼少期から青春時代は生きるか死ぬかのサバイバル生活だったからね。

就職してからも、唯一の肉親がアレな母親だったから、アパートひとつ借りるのにも頼れる保証人が居なくて苦労した。

母親なんてものに幻想も希望も持って居なかった私が、お師様には頼って甘えていた自覚は有るし、考えたつもりは無かったはずだったけれど、心のどこかで、お師様に母親の姿を求めていたのかも知れない。

お師様は、フレイア様は、強くて、賢くて、懐が深くて、優しくて、暖かくて・・・。

ああ、そうか。私にとって理想の母親の姿そのものだったんだ。

ぺたぺたと素足のまま窓際へと近付いて、カーテンの隙間から窓の外を見下ろす。

日本の窓ガラスほどの透明度が無く、歪みや気泡が散見できる板ガラスが、異国というか、異世界に自分が居ることを実感させるね。

日本製の板ガラスだと、こういう質感のガラスって大正時代の大正ガラスだっけ。

製法が洗練された機械生産じゃなく、一枚一枚、手作業で作って居たからだったはず。

窓ガラスの向こう側に見えるのは領主館の中庭で、小学校の運動場ほどもある石畳の広場になっていて、この建物が軍事施設だった頃の趣を色濃く遺している。

大昔は最前線の砦だったという領主館は、ヨーロッパにある古城のような歴史を感じさせる雰囲気を纏っていて、所々に点々と灯された常夜灯の魔法道具が幻想的な空気を際立たせている。

上へと視線を上げれば、領主館の屋根よりも高い空には、品質が低い窓ガラス越しでも明らかに分かるほどの見事な星空が瞬いていて、当然のことながら私が知る星座はただの一つも見つけられない。

黒に近い青色が徐々に明るさを増し、星が消えて白味を増した青色に塗り潰されていく。

「・・・ハッ!?」

ゴツい木製扉がノックされる音で我に返った。

返事を待たずに扉が開く。

「おはようございます、フィオレ様。・・・どうしたんですか?」

「・・・お、おはようございます」

良かった。びっくりしたけれど、カップの水は零さなかったみたい。

テレサかルナリアのどちらかがノックの音で身動ぎしたけれど、起きては来ない。

私たちを起こしに来たらしいイディアさんが首を傾げる。

「何してたんです?」

「・・・ほ、星を見てた」

「星ですか?」

私が居る窓際へ来てカーテンを引き開けたイディアさんは窓の外を見回して、何かに気付いたように私を見た。

「いつから見てたんですか?」

「・・・分からない。星が綺麗だと思って見てたら夜が明けてた」

私の前髪を手のひらで上げたイディアさんは、体を屈めて私のおでこに自分のおでこを当てた。

「んんー。お熱なんかは無さそうですね」

「・・・な、無いと思う」

そりゃあ、正気を疑われるよね。

星空が綺麗に見える未明から、完全に空が白んでいる日の出直前まで、ボーッと空を眺めていたんだから。

何やってんだろう? 私。