軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウォーレス領強化計画 ⑩

「フィオレちゃんも、ピーシス家の子女なら言葉遣いは正しくなさい」

「・・・は、はい・・・?」

私、何か間違った?

「お師様なんて呼ばずに、きちんと、“お母様”と呼びなさい」

「・・・・・へ?―――、ふぇっ!?」

一瞬、何を言われたのか、私の脳の処理能力を超えた。

バッとお師様を見たら、お師様と目が合った。

「あら?」

「ん?」

「む?」

「んん?」

順に伝播するように、シェリア様、お師様、お爺様、ルナリア、と、首を傾げる。

ハインズ様とハロルド様は、呆気に取られて半口が開いている。

エゼリアさんたちも驚きを隠せない様子で、目を瞠ってお師様を見ている。

あれぇ?

何かに気付いた様子のシェリア様が、困惑している私と目線の高さを合わせる。

「フィオレちゃん。貴女、自分の立場を正しく理解しているのかしら?」

「・・・た、正しく、とは、どういうことでしょうか」

「フレイアから、どう聞いているの?」

どう、って・・・?

お師様から言われたことって、一つだけだよね。

「・・・“白焔”を継げ、とだけ」

「そう。そうなのね。分かったわ」

優しく笑って私の頭を撫でたシェリア様は、すっくと立ち上がってお師様を睨み付ける。

「フレイア! どうして貴女は、大事なことまで雑にするの!」

「あー、いや。そのうち分かるだろうから、良いかと」

「良いわけが無いでしょう!」

一瞬、「しまった!」という表情を見せたお師様は、明後日の方向へ視線を彷徨わせる。

ああ。これ、何かを言い忘れていたヤツだね。

「あなたも!」

「お、おう」

タジタジになったお爺様の姿に、私はピーシス家の力関係を理解した。

大きな声を上げて、いくらかガスが抜けたのか、一段、低い声になったシェリア様は、ジロリと周囲を見回す。

ハインズ様とハロルド様はシェリア様と目を合わさずに乗り切る方針らしい。

「エゼリア、アンリカ。貴女たちも、後でお説教です」

「「ええ―――っ」」

「あら。不満かしら?」

「「め、滅相もございません!」」

座った目でニコリと笑われて、エゼリアさんたちは、即時、無条件降伏した。

もう一度、私の前へ膝を突いて目線をしっかりと合わせたシェリア様は、私の両肩へと手を置く。

「良い? フィオレちゃん。貴女はフレイアの 義娘(むすめ) になったの」

「・・・娘に?」

それって、どういう?

シェリア様の張りのある美声は耳に聞こえているのに、内容が頭に入って来ない。

「“白焔”の術式を継ぐということは、“紅蓮”の術式を継ぐということなの。“紅蓮”の承継は、ピーシス家次期当主の絶対条件。ルナリア様がウォーレス家を継ぐように、貴女はピーシス家を継ぐのよ」

「・・・わ、私が、ですか?」

「フレイアが“白焔”の後継者を貴女に定めたということは、王国にとっても一大事で、だから、第三王女殿下が王家を代表して直々に貴女を見定めに来たのよ」

テレサを見ると、柔らかい笑みを浮かべているテレサが頷いた。

頭が上手く働かない私から両手を放し、シェリア様は目線を上げる。

「ワールター?」

「お、王宮への届け出は、アレイオス様宛に滞りなく送付しております」

「よろしい。アレイオス殿なら王宮貴族の妨害を撥ね除けられるわね」

緊張気味のワールターさんの報告に、シェリア様は満足そうに頷いた。

「アマリリア様は不在だけれど、社交界の方はミリアが上手く抑えるでしょう。フレイア、貴女からもミリアとアレイオス殿に文を送っておきなさい」

「分かっ―――、承知しました」

知らない名前がいくつも出て来て何の話をしているのか、さっぱり分からない。

咳払いに釣られて、私はお師様を見る。

「お前はルナリアの剣になるのだろう? ならば、何も矛盾しない。ウォーレスはリテルダニアの盾であり、ピーシスはウォーレスの剣だ。失業したくなければ、ウォーレスを、リテルダニアを護り抜けるだけ強くなれ」

私がピーシス家の子になって、ルナリアを、テレサを守る?

じわじわと私の頭に理解が染み込んでくる。

マルキオ様が「お爺様」と呼べと要求したときの照れくさそうな様子と、「お爺様」と呼ばれたときの嬉しそうな様子。

何度、要らないと言っても私の名前に「様」を付けて呼ぶエゼリアさんたち。

私が理解していなかったことでお師様を叱り飛ばしたシェリア様。

いつだって、私と真っ直ぐに向き合ってくれて、くだらない事でも疑問に答えてくれて、突拍子も無い私の我が儘を許してくれて、危険なときには守ってくれて、叱咤しながらも自由にさせてくれて、ずっと見守り続けてくれていた、私のお師様。

私はお師様の―――“お母様”の娘になったの?

よく分かっていなかったことが結びついて、私という形になる。

「・・・ルナリアが、ずっと一緒に居ろって言い続けてたのは、そういう・・・?」

「フィオレ、分かっていなかったのね」

ハインズ様に膝から下ろして貰ったルナリアに、ギュッと抱きしめられる。

そっか・・・。分かっていなかったのは、私だけだったのか。

「・・・お師様にとってのエゼリアさんたちみたいになれれば、って思ってた・・・」

「それは嬉しいですね」

「最高の褒め言葉です」

「フィオレ様なら、成れますよ」

ルナリアの肩越しに見えるエゼリアさんたちが、優しく笑っている。

ツンと鼻の奥が痛くなる。

胸が詰まって、上手く呼吸ができない。

「・・・おしさま・・・」

「母とは呼んでくれないのか?」

ダメだ・・・。お師様の姿が滲んで見えないや。

がんばって何とか声を絞り出さなきゃ。

「・・・お、おかあ・・さま・・・」

「おう」

耳元でお師様の―――、お母様の声が聞こえて、ルナリアごと強く抱きしめられた。

強いのに柔らかくて、いい匂いがして、すごく安心する。

「お前は泣き虫だな」

私は、わんわん泣いた・・・と思う。

実のところ、よく覚えていない。