軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウォーレス領強化計画 ⑨

「まったく・・・。フレイア、たまには帰ってきなさいな」

「おふ―――、お 義母(かあ) 様、今は忙しいんだ」

予想だけど、今、絶対に“お袋殿”って言いそうになったよね。

「お母様」と呼び直された鮮やかな金髪の華やかな美女は、お師様に答えるよりも先に、お師様の膝の上に設置されているテレサに目を留めて笑い掛けた。

見事にスルーした様子から、お師様の言い訳を聞く気は微塵も無いことが窺える。

「あら? あらあらあら。こちらのお嬢さんは、どちら様?」

「シェリア様、このような状態で失礼いたしますわ。アリストテレジア・リテルダニアと申します」

膝の上から下ろして貰えそうに無いと判断したのか、困ったように微笑むテレサは頭を下げる。

「あら。第3王女殿下でしたのね。お久しぶりですわ」

「以前にお会いしたことが?」

「ええ。殿下がご誕生になった数日後に王城で。大きくなられて感無量です」

「そうでしたのね。ありがとうございます」

「セリーナも 姪孫(てつそん) に会えると喜んでいましたわ」

ルナリアが「お婆様が・・・」と深刻そうな顔で呟いているところを見ると、セリーナ様という人はルナリアのお婆様だろうと想像は付く。何で警戒してるんだろう?

「大叔母様が? 体を痛めていらっしゃるとお聞きしましたが」

「腰痛ごときで、あのセリーナが大人しくなるものですか」

「大恋愛の末にウォーレス家へ嫁がれた方ですものね。お会いできるのが楽しみです」

あれ? てつそん? 大叔母様ってことは、テレサのお爺様かお婆様のご兄妹か何かだよね。

てことは、テレサとルナリアは 再従姉妹(はとこ) になるのか。

家系図で思い浮かべようとして、頭の中が混乱しそうだから早々に諦めた。

まあ、ウォーレス家と同等か、それ以上の血筋の方なのだろうと大雑把に把握した。

それにしても、お師様よりもお上品そうな方だけど、主家の大奥様を呼び捨てって、大丈夫なのだろうか?

誰も咎める様子が無いし、これはもう、お師様のお母様もお師様と「同じ人種」だと思った方が良いのではないだろうか。

貴族の人間関係はよく分からん。

奥様との恋愛結婚の話が出て照れくさかったのかハインズ様はそっぽを向いている。

談笑が一段落ついてテレサと微笑みを交わし会ったお師様のお母様―――シェリア様は、ハインズ様の膝の上に設置されているルナリアへと視線を移す。

「ルナリア様も、ご無事で何よりです」

「ありがとうございます。シェリア様」

ルナリアとも微笑み合ったシェリア様の目線が私へと移って来た。

「じゃあ、貴女がフィオレちゃんなのね」

「・・・は、はい」

ニッコリと笑っているけれど、見定められている気配をひしひしと感じる。

膝から下ろして欲しいなあ、と、お爺様のお顔を見上げたら、鋭くなったシェリア様の目がお爺様を 捕捉(ロックオン) した。

「あなた」

「お、おう」

一瞬で私とシェリア様を見比べたお爺様は、渋々と言った様子で私を床の上へと下ろしてくれた。

エゼリアさんたちに数日間で叩き込まれた渾身のカーテシーを、シェリア様の前で披露する。

「・・・フィオレと申します。お見知り置きを」

「良く出来ましたね」

優しく微笑んだシェリア様は、身を屈めて私と視線の高さを合わせてくださった。

それなりに歳を重ねていらっしゃるけれど、大人の色気が有って、もの凄い美人だよ。

ウォーレス家の血族って、一目で分かるよね。

ルナリアが大きくなったら、こうなるんだろうなってぐらい、顔立ちが似ている。

「私はシェリア・ピーシス。貴女のお婆様ですよ」

「・・・え、えっと。・・・お、お婆様?」

んん? この流れ、お爺様の時にも有った気が?

シェリア様は、上品に頬へ手を当てて首を振る。

「いつまで待ってもフレイアが連れ帰って来ないから、私のほうから会いに来ちゃったわ」

「西部国境が一段落したら帰るつもりだったさ。出陣前なのだから仕方が無かろう」

「ふむ・・・。あなた?」

目を逸らして言うお師様から、お爺様へ、ジロリと深緑色の瞳が向く。

「わ、儂は事が一段落するまでレティアを離れられん」

「来て良かったみたいね。貴女たちの一段落なんて、王国全土を制圧するまで終わらないでしょうに」

シェリア様は、深々と溜息を吐く。

「まだ、そこまでするつもりは無いのだが?」

「どうだか。フィオレちゃんは、フレイアみたいになってはダメよ?」

まだ、って何?

お師様、そのうち王国全土を制圧するの?

処置無しって感じで首を振ったシェリア様の目が私へと戻って来た。

こ、ここは、ダメ出しされたお師様を援護しておくべきか。

「・・・あの。・・・お師様は尊敬できる人で・・・」

私の一言で、シェリア様が、キッとお師様を睨んだ。

え!? な、なに!?

フォローするつもりが、私、何か地雷を踏んだ!?

「フレイア? 貴女、“お師様”なんて呼ばせているの?」

「ん。ああ・・・、まあ、本人が呼びやすい呼び方で良いんじゃないか?」

お師様の目が泳ぐ。

シェリア様の目が再び私に戻って来て、自然と背筋が伸びる。

穏やかな表情で私と目を合わせているけれど、有無を言わさぬ圧力がある。