作品タイトル不明
ウォーレス領強化計画 ⑧
「・・・要るよね?」
「要る。何が必要だ?」
即答だった。なんか、可愛いと思ってクスっと来ちゃったよ。
「・・・作業台と、包丁と、岩塩と、香草と、壺と、干し場・・・かな」
色々な味付けで作ったら喜んでくれるかなあ。
赤ワインに漬け込んで臭み消しと腐敗防止をしても良いんだけど、こっちの気候は空気が乾燥しているせいか、お塩と香草だけでも腐敗しなかったしなあ。
でも、ワインを使った方がお師様たちや騎士様たち大人の味覚には合うのかな?
胡椒も有れば使いたいけれど、有るんだろうか。
普段の食事でも香草を使っている料理ばかりだから、香辛料は入手しにくいのかも。
「どこか使える場所は有るか?」
「フレイア様。お待ちを」
すごく真剣な顔のお師様がエゼリアさんを見上げたら、エゼリアさんではなくディーナさんが手を挙げて、応接スペースの反対側を示した。
私も釣られて示された先を見たら、ノイエラさんが手を挙げている。
「騎士団にも欲しいと非常に強い要望が出ております」
「市井の加工場を用いて大々的に増産すべきでは?」
ノイエラさんにエレーナさんも加勢した。頷いたお師様の目が私へと移る。
「フィオレ自身が作る必要は無いな。フィオレ、加工職人にコツを教えてやれ」
「・・・ええ?」
私が作ってあげるつもりだったのに。個人的な私欲も有るけどね。
お師様が困ったように眉尻を下げる。
「不満か?」
「・・・失業したら干し肉を売って生活しようと思ってた。コツを教えたら売れなくなる」
「ぶははははは!」
お師様に困った顔をさせたくなくて正直に言ったら爆笑された。
「ちょっと、フィオレ!?」
「し、失業・・・」
何? ルナリアが怒るようなこと言ったっけ?
ワールターさんは、俯いて肩を震わせている。テレサは口元を隠しているけれど、明らかに目が笑っている。
何だろう? 私、おかしなこと言った?
「わっはっはっは! お前は逞しいのう!」
「諦めろ。領民に仕事を与えるのも我らの仕事だ」
ハインズ様にまで爆笑されて、マルキオお爺様には頭を撫でながら優しく諭された。
「フィオレ一人で需要を満たせるわけでも有るまいしな」
「せいぜい失業しないように励め」
微笑ましそうに見るハロルド様と、まだ笑いが収まらないお師様にも却下された。
何でぇ? 私は我が儘を通せる立場じゃ無いけれどさぁ。
「・・・うう。・・・はい」
「フレイア様。では?」
お師様が頷く。
「ノイエラ、エレーナ。明日の午後に使える加工場を当たっておいてやれ」
「はっ」
「手配いたします」
ノイエラさんたちが小さく頭を下げて了承を示している最中に、執務室の扉がノックされて静かに開いた。
「失礼いたします」
「どうした? マキアナ」
静々と入室してきたのは、赤味掛かった金髪の美人さん。
エゼリアさんたちの中で一番の常識人と「自称」するマキアナさんだった。
エゼリアさんたちに言わせると、刃物が大好きなマキアナさんは切り刻むのが大好きなアブナイ女って人物評価なんだけどね。
見事なまでの澄まし顔でマキアナさんは一礼して告げる。
「フレイア様、マルキオ様。“お袋様”がお見えになっております」
「げっ」
「うぐっ」
お師様たちの顔色が変わる。お袋様?
マルキオお爺様を“親父殿”と呼ぶお師様の言動から察するに、お師様のお母様だよね?
なんで、お母様が来て、普段、動じる姿を見せないお二人が動揺するの?
「・・・お師様? お爺様?」
状況がよく分からなくて首を傾げていたら、また別の女声が聞こえた。
「“お袋様”とは誰のことかしら?」
「ぴっ!」
ポンと肩に置かれた手に、マキアナさんが飛び上がる。
足音も無くマキアナさんの背後に立った女性は、やれやれ、と首を振った。