作品タイトル不明
ウォーレス領強化計画 ⑤
「殿下たち3人の魔力保有量が増えていることに加えて、体力の増加、エゼリアたち3人にも明らかな魔力の活性化が見られた」
森で私たち子供3人が倒れた事件の総括を報告するため、部屋の主よりも偉そうにソファーの真ん中にデンと座っているお師様とその隣に部屋の主であるハロルド様、ハロルド様の斜め後ろの定位置にワールターさん、お師様たちの向かい側のソファーにハインズ様とマルキオお爺様、子供たち3人、私たちと同じ獲物の血を飲んだエゼリアさんたち3人と、事情聴取の当事者には入ってないお世話係として女性騎士の中からノイエラさんとエレーナさんの2人が領主執務室に集まっている。
お師様から事情聴取の結果を統合した結論が告げられた後は、私たち当事者が補足的な質問に答えて、共通認識を摺り合わせるのだ。
大人10人と子供3人が1ヶ所に集まれば、いくら広い領主執務室とは言え、3人掛けのソファーが向かい合わせになった応接スペースの周辺は、人で一杯になる。
運動後の洗浄で丸洗いされた私たちは、騎乗服ではなくドレスに着替えさせられた。
いくらかの人口密集の緩和を図ってのことか、私とルナリアはお爺様たちの膝の上で、テレサはお師様の膝の上に設置されていて、エゼリアさんたち3人は向かい合ったソファーの側面に横に並んでいて、ノイエラさんとエレーナさんはエゼリアさんたちの向かい側に整列している。
茶色掛かった金色の髪を緩い三つ編みにしているノイエラさんと緑色掛かった金髪をショートカットボブにしているエレーナさんは、エゼリアさんたちよりも何歳か年下なのだそうで、いつも一歩引いた感じでエゼリアさんたちの補佐をしている美人さんたちだ。
のほほんとして見えるノイエラさんは、実は女性騎士8人の中でもディーナさんと並ぶ力持ちなのだそうで、トゲトゲの棘が付いた 棍(メイス) で楽しそうに敵を殴りまくるんだって。
クール系美人に見えるエレーナさんは、女性騎士8人の中では武器の扱いが一番未熟だけれど、お師様に次いで強力な魔法を使える魔法使いタイプなのだそう。
お師様の側近の皆さんは、得手不得手の多少は合っても全員が人並み以上の魔法使いばかりで、エレーナさんは特に、爆発系の魔法が大好物らしくて、“紅蓮”も使えるんだって。
私の魔法の練習にも、そのうち付き合ってくれると約束してくれていて、いつか一緒に“白焔”を目指そうと言ってくれている優しいお姉さんなんだよね。
お師様が告げた総括に、ハインズ様が怪訝な顔になる。
「獣の血に、本当にそんな効果が?」
「獣、ではなく魔獣だな。そして、単に、魔獣の血液、なのではなく、自らが手を下した獲物に限られるのではないか、と推論が立てられる」
「しかし、それならば、狩りを 生業(なりわい) とする者や魔獣の間引きに従事する者は、もっと強くなっているはずではないか?」
ハロルド様の指摘に、お師様もマルキオお爺様も首を横に振る。
「倒したばかりの魔獣の血液を飲む習慣が有れば、そうなのだろうな」
「無かろうよ。絞めた家畜なら兎も角、狩った獲物を持ち帰るのに血は重荷にしかならぬ」
「ううむ。状況を整理すれば、そうなるか」
ハインズ様が強面の眉間に皺を刻んで唸るけれど、ルナリアの頭を撫でながらだと、そんなに怖く見えないね。
うーん。やっぱり血を飲む行為は一般的じゃ無いのか。
「フィオレは、血を摂れば元気になると言う認識を持っていただけだった、のだったな?」
「・・・はい。飢餓で内臓が弱っていることも考えて獲物の血を飲んだのが最初でした」
マルキオお爺様が私の顔を覗き込んで来たので、コクリと頷いて返す。
「成人にも効果が見られたとなれば、規模を広げて検証してみる必要が有ろう」
「短期的な現象なのか、永続するものなのかも検証するべきか」
「私の推考通りなら、領全体の戦力底上げになるだろう」
「領軍だけでなく、領民にも行わせるつもりか?」
視線を交わして頷き合うお師様たち3人を見回して、ハロルド様は呆れた顔をする。
「原理までは解明できずとも、法則性が確認できれば、そうだな」
「解明できていないものを導入して大丈夫なのか?」
ハロルド様は心配そうに子供たちの顔を見回すが、お師様は肩を竦めただけだ。
「魔力などという存在は、解明されているものなど皆無に等しいぞ」
「そういうものか」
簡単に納得した!
お師様は魔法の第一人者だから説得力は有るのだろうけれど、それで良いの!?
「どのみち、魔獣の間引きは必要だしな。罠の技術の普及と併せて領民にも安全に狩りができるようになるのなら、させない手は無いか」
「魔獣被害が減って領民の生存率が上がれば、ゆくゆくは国力増強にも寄与するだろう」
ハロルド様に頷いて返したお師様は、膝の上のテレサを覗き込む。
テレサも、コクリと頷いて返した。
「そうなれば良いのですが」
ハロルド様も、テレサを覗き込む。
「殿下は、伏せておきたいと申されたとか?」
「ええ。現時点では、ですが。騎士団にも伏せておきたいと考えています」
「なれば、本格的な検証作業は騎士団が王都へ向けて出立した後になるな」
思案顔のマルキオお爺様がテレサを見る。
「殿下は、それで宜しいのか?」
「殿下は暫くウォーレスに留まることを望んでいる」
テレサでは無くお師様から返った答えに、ハインズ様がニヤリと笑った。