作品タイトル不明
血のチカラ ⑭
目の前に明るさを感じて薄らと瞼を開く。
ぼやけていた視界が像を結び、年月を感じさせる深い色合いの美しい木目の壁が見える。
「・・・う・・・。・・・あれ?」
「目が覚めたか」
見覚えが有る木目を背景に、人影が割り込んできた。
ああ、壁じゃなく天井だったのか・・・。
鈍い思考がゆっくりと回り始め、私は自分が仰向けに横たわっていることに気がついた。
「・・・お爺・・・様。ハインズ様も。・・・ここは、ルナリアの部屋・・・?」
「うむ。何がどうなったか、記憶は有るか?」
私が寝かされていたふかふかなベッドの周りには、お爺様とハインズ様とレーテさんが立っていて、お爺様に手を貸して貰った私は上体を起こした。
何だっけ? 何が有ったっけ? 額に手を当てて記憶を掘り起こそうと試みる。
「・・・森で獲物の血を飲み込んだ瞬間、ものすごく胃が熱くなって・・・。そこから先の記憶が有りません」
「体の様子はどうだ?」
「・・・体ですか?」
私の? 今の状況を察するに、私は血を飲んで気を失って倒れたのかな。
「お前の後、殿下とルナリアも血を飲んで倒れてなあ」
「・・・私が倒れたのに、2人も飲んだのですか!?」
一瞬で目が覚めた。
飲んだ人が目の前で倒れたなら毒物かも知れないのに、同じものを飲むなんて、なに考えてるの!
目を剥いた私に、お爺様は肩を竦める。
「二人が飲んだのは、別の獲物の血だ」
「思い当たる原因は有るか? わけが分からぬ」
「・・・いいえ。今まで、こんなことは一度も有りませんでしたから」
難しい顔のハインズ様たちに向けて首を振る。
私にも何が何だか分かんないよ。
「ううむ。お前の様子を見るに、問題は無さそうに見えるが」
「それで、体に異変は有るか?」
心配そうなお爺様に見つめられて、私は自分の身体を見下ろした。
どうだろう?
痛みも苦しさも無いし、むしろ、身体全体に力が満ちている気がする。
それに、胸の中に在る熱の塊が、燃えさかる焚き火のように揺らめいている?
「・・・魔力が落ち着かない、というか・・・、胸がざわつきます」
「ふむ。やはり魔力酔いと見るべきか?」
目を細めたお爺様は 思惟(しい) するように顎先を撫でる。
「・・・あの。魔力酔いとは?」
「そのままの意味だ。体の許容量を超えた魔力に酔って酩酊する」
私の問いに答えてくれたのは、開け放たれたままの扉に凭れ掛かってこちらを見ているお師様だった。
室内の視線がお師様へと集まる。
「来たか。フレイア」
「御大だけでなく親父殿まで揃って狼狽えるとは、珍しいことが有ったものだ」
「五月蠅いわい」
「お前は儂を何だと思っておる」
不満そうなハインズ様とお爺様に向けて、お師様はニヤニヤと笑っている。
「どれ。診てみよう」
出遅れて慌てるレーテさんを一顧だにせず、壁際に並んでいる椅子を二つ持ってきたお師様が私を手招いた。
ベッドから降りて向かいの椅子に腰掛けた私の胸の前へと、お師様は手のひらを翳す。
「・・・お師様」
「もう意識はハッキリしているようだな」
「・・・はい」
こっくりと頷いて返すと、お師様が首を傾げた。
「ふむ? 随分と魔力が増えているようだ」
「・・・増えてる?」
「命の危険は無いのだな?」
私の問いに答えが返る前に、お爺様が問いを重ねた。
お爺様の方を見もせずに、お師様はひらひらと手首を振る。
「そうそう起こらない珍しい症状らしいが、障害が残った記録も無いから安心しろ」
「そうか」
お爺様は安堵した様子だけれど、お師様は首を傾げたままだ。
「しかし、普通の増え方ではないな。切っ掛けは、・・・血か?」
「・・・よく分からないけれど、血を飲んで胃の辺りが熱くなったことは初めてじゃない」
「こうなる可能性が有るのは知っていたわけか」
お師様が呆れ顔になる。
知っていた、と言えるのだろうか・・・?
んん? ぐぐぐ、と、私の首が傾ぐ。
「・・・元気になるとは思っていたけれど、血で酔うなんてことが有るなんて・・・」
「勘違いするな。お前たちが酔ったのは魔力で、血じゃない」
「・・・魔力・・・」
そうか。「魔力酔い」って言ってたね。
「知っていた、というわけでは無さそうだな」
「・・・血って、魔力なの?」
「そんなわけ有るか。血は血で、魔力は魔力だ。ただし、魔力は血に乗って運ばれる、とする学説が、存在することは存在する」
血と魔力はイコールではないけれど、血には魔力が含まれる?
魔力って何なんだろう? 危険な物ではないと思っていたけれど、違うの?