作品タイトル不明
血のチカラ ⑮
「・・・お師様、魔力って、何?」
「さあな。それを解明できれば、お前は歴史に名を残す学者になれる」
誰にも分からないけれど、そこに在って、使えるものだから利用しているってこと?
地球で当て嵌めれば、麻酔薬みたいな扱いかな。
麻酔って、日常的に医療現場で使われているのに、なぜ効くのか、ほんの一部しか解明されていないんだよね。
あれだけ科学が発展した世界なのに、解明されないままに現象だけを利用している技術というものは、いくつも存在した。
医薬品なんて、殆どが、そうだったはずだ。
国家を代表する魔法術師のお師様でも分からないなら、私に分かるわけがない。
地球には無かったものなのだから、どこに魔力が含まれていて、どんな影響が有るものなのかを知らないままに突っ走ろうとした、私の無謀さが、今日の状況を招いたことだけは分かる。
反省しなきゃ・・・。
「今後は私も、もっと詳しく訊くようにした方が良さそうだな」
「・・・ごめんなさい」
お師様が落とした溜息に悲しくなる。
でも、泣いちゃダメだ。
涙に逃げるなんて、真剣に向き合ってくれているお師様に失礼だ。
目が熱くなりそうなのを、深呼吸してグッと堪える。
期待を裏切りたくなかったのになあ・・・。
「叱っているわけじゃない。ただ、まだお前は知らないことの方が多い。足りない知識を補って導くのは、私たち大人の務めだ」
椅子から腰を上げ、悄然と項垂れる私の頭にポンと手を乗せたお師様は、私の傍を通り抜けてテレサとルナリアの枕元で腰を屈めた。
肌掛けの上から二人の胸の上へと手のひらを翳す。
相当に意識を集中している様子で、お師様は瞬きもしない。
「殿下やルナリアも問題は無さそうか?」
「魔力酔いで死んだ者は居らんし、じきに目を覚ますだろう。・・・やはり二人とも魔力が増えているな」
お師様が小さく首を傾げて、思案顔になる。
診断の結果を聞いて安心した様子のお爺様が、私の頭を撫でる。
「魔力保有量の増加自体は術師として喜ばしいことだが、王家に何と説明したものか」
「健康に問題が残るわけでも無いなら、殿下が目覚めてからでも良かろうよ」
どうでも良いと言わんばかりにひらひらと手首を振るお師様を、お爺様はジロリと睨む。
「フレイア。何を考えておる」
「私は何も。殿下がどう考えるかは分からんがな」
「・・・テレサが?」
何で、そこでテレサの意思なんだろう?
私には意味が分からなかったけれど、お爺様も思案顔になった。
「ふむ・・・。継承権か」
「そういうことだ」
「緘口令を敷いた方が良さそうだな」
ハインズ様の視線がレーテさんを捉えて、レーテさんが震え上がる。
「政治的カードに成り得るなら、殿下が判断するまでは、そうした方が良い」
「良かろう。ここは任せるぞ」
「任された。そっちは親父殿に任せる」
「うむ」
大きく頷いてルナリアの私室から出て行くお爺様の背中を見送ったお師様は、ハインズ様をジロリと睨んだ。
「御大も出て行け。安心したなら 閨(ねや) に居座るな」
「お、おう、そうだな。殿下とルナリアが目覚めたら報告せい」
「分かった、分かった」
閨って、女の子の部屋って意味だっけ。
指摘されて配慮不足に気付いたらしい気まずそうなハインズ様に、お師様は犬を追い払うようにシッシッと手の甲を振る。
複雑そうな表情のハインズ様は大人しく退散して行ったけど、血族の長に、その態度は拙くないんだろうか?
そんなことよりも、気になる単語が有ったね。
「・・・お師様。継承権って?」
「王位継承権ですわ」
思わぬ方向から答えが返って、お師様と私はベッドを見た。
いつの間にかテレサが上体を起こしている。
「なんだ。目が覚めていたのか?」
「ついさっき、ですわ。ハインズ様たちは、お声が大きいのですもの」
寝起きらしい気怠さを感じさせるテレサの元へ、心配顔のレーテさんが駆け寄る。
「殿下」
「大丈夫よ、レーテ。ありがとう」
「・・・テレサ。体の調子は?」
あちこち身体を動かしてみたテレサが、首を傾げる。
「問題ありませんわ。・・・胸の辺りがポカポカと暖かい気はしますけれど、普段よりも体が軽く感じるほどですわね」
レーテさんが椅子を用意したのを見て、ベッドから降りたテレサは私たちの元へと移動してきた。
お師様と向き合って、私たちは椅子に腰を下ろした。
異状が無さそうな様子を確認したお師様が、小さく溜息を漏らす。