作品タイトル不明
血のチカラ ⑫ ※アンサンブルキャスト面
「本当なの? アンリカ」
「ええ。味は血ですが、喉や胃には酒焼けに似た熱さを感じます」
「ほーら! ほーら!」
「分かった! 分かったから! 疑って悪かったわよ!」
子供か!
間近まで詰め寄って来たディーナが大声でアンリカを指すのを、耳に指先を突っ込んだエゼリアは面倒くさそうに見る。
頭の中まで筋肉が詰まっているディーナは根に持つタイプでは無いが、鬱憤を発散するまで身体を動かすのに、訓練に付き合ってやる必要は有るだろう。
エゼリア自身も本来は頭を使うよりも身体を動かしている方が性に合っているため、何の問題も無いのでは有るが、苦手な書類仕事を頑張っているハロルドの手助けのためレティアに残っているフレイアに、遊んでいると思われそうだ。
状況を把握してハインズにも報告する必要が有るし、どうしたものかとエゼリアが頭痛を感じ始めていたら、予想外の方向から追撃が入った。
「へぇ? 血、なのですよね?」
ぎょっとして振り返ったら、いつの間にか王女殿下の手に鮮血が滴るマグカップの取っ手が握られている。
「い、いけません! 殿下! まだ飲酒が許される御年ではありません!」
「だから、お酒じゃ無いって―――ふああっ!」
にこにこと笑いながら王女殿下はマグカップに口を付けたまま、ふらりと傾いて行く。
何やってんの、この殿下!? と、心の中で罵るが、全力で飛び掛かって宙に舞ったマグカップを空中でキャッチすると同時に小さな身体の下へと滑り込む。
ぽふっと王女殿下を受け止めることに成功したエゼリアは、どっと冷や汗をかいた。
「殿下ぁあああっ!!」
「エゼリア! 一体、どうなっておる!?」
真っ青になった騎士たちだけでなく、本格的に血相を変えたハインズも駆け寄ってくる。
どうなっているかなんて私に訊かないで! と、心の中で叫ぶが賢明なエゼリアは口には出さない。
大の男が揃いも揃って見苦しいったら無い。
とはいえ、このまま“分かりません”では収まるわけが無いのだから、次の手を打つ必要が有る。
「お待ちを」
低い声で、恐慌状態の男どもをギロリと一睨みで黙らせてから、自分の手の中に在るマグカップに目を落とした。
ディーナもアンリカも大丈夫だったのだから、自分も大丈夫なはず。
ええい、ままよ! と、カップに口を付けると、口内いっぱいの血の味と濃厚な血の臭いが鼻の奥を抜けて、 滑(ぬめ) る液体が食道を滑り落ちる。
カッと焼くような熱さが胃の中に広がって喉元にまで熱が上がってきた。
目を瞠ったエゼリアは、手の中のマグカップをまじまじと見る。
「あら? こっちは確かに酒のような臓腑の熱さを感じますね」
「何だと!?」
「でもこれ、本当に酒でしょうか? 体内の魔力が活性化しているような・・・」
「魔力の活性化だと? ならば、これは魔力酔いか?」
意識が無いフィオレを大事そうに抱き上げたマルキオまでエゼリアの傍へやって来る。
何だ何だと騒ぐだけの男どもと違って、何らかの答えを持っているらしいマルキオは、エゼリアにとって救いの神だった。
「大丈夫じゃ?」と言い放つ以外の答えを持たないエゼリアはマルキオに全力で乗る。
「そういった状態を私は体験したことが有りませんので、何とも判断が付き兼ねますが」
「マルキオ! 魔力酔いとは何だ!?」
「体内の魔力が飽和した場合や魔力保有量が急激に増えた場合などに酩酊状態に陥る、と聞くが、儂も体験したことが無い故、古い文献に記述が有ることしか知らぬ」
「魔力が飽和だと? 三人が三人ともか?」
落ち着いて語るマルキオに影響されたか、ハインズも冷静さを取り戻したようだ。
気性が激しいハインズを御するのは、長年、付き添ってきたマルキオが誰よりも上手い。
流石だ、と、感心する間もなく、目線で示し合ったエゼリアたちは次の展開を予測して動き始めた。
エゼリアはテレサを抱き上げ、アンリカはルナリアを抱き上げる。
他の女性騎士たちも獲物の回収や撤収に向けた片付けに動き始めるのを視界の端に納めたマルキオは、ハインズが決断できるように選択肢を提示する。
「フレイアなら、詳しく分かるやも知れぬな。魔力感知もアレの方が上手い」
「ヨシ、撤収だ!! 急ぎ、レティアへ戻るぞ!!」
「「「「「はっ!」」」」」
そこからのウォーレス領および王都騎士団の混成部隊の撤収作業は驚くほどに早かった。