軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

血のチカラ ⑥

「よく見極めた。フィオレは騎士の才覚も有るな」

「・・・本当ですか?」

運痴じゃないと思うけれど、私、運動が得意って程でもないんだよ?

運痴って、運動音痴の略ね。内臓の内容物じゃないよ!

あ、でも、槍って素人同然の農民兵でも敵に近付かずに戦える武器だから、日本の戦国時代でも主力歩兵武器だったんだっけ。

槍にも色々と種類があって、使い方によって穂先の形が違って柄の長さが違う。

私が使った槍は 直(すぐ) 槍(やり) とか 素(す) 槍(やり) と呼ばれる種類の「突く」用途に特化したものだったはずで、薙刀のように「斬る」用途の槍や、ディーナさんの十字の刃が付いた槍みたいに「突く」と「斬る」とを両立した槍も存在する。

私の腕力では、槍で「斬る」なんて出来そうも無いけれどね。

褒めてもらえるのは嬉しいけれど、懐疑的に考えてしまう。

「反撃まで予測して身を引いたのも良かった。命を奪う行為に揺るがず、確実に敵の息の根を止めるまで油断しない心構えは、誰にでも出来ることではない」

ああ、そういうことか。

私の自己評価以上に、お爺様の評価が高い理由は納得した。

「・・・ですが、私は体力が有りません」

「フレイアから聞いた。その弱点を補うために来たのであろう?」

「・・・はい」

「己の弱点を冷静に測り、自ら克服しようと立ち向かう行いは、決して無駄にはならぬ」

「迷うな」と、背中を押してくれているのだろうね。

お爺様の激励は、私の胸にスッと沁み込んだ。

「・・・ありがとうございます。お爺様」

「うむ。剣術や槍術の基礎を覚えたら、儂が手解きしてやろう」

「・・・はい。ぜひ、お願いいたします」

お爺様って、お師様のお師匠様だよね。

お師様の教え方は、「自分で掴み取れ」みたく大雑把な部分が有るから、とても嬉しい。

自然と私の頬が緩んだら、お爺様も嬉しそうに頬を緩めた。

「フィオレ! 見て!」

「・・・おお。やったね、テレサ」

お爺様に抱き上げられたまま人だかりに到着すると、人垣が割れて、テレサの弾んだ声に出迎えられた。

槍を手にしたテレサの足元には首と腹から血を流した雌ジカが横たわっていて、最終的な介錯を務めたらしいエゼリアさんが、血振りした剣を鞘に納めているところだった。

雌ジカの後ろ脚を括っていた蔓が騎士様の手で外され、別の騎士様たちに担がれて松の大木へと運ばれていく。

輝くようなテレサの笑みに、彼女の本質を感じる。

元々はルナリア並みに活発な子なのに、立場を弁えて振る舞っていたのだろうね。

騎士様たちの喝采にガッツポーズで応えている姿を見ると、最初のお姫様然としたお上品なテレサのイメージとの乖離が凄い。

でも、好感度は高いよ。

お姫様であっても、地球の意識高い系のように「動物さんを殺さないで!」なんて、生っチョロい寝言を、こっちの世界の人たちは言わないからね。

害獣だったら殺さないと人間の方が死ぬことも有るし、必要が有って殺すんだよ。

スポーツハンティングみたいな、必要以上に、娯楽として他者の命を奪う行為は嫌いだけど、私としては、生きるために獲物を狩る行為を野蛮だとも思わないし、捕った獲物の血肉で人々が日々を生き抜けるのなら、感謝して生命を頂いて何が悪いんだ。

こっちは、遊びで狩ってるんじゃないんだよ。

ハインズ様も頼もしそうに笑っている。

「殿下も見事だった!」

「ありがとうございます! ハインズ様!」

「お元気だった頃の先王陛下を思い出しますな」

テレサ達の傍に私を下したマルキオお爺様が懐かしそうに笑う。

せんおう陛下? 陛下だから先王陛下か。

前の王様のことだよね。

「お爺様を、ですか?」

目を丸くするテレサに問われ、ハインズ様とマルキオお爺様は顔を見合わせた。

ハインズ様が苦笑を浮かべる。

「先王陛下は先陣を切りたがる方でなあ」

「陛下を護衛しながら敵陣を踏み破るのは肝が冷えたものです」

「ほおおーう!」

やれやれとハインズ様は首を振り、マルキオお爺様は遠い目になる。

このお二人が呆れるほどって、相当じゃないだろうか。

テレサがキラキラと目を輝かせている。

「儂らを信じておるからと言われては、突撃するな、とも言えんでなあ」

「儂らも、まだまだ未熟な若造でしたが、陛下共々、何度か死に掛けましたな」

「ふむふむ!」

相当に活発、というか、勇猛な王様だったみたいだね。

確か、今の王様は凡庸だと言われているんだっけ?

そこまで強烈な印象の先王陛下と比較されたら、どんな人だって凡庸に見えそう。