作品タイトル不明
血のチカラ ⑦
「もっと、お爺様のお話を聞かせてくださいませ!」
「そういえば、殿下は先王陛下のことを、よく覚えて居られんのだったか」
「お爺様が身罷られたときは、わたくしは、まだ2歳でしたから」
「ならば、レティアへ帰ってから、ハロルドも交えて話すとしよう」
「ウォーレス卿ですか?」
テレサが目を丸くする。
「若も酷い目に遭って居りましたからなあ」
「フレイアは生き生きと暴れ回っていたようだがな」
若ってハロルド様のことかな?
ハロルド様は10年ほど前まで王都の騎士団に居たって言うし、たぶん、そうだよね。
ハインズ様たちの話を聞いていたアンリカさんとエゼリアさんが顔を見合わせる。
「あの時の話かしら? 小国連合諸国へ支援に行ったとき」
「ああ~・・・。御当主様は寝る暇もなく走り回らされてましたね」
「私たちも尻を蹴り上げられながら走り回らされましたけどね」
たぶん、蹴り上げたのってお師様だよね・・・?
お師様に付いて行くのが、とても大変だったであろうことは想像できる。
一先ず、この場での昔話は終わりかな?
騎士様から襤褸布を借りて手槍の血を拭い落した私は、興味深そうにテレサたちの話を聞いているルナリアに手槍を差し出した。
「・・・はい。どうぞ」
「ありがとう! 次はわたしの番ね!」
強気な笑みを浮かべるルナリアの声を聞きつけて、お爺様たちとの約束を取り付けたテレサも私たちの傍へと駆け寄ってくる。
「行きましょう! フィオレ!」
「・・・うん!」
何の 衒(てら) いも無く差し出されたテレサの手を取った私は、先頭を切って駆け出したルナリアの背中を追って駆け出した。
ワナに掛かった獲物を、一通り回収した私たちは、松の大木まで戻ってきた。
何と、今日の獲物は牡ジカが1頭に雌ジカが4頭にイノシシが1頭の、計6頭だった。
大きく首を切り裂かれて後ろ脚をロープで縛られたシカとイノシシは、頭上の枝から吊られ、傷口から直下に置かれた木桶の中にポタポタと血を流している。
15ヶ所にワナを仕掛けて勝率4割だよ。予想を超える大猟でニヤけてしまう。
お肉が、いっぱい。食料がたくさん有ることは良いことだ。
でも、これって乱獲?
「・・・ふむ?」
顎先に拳を当てて少し考える。ワナの数を減らすべきだろうか。
生態系や狩猟で生計を立てている住民の生活に、悪影響を及ぼしたりしない?
この森の野生動物って、本当に警戒心が薄すぎない? と心配にならなくもないね。
私が居なくなって人間の気配が無くなったから、野生動物が増えたと考えて良いのかな。
私の様子に気付いたディーナさんが首を傾げる。
「どうしました?」
「・・・こんなに捕って大丈夫かな? って考えてた。乱獲にならない?」
「あれって、魔獣ですよね? なら、心配無用ですよ」
血抜き中の獲物を眺め回したディーナさんは、何のことも無い風に言う。
「・・・魔獣だと、普通の野生動物と、何か違う?」
「違いますよ。森に魔力が満ちている限り魔獣や魔物はいくらでも湧きますから、狩り尽くしたくても狩り尽くせません」
「・・・狩り尽くせない?」
「ええ。“魔の森”の厄介さが、そこです」
どういう意味だろう?
「・・・魔石を持っているだけじゃない?」
「次から次へと湧く上に、通常の野生動物よりも個体そのものが強いせいか、魔獣は警戒心が薄くて人里の近くまで寄ってくるんですよ。だから、魔獣被害を減らすためには定期的に魔獣を間引く必要が有って、フィオレ様が、こうして魔獣を間引くことは、街道の通行や領民の安全のためにもなります」
「・・・道理で。警戒心が薄すぎると思ってた」
人間を恐れないのなら、ワナに掛かり過ぎるはずだ。
魔獣被害か・・・。
草食系だとどうなのかは分からないけど、魔獣にとっては人間なんてエサの一種でしか無いのかもね。
「肉は魔獣のほうが美味しいんですけどね。フィオレ様が罠で動きを封じてくれているから簡単に倒せていますが、普通は1頭を倒すのにも危険が伴いますし、“魔の森”では通常の野生動物のほうが稀です」
「・・・やっぱり野生動物とは、全く別の生き物なんだ?」
「ああ、学説の話ですか。どこでどう繁殖しているのかも分かっていない上に魔獣は成長速度も早いらしくて、一部の学説上で、魔獣は“魔の森”に漂う自然の魔力から生まれる、と言われているのは事実ですよ」
「・・・魔力から? 生き物じゃないの?」
私は目を剥いた。普通のお肉だと思い込んでいた私にとって、衝撃的な情報だった。
驚く私を見下ろして、ディーナさんは苦笑する。
「どうなんでしょうね? 分かりません」
「・・・ええ?」
どういうこと?