作品タイトル不明
血のチカラ ④
「ほう。それほどか」
「テレサとわたしも作れるようになったのよ!」
「そうか、そうか」
給仕を買って出ていたエゼリアさんたちから罠の所見を聞いたハインズ様が、膝の上に座らせたルナリアを力強く撫でる。
難しい顔をしていると、片眼を潰した大きな傷痕と相まって、もの凄く怖い凶相だけれど、ルナリアを抱いて笑っていると普通のお爺ちゃんなんだよね。
こっちの世界では15歳で成人らしくて、早ければ31歳か32歳で初孫が生まれるわけだから、お爺ちゃんと言ってもまだ50歳代。
初孫が生まれた頃は、まだ40歳代前半だったらしい。
現代日本だと、ハインズ様もマルキオお爺様も、まだオジサンって言える歳なんだけどね。
祖父と孫の交流に目を細めたハロルド様が隣に座るお師様を視線で示した。
「ウォーレスとピーシスの領内すべてに罠の技術を広めると、フレイアがな」
「そうか。フレイアがな」
嬉しそうに目を細めたマルキオお爺様に目を向けられて、お師様がそっぽを向いた。
横を向いたお師様の頬が赤い。
もしかして、とは思っていたけれど、やっぱりお師様は照れているらしい。
「・・・お爺様?」
私の頭の上にあるマルキオお爺様のお顔を肩越しに見上げると、膝に抱いている私の視線に気付いたお爺様は、私の頭を優しく撫でた。
私も今、ルナリアと同じように、お爺様の膝の上に座らされているんだよね。
レティア周辺の警戒に当たっていたお爺様たちが戻ってきて、テレサと挨拶を交わした後の晩餐が終わった途端に、私たちは、それぞれのお爺様に呼ばれて捕獲されたんだよ。
今は、食堂からラウンジルームへと移動して食後のティータイム中。
本当は、バルトロイ様とべルーサー様も晩餐に同席するはずだったのだけれど、大人の時間が長引いているらしく、職務を優先して構わん、とのハインズ様からの許しが有って、お仕事の残業が決まったのだそうだ。
職務優先はバルトロイ様たちだけでは無いらしく、マルキオお爺様がお師様を見遣る。
「フレイアは、お役目で国内各地を飛び回っておるでな。領内の内政に関して無関心とまでは言わぬが、儂に放り投げたままでなあ」
「まだ隠居するほど老いぼれていないだろうが。仕事をしていないとボケるぞ」
「ほら。これだ」
首を振って、わざとらしく溜息を吐いて見せるお爺様に、私もくすりと笑いが漏れた。
「殿下も貴重な体験になったであろう」
微笑ましそうに見るハインズ様に話を向けられて、上座に座っているテレサも、満足気に、にっこりと笑って返す。
「ええ。教わった技術を戦争で活かさずに済むようにするのが、わたくしの使命だと考えておりますが、国内外を問わず不穏な話も増えております。いざという時には、わたくしも先頭に立って戦いますわ」
「テレサだけを戦わせたりしないわよ! ね。フィオレ!」
「・・・うん。私たちも一緒に戦う」
自然に、そう言えた。お友だちだからね。
ルナリアと同じように、私にとって、もうテレサも私が守りたい人の一人になっている。
「ありがとう。ルナリア、フィオレ」
私たちの言葉に少しだけ目を見開いたテレサは、花の蕾が綻ぶように笑った。
「頼もしいことだ。なあ」
「ああ。まったく」
お爺様たちは頷き合って、柔らかい笑みを交わしていた。
◇
「出立せい!」
「「「「「おう!」」」」」
夜が明けたばかりのレティアの街に、ハインズ様の大音声が響いた。
昨日と人数は数人しか変わらないのだけれど、どこかユルい空気だった昨日とは同行する騎士様たちの気合いが違う。
アンリカさんに轡を取られた私の馬が、ぽっくりぽっくりと脚を動かし始める。
昨夜の晩餐で私のワナに本格的な興味を示したハインズ様たちが、自分たちも同行すると言い出して、べルーサー様とエゼリアさんたちが選抜した王都騎士団とウォーレス家騎士団の混成部隊1個小隊にハインズ様とマルキオお爺様を加えた馬列が、森へと進軍を始めた。
経験豊かなハインズ様とマルキオお爺様には、岩塩採掘場の拠点整備計画のご意見番という大役も有るそうなので、どのみち森へ入る予定は有ったそうなんだけどね。
昨日と同じく2時間も掛からず、駐屯地化しつつある松の大木へ着く。