作品タイトル不明
悪名 ③
「おう。レイバンってヤツでガラス工房の親方をしてる。王宮の御用職人らしくて、本人と会ったことがないドネルクも名前は知ってたぞ」
「・・・ふぅん? じゃあ、腕は良さそうだね」
それは期待できそう。
王国屈指の技術を持っていないと御用職人になんてなれないよね?
ただ、そんな人が仕事を請けてくれるかな。
場合によってはテレサの方から圧力を掛けて貰うべき?
王様からの命令だと王宮貴族が首を突っ込んできそうだしなぁ。
テレサの方が目立たない気がする。
コネの使い方を考えていると、ルナリアが私の袖を引いてきた。
「ねえ。“ごーぐる”って、何?」
「・・・眼鏡の一種だよ。小石とか、飛んで来るものから目を守るための道具」
「ふーん。そんなの何するの?」
眼鏡はレーテさんも掛けていたからルナリアも知ってるけど、用途を説明してもルナリアにはピンと来なかったらしい。
もう少し具体的に例を挙げた方が良いかな。
「・・・木を伐るときに色々と飛んで来るじゃない?」
「ああ~。危ないわよね。アレ」
三角巾と覆面で伐採作業に携わっていたルナリアも、ようやく思い当たったみたいだね。
髪が荒れたり鼻毛が伸びるよりも眼球の保護は重要なんだよ?
私が示した用途に視線を宙へ飛ばして考えていたテツさんが首を傾げる。
「強化ガラスでも有りゃあ良いんだが、普通のガラスだと余計に危なくねえか?」
「・・・そうなんだけど、それを言ったらテツさんたちだって、そうじゃない?」
たぶん、馬に乗っているときのことを考えて、ゴーグルを注文したんだろうけど。
しかし、私の予想は裏切られた。
「俺が注文したヤツはケイナ用だ。実用品じゃなく、半ばアクセサリーだな」
「・・・何で、そんなものを?」
飛行帽だからってアクセサリーにゴーグル?
どこかの吸血鬼幼女じゃあるまいし。
「動いた拍子に人前で帽子が脱げちまうと拙いから、ゴーグルで帽子を押さえられねえもんかと考えたんだよ」
なるほど。納得した。
ケイナちゃんの耳を隠すために知恵を絞った結果だったわけか。
他に上手く耳を隠す方法が有るのかと訊かれたら、代替案を思い付かないな。
見た感じケイナちゃんの飛行帽はお手製っぽい感じだし、テツさんが自分で作ったのかな?
子持ちだけに意外と裁縫スキルが高いね。
「・・・そういうことね。強化ガラスなら作り方は分かるけど?」
「マジか!」
そんな知識を持っているとは思わなかったのか、テツさんは目を剥いて驚いた。
さすがに自分で作った経験までは無いから、ネットで見た知識になるけどね。
「・・・ガラス製品と作るときに、自然に冷めるのを待つのではなく、冷風を当てて表面を急速に冷やすんだよ。そうすると、ガラスの結合が内側へ引っ張られる構造になって、強化ガラスになったはず」
技術の紹介動画か何かで見ただけだから、方法論を職人さんに教えて試行錯誤して貰うことになるけど、実現すれば乗車のガラスにも使えるし、防犯ガラスにもなるし、結構、有用な技術になると思うよ。
「よく知ってたな! そんなもん!」
「・・・何かの本で読んだのを、ケイナちゃんの顔を見てたら不意に思い出したんだよ」
アスクレーくんが居る前で「動画で見た」とは言えないから、少しだけ情報を改変して答えた。
自分の名前が出たケイナちゃんの視線が私へ向く。
「なぜ、私の?」
「・・・さあ?」
首を傾げるケイナちゃんと同じ方向へ私も首を傾げる。
何となく賢そうだからじゃないの? 知らんけど。
見たことや聞いたこと、必要な知識を必要なときに引っ張り出せるものなら誰も苦労はしないからね。
そんなことが出来たら試験の意味が無くなっちゃうよ。
何を思い付いたのか、テツさんが急に積極的になった。
「ヨシ。寄ってきてやる。そんで、嬢ちゃんの名前を売り込んでくるから、後は直接注文すりゃ良いだろ」
「・・・行ってくれるの!? ありがとう!」
テツさんの気が変わらないうちにお礼を伝えて外堀を埋めに掛かる。
折角、行ってくれると自分で言い出してくれたのだから、乗らない手は無いじゃん!
「その代わり、ウォーレス家の名前を使わせて貰うぞ。あそこの領主に目を付けられたみてえで、飼い殺しにされそうな恐れが有ったから逃げ出してきたんだ」
ふーん。そんなことが有ったんだ?
テツさんは嫌そうに眉根を寄せている。
ちょっかいを出されたくないな。
ウォーレス家の名前を出すなら、ついでに少しばかり脅しておいて貰えば良いか。
それで揉めるなら、最後は王様の出番だ。
ミリア叔母様から王様の耳に入れて貰おう。
王国全体の利益に拘わることなんだから、少しぐらいコネを使っても構わないだろう。
「・・・良いよ良いよ。テツさんたちに余計な手出しをしたらウォーレス家が焼き払いに行くから、そのつもりで居ろって言っといて」
「本気で軍隊を出しそうだな」
テツさんからジト目が飛んで来たけど、私は本気だよ。
外敵から王国を守るための事業なのに、邪魔をしようっていうなら、その領地も敵だ。
焼きに行かせてくれるかな?
問題はお母様たちの許可が下りるかどうかだけど。
「・・・領主館を急襲して焼きに行くだけなら、領軍を動かさなくても私が行くよ。私1人なら1日も掛からずに行って帰って来られるだろうし」
「それなら嬢ちゃんが自分で注文しに行けば良いんじゃねえの?」
そうなんだけどねぇ。
確かにその通りなんだけど、どうかな?
「・・・行かせて貰えれば良いけど、地上に下りるとなると護衛なしは拙いかなぁ」
「焼きに行くだけなら良いのかよ」
地上へ下りないのなら、私の安全はかなりの水準で確保できると思うよ?