作品タイトル不明
悪名 ④
「・・・空まで上がって来られる?」
「人間は無理でも弓矢ぐらいは届くんじゃねえか?」
HAHAHA! 産業革命前の技術水準で対空戦闘をするの?
弾幕も張れないんじゃないかな。
まだ、こっちの世界で銃火器の存在は聞いたことがないけど、マスケット銃だろうが大砲だろうが真上に向けては撃てないんじゃない?
現代レベルのライフル銃なんかだと届くのだろうけど、それならもっと高度を上げれば良い。
「・・・高度400メテルぐらいまでは上がったこと有るけど、もっと高くまで上がろうと思えば上がれるよ?」
「そりゃあ、弓矢じゃ届かねえな」
テツさんも納得した。
そうそう。当たらなければ、どうということはないんだよ。
万が一に自体も考えておいた方が良いかな?
ヘイレンヤード領って、伯爵家だっけ。
ミリア叔母様の家の方が強いな。
「・・・ウォーレス家の名前を出せば何もされないとは思うけど、もしものときは隣のファーレンガルド領へ逃げ込むと良いよ。あそこの当主夫人はお母様の妹で、アスクレーお兄様のお母様だから」
「おお。さすがは貴族って感じだな」
感心顔のテツさんがアスクレーくんに目を向ける。
アレイオス叔父様も悪巧みは大好きだからね。
文官らしく直接的な手段は使わないタイプらしいけど、国防に拘わる案件なら喜んで出てくるだろうし、テツさんとも馬が合いそうな気がする。
テツさんとケイナちゃんは、今後、もっと北側の森へも行くだろうし、ちゃんと教えておいた方が良いかもね。
「・・・ちなみに、近い内に東部のクローゼリス領の次期当主夫人としてアンリカ叔母様が嫁入りするし、北部のルーベリア領にはエゼリア叔母様が当主夫人として嫁入りするよ」
「ルーベリア? 何か聞き覚えが有る名前だな。クローゼリス領は何度か依頼をこなしたことがある」
へぇ。仕事を請けたことが有るなら、バルトロイさんちの方は問題無いかな?
「・・・ルーベリア家はドネルクさんの家だよ。その隣のリヒテルダート公爵家がドネルクさんの実家で、ドネルクさんの家は内戦終結後に新しく立ち上げた侯爵家だね」
「ほーん? あのエゼリアさんがドネルクの奥さんか。てことは、ギルドでも顔を合わせることが有りそうだな?」
そこに気付くとは、勘が良いだけのことはあるね。
エゼリアさんが嫁ぐことになったのはカレリーヌ様の肝煎りだから、エゼリアさんは冒険者ギルドに出入りすることになると思うよ。
あの王様のことだしね。
騎士団長の立場から降りたとはいえ、今回、王様の要請でウォーレス領まで来たように、ドネルクさんは他の領地にも走り回らされるんじゃないかな。
表舞台から降りただけで隠居したわけでもない。
いわば、隠し球みたいなものだよ。
ドネルクさんが留守なら、エゼリアさんの出番になるんだろう。
「・・・有るだろうね。冒険者ギルドを掌握するように言われているみたいだし」
「そいつは助かるな。知り合いが増えれば不安が減る」
ケイナちゃんたちの心配かな?
テツさんの言動には、自分がいなくなった後のことを考慮している節があるから、心配しているんだろうね。
「・・・エゼリアさんもメチャクチャ強いからね? ヒマだったら模擬戦のお相手をしてあげると良いよ」
「あー・・・。考えとくわ」
「遊びで女は殴れない」と言っていたテツさんが苦笑する。
面倒見が良いエゼリアさんのことだから、付き合いが深くなればなるほど協力してくれるだろうしね。
ケイナちゃんたちのために模擬戦で人柱になるなら安いものでしょ。
みんな朝食は食べ終えた感じかな。
「・・・さて。そろそろ行こっか」
「そうね!」
私が率先して腰を上げればルナリアも続く。
今日の朝食はお母様たちが誰も起きてこなかったね。晩餐後に族長さんたちと遅くまでお酒を飲んでいたんじゃないかな。
ぞろぞろと食堂を出て、護衛のピーシーズやエウリさんたちと合流したところで、丁度、起きてきたお母様と鉢合わせた。
「おう。もう行くのか」
「おはよう! お母様!」
「・・・おはよう。今日はずいぶんとゆっくりだったね」
おおう。珍しく、めっちゃ眠そう。
「朝方近くまで話し込んでいてはな。さすがに睡眠不足だ」
お母様は気怠そうにコキコキと首を鳴らす。
そこで眉尻を下げたのはレイクスさんとケイナちゃんだ。
「お祖父様たちが申し訳ない。皆、森から出られた開放感で羽目を外したのかもね」
「いいや。私たちも対魔族大戦末期の興味深い話がいくつも聞けた。感謝することは有れど、謝られるようなことではない」
「そう言って貰えると有り難いよ」
お母様が首を振ると、レイクスさんも肩の力を抜いた。
大戦期の話かぁ・・・。
レティア様との思い出話だったんだろうけど、私も聞きたかったな。
レティア様直系のルナリアは、といえば、ルナリアに夜更かしは無理だからね。
最初から諦め顔で何も言わない。
お母様の視線が私へと向く。
「今日は何とかいう作物の苗を植え付けるんだったか?」
「・・・そのつもり。ディディエさんたちが試してみたいって言ってるからね」
「アレも興味深いんだがな」
何という精霊パワーか、昨日の今日でオリーブの苗が背丈を伸ばしてるらしいんだよ。
苗床じゃ狭っ苦しそうだから早く広い農地に植えてあげたいと、昨日の晩餐前にディディエさんたちから報告を受けていた。
少しだけ様子を見て、問題なく根付いてくれそうなら残りの種も発芽作業に入ろうと決めた。
ルナリアがアスクレーくんへ目を向ける。