作品タイトル不明
悪名 ②
「黒龍山脈ってね。黒龍王が棲むという黒龍山から離れるほど魔獣が弱くなるんだよ。だから、西方の国なら何とか採掘することができる」
「へぇ? “魔の森”みたいね」
私が思ったことを代弁するようにルナリアが感想を口にした。
「そうだね。でも、山脈の奥へ踏み込むとまた魔獣が強くなるから、採掘できる地域が狭いんだってさ。品質の幅も大きいらしいから自分の目で見ておきたい」
「・・・そういうものなんだ?」
そこまで危険を冒さなくても採れるものなのか。
市場価格次第ではあるけど、だったら輸入品で賄った方が良いのかも。
レイクスさんの口調だと、王都で宝玉が入手できるという確信―――、情報が有ってのことなんだろう。
どこから得た王都の情報なのかと言えば、ケイナちゃんという信頼できる情報源が傍にいる。
ケイナちゃんってしっかり者だから、事前調査をしてあるのだろうね。
西方諸国から魔法道具の素材が入ってくるの? という疑問は有るけど、大陸西岸の海塩が入ってくるぐらいだし、同じ地域で採れる宝玉なら輸入できていると考えて良いのかな?
「どのみち、数を作るには郷の者たちの協力が必要になるだろうし、話し合う必要が有るから直ぐに戻ってくるよ」
「・・・そっか・・・。協力して貰う必要が有るよね」
ハンドメイドで作るものなのだろうけど、工業化までは無理でも家内制手工業レベルには引き上げられるとレイクスさんは考えているのだろう。
多くの人手を注ぎ込んで工場制手工業レベルに引き上げたいところだけど、機密保持の観点から言えばエルフ族内部で完結させた方が良い。
王国の未来が掛かっているキーアイテムだけに、魔法道具の製造方法に関する機密保持には神経質にならざるを得ない。
ヒト族だと間諜を警戒しなきゃいけないけど、エルフ族ならその心配は皆無だからね。
「そういう意味で、製造の主体は、こっちですることになると思う」
「・・・協力が必要なときは言ってね?」
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
お互いに理解レベルが分かっていれば話は早い。
私が理解したと見て取ったレイクスさんはニコリと笑って話題を締めた。
再びルナリアの視線がテツさんに向く。
「それで、いつ出発するの?」
「準備が整い次第、だな」
「そっかぁ」
それぞれにすべきことが有るからね。
その程度が理解できないルナリアじゃないから、残念そうにしながらも素直に別れを受け入れる。
そういや、テツさんに何か訊こうと思ってなかったっけ?
んん~。何だったかな・・・。
テツさんの顔を見ていても思い出さないからケイナちゃんに視線を移す。
耳を隠すためにターバンを巻いているレイクスさんたちと違って、ケイナちゃんの頭には飛行帽が乗っている。
飛行帽・・・?
ハッ! そうじゃん! 思い出した!
「・・・そうそう。テツさん、良いガラス職人を知らない?」
キリキリ吐きたまえ。ネタは挙がっているんだよ。
質問をぶつけるとテツさんが首を傾げた。
「ガラス? 良いかどうかは知らねえが、知り合いの職人なら1人いるな。つーか、何で俺の知り合いに職人がいるって知ってんだ?」
「・・・ドネルクさんから聞いたんだよ。テツさんが注文したゴーグルが届いてて、冒険者ギルドで預かってるって言ってたよ」
私の答えを聞いたテツさんの表情が渋いものになる。
「あの野郎。何で俺に伝えず嬢ちゃんに伝えてんだ」
「それどころじゃなかったんじゃない? 叔父様は陛下からの“お願い”で頭が一杯だっただろうし」
忙しいドネルクさんをルナリアが擁護して、テツさんが怪訝そうに眉根を寄せて首を傾げる。
テツさんの気持ちも分かるし、テツさんの顔を見たときに思い出さなかったドネルクさんの余裕の無さも理解できる。
そもそも、テツさんたちがこのタイミングでウォーレス領に現れること自体が予想外だったみたいだしね。
あまりにも事情がセンシティブだからって根回ししに来た真っ最中に、当の本人たちが来ちゃったんだから、そりゃあドネルクさんだって余裕を無くすだろう。
仕方ないな。
「お願い?」
「・・・お願い」
分かってるでしょ? とばかりに首を傾げたままのテツさんとケイナちゃんを交互に指せば、自分たちの立場を理解しているテツさんの表情に理解の色が走る。
「それもそうか。それで? ガラス職人が何だってんだ?」
「・・・伐採作業や乗馬で使える飛散防止用のゴーグルも欲しいんだけど、サングラスを作って欲しくてね」
正直に理由を明かしたのに、さっきまでよりもテツさんの表情が怪訝なものになった。
「は? 何だって、そんなもんを?」
「・・・白皮症の子たちが居るんだよ」
通じるかな? と心配したけど、ちゃんと通じたみたいだ。
テツさんが記憶を探るように中へ視線を漂わせた。
「白皮症っつーと、アルビノだったか」
「・・・そうそう。日差しが眩しくて辛そうだから、サングラスを作ってあげたくてね」
テツさんのすぐ後ろにもいるでしょ?
サングラスというものが何かは分かっていないのだろうけど、自分たちの話だとは気付いたみたいで、給仕をしてくれているサーシャさんたちが控え目にニコッと笑った。
「なるほどなぁ・・・。そうは言っても、上手い具合にヘイレンヤードを通る用事が出来れば良いが、分かんねえぞ?」
「・・・ヘイレンヤード領? 確か、ファーレンガルド領の隣だっけ」
“中立派”の領地じゃなかったかな。
確か、ファーレンガルド領へはアスクレーくんの乗馬の腕前でも片道2日で帰省できたと言っていたよね。
そのすぐ隣に有る領地なのだから、そこまで遠くは無いけど気軽に行き来できる距離でもないな。
頭の中に地図を広げている私の理解にテツさんが頷く。