作品タイトル不明
盟約 ㊿
「え、ええっと・・・。結論を出すには情報が不足していると思うのですが、あの光は遺灰槽の屋根から僅かに上、何も無い空中に湧き出しているように見えました」
ビビり散らかしてはいても、アスクレーくんはお母様の尋問に答えようと頑張った!
すごいぞ! アスクレーくん! ちょっと見直した!
「ほう? 遺灰槽から現れたのではなかったと?」
「恐らくですが・・・」
遺灰槽という施設は、いわば霊廟みたいなものなんだよ。
プール程も有る大きな枡に石造りの小屋をスッポリと被せたような構造で、遺灰を撒く扉が閉め切られている今、どこにも開口部がない。
遺灰槽から出てきたのだとすれば、石造りの屋根を透過して現れたことになる。
まあ、魔力というものは物質を透過するからね。
透過してきたのだとすれば、あの光の粒は死者の魂などではなく、魔力だというレイクスさんの証言を補強する材料になるだろう。
死者の魂が魔力で構築されていた場合、どうなるのか?
そんなの知らんがな。
アスクレーくんがお母様という強大な壁を乗り越え、ターゲットが私に移ってくる。
「フィオレ。お前は?」
「・・・えっ!? え~、ええっと~」
ど、どうしよう!?
アスクレーくんはちゃんと観察していたみたいだけど、私はどうでも良いことばかりに気を取られてロクに観察すらしていなかったよ!
見ていなかったとも言えないし、何か見解を話さなきゃ!
考えろ! 今、アスクレーくんは何て言っていた!?
えーっと? 「何も無い空中に出現した」―――、いや。「湧き出した」だっけ。
「何も無い」ところに―――、違うな。「何も無いように見える」ところに何らかの物質が湧き出す現象といえば、“凝縮”あるいは“析出”だろうか。
凝縮も析出も“飽和”した結果だよね。
魔力の飽和?
自然の魔力が集まる森の奥なら兎も角、こんな町中で?
森じゃなくても魔力が飽和する理由って何が考えられる?
採掘場での観察中に起こった発光体現象は自然の魔力が集まるダンジョンだから特殊環境ってことで除外するとして、ご祈祷のときと今さっきで共通点って何が有る?
人が集まっていたことと、精霊が騒いだことと、うーん?
ああ、みんなの気分が盛り上がっていたことかな。
他には・・・、無さそう?
「・・・可能性を数え上げることしかできないんだけど」
「ふむ?」
思い付いた3つの共通点を数え挙げてみると、お母様が頷いた。
ヨシ! 誤魔化せた! この方向で押し通すよ!
「やはり、アレが“精霊の存在を感じ取る”ということなのだな」
「アレかぁ~。フィオレって、ずっと1人であんな感触を感じ取っていたのね」
やっぱり、お母様もルナリアも精霊が動く感触を感じ取れていたんだね。
一歩前進したじゃん!
「・・・そうそう。胸の中で魔力がモゾモゾする感じのアレだよ。あの感触に話し掛けていると、だんだん何となく精霊の気持ちが分かるようになってくるんだよ」
こっちが感じ取れるようになるのと同じように、精霊たちもこっちの気持ちを感じ取れるようになるみたいで、今までの力加減が分からなくなる暴走状態は、私の気持ちが昂ぶっていたり思いが強かったりで、たまたま精霊たちに私の気持ちが伝わっちゃったんじゃないかと考えている。
精霊たちは宿主の私の思いに応えようとしてくれただけで、きっと悪意はない。
あの幼児と話しているような感覚を受ける精霊たちに悪意があったとは、到底、思えないんだよ。
それまで伝わらなかった思いが双方向で伝わるようになるのは、周波数が遇っていなかったラジオのチャンネル調整が合うようになったというか、回路がアクティベートされたというか、そんな感じなんだろうね。
私の答えにお母様は満足してくれたようで、鷲掴みから一転、ぐりぐりに変わった。
「ヨシ。続けてみるとしよう」
「わたしも!」
乗り切った!
鷲掴みはされたけど、お説教は回避した!
最後まで乗るしかない! このビッグウェーブに!
ようやく手を離してくれたお母様が考え中ポースになる。
「光の方は、お前たちが言うように、まだまだ観測事例が少なすぎるな」
「・・・レイクスさんはあの光も魔力の塊だと言っていたから、事例の統計を取ることで発生する条件を絞り込めるんじゃないかなーって」
もっとサンプル数を稼げれば良いんだけど、発生条件が分からないことには意図的に現象を起こすことも出来ない。
あれ? 意図的に現象を起こせるってことは、逆に考えれば現象の発生を予防することが出来るってことになるのか。
お母様が私たちの余所見を叱らずに観察結果と見解を聞いているのは、現象発生による混乱の予防―――、対策方法を探ろうとしてたんだね。
なんで叱られなかったのか腑に落ちたよ。
私も原因究明に、もっと真剣に取り組もう。
「傾向から原因を推測するわけか。しかし、採掘場での観察ではダメなのだろう?」
「・・・ダメってわけでは無いんだけど特殊過ぎる環境だからね。採掘場も迷宮だって族長さんも言っていたけど、族長さんは視覚的に見えるわけじゃないそうだから、発生しても詳しく観測できるのはレイクスさん1人だと思うんだよ」
私の答えにお母様が納得顔で頷く。
「レイクス殿の特別な目というヤツか。族長殿の場合は、どう観測しているんだ?」
「・・・気配だって」
「ほう。だが、肌感覚では明確な指標は無さそうだな」
笑われるかと少しだけ心配したけど、戦場で命のやり取りを繰り返してきたお母様は笑わない。
テツさんが持つ“勘”も、族長さんが感じ取る“気配”も、似たようなものだからね。
結果として早期に危険を察知して対応策を取れるのであれば生存率が引き上がる。
決して笑えるようなものじゃないんだよ。
「・・・うん。私たちでは違いを判別できないし、事実上、まともに観測できるのはレイクスさんだけになるんじゃないかな」
「それもそうだな」
お母様は残念そうに息を吐いた。
現状、偶然の機会を掴まえるしか私たちには打つ手がない。
レイクスさんはテツさんたちと行動を共にする可能性が高いから、そうそうレイクスさんに頼ることも出来ない。
悩ましいなあ、なんて考えていたら、強制的に現実へ引き戻された。
「フレイア!」
「おっと。この話はまた今度だな」
馬車のステップに片足を掛けたお父様が呼んでいる。
今のところタイムアップだ。
賓客たちと重鎮たちは、すでに馬車に乗っていて、護衛に付いている騎士様たちも騎乗済みじゃん。
話し込んでいて取り残されているのは、お母様と子供たちの4人だけだ。
急いで駆け戻った私たちは、騎士様から手綱を受け取って馬上の人となった。