作品タイトル不明
盟約 ㊽
「私とドヴァールグ王が打ち上げた剣をフレイア殿がお持ちだとか? あの剣が証です。勇者朽木の力を最大限に発揮する剣を、とレティア殿の求めに応じて打ったのが2振りの剣で、盟約の証として勇者朽木とレティア殿にそれぞれの剣を贈ったのですよ」
「盟約の証ですか」
お母様・・・。
普段使いで振り回しているサーベルは、世界遺産級どころか人類史に遺るアーティファクトで確定したよ。
それでもお母様は気にせず振り回すのだろうけど。
エルフ族とドワーフ族と異世界人を繋いで盟約を結んだのがヒト族のレティア様か。
レティア様の人生を書き記すだけでも一大巨編になりそうだよ。
叙事詩の登場人物の1人である族長さんが悔いるように固く瞼を閉じた。
「ヒト族を恐れる余り、我らは古き盟約を守ることが出来ませなんだ。レティア殿が許してくださるのならば、ここに新たな盟約を結ばせていただきたい」
「新たな盟約・・・」
シンと静まった室内に誰かの呟きが小さく響いた。
族長さんの言葉は世界を揺るがす決定的なものだ。
エルフ族の存在が白日の下に晒されるときが来るまでは秘匿されることになるけれど、武力を持つ王国と技術力を持つエルフ族は正式な契りを結び、手を携える。
500年ものときを経て復活した盟約は“共通の敵”にとって厄災となるだろう。
それは、敵対勢力との決定的な決別で有り、いつの日か新たな戦火が起こることを確定的なものへと変える。
それを知っていながらハインズお爺様は腰を上げる。
「閣下。よろしければ、この後、共にレティア様の下へ報告に参りませぬか?」
「おお・・・。ぜひとも」
お爺様に応えて族長さんも腰を上げた。
上座側へとテーブルの端を回ったお2人は、お誕生日席の位置で向かい合う。
「我らエルフ族の民は精霊に誓って、古き友の血に連なる者たちの同胞となり、持てる知恵と力の全てを提供しましょう」
「我らは始祖の名とこの血に誓って、いかなる敵からも同胞を護りましょう」
「 永久(とこしえ) まで同胞たちが共に在らんことを」
どこかからパチパチと上がった拍手の音は一気に全体へと広がり、割れんばかりに室内を満たす。
ヒト族とエルフ族。
2つの種族が固く手を取り合ったことを、異世界人とドワーフ族と獣人族も見届けた。
これでテツさんは盟友であるレイクスさんとの約束を果たしたわけだ。
1つの約束が果たされたなら、もう1つの約束も果たされなきゃね。
エルフ族と私たちが同胞であるなら、テツさんの目的を手伝うのも私たちの使命だろう。
ドラゴンかぁ。美味しいのかな?
いやいや。食べちゃダメなんだった。
いや、でも、テツさんが日本へ帰った後ならワンチャン有る?
ドラゴンの倒し方も考えておかなきゃ。
私が新たなお肉の獲り方に思いを馳せていると、応接室のドアがノックされた。
「・・・あ。レスリーさんだ」
マーシュさんが開いた扉から入室して来たのは、エゼリアさんの実父でありマルキオお爺様の腹心でもあるレスリーさんだった。
廊下にはアンリカさんの実父であるライアスさんの姿も有って、数人の騎士様たちが控えている。
「馬車の準備が整っております」
「うむ。ご苦労」
レスリーさんの報告にマルキオお爺様が頷いた。
ああ。レティア様のお墓参りか。
ワールターさんの指示でメイドさんたちの誰かが手配に走ったのだろうけど、メチャクチャ準備が早い。
マルキオお爺様がハインズお爺様へと目を向けると、ハインズお爺様が頷いて族長さんへ目を向け直す。
「報告に参りましょう」
「かたじけない」
レスリーさんたちの先導で厩舎前の出口から領主館を出ると、4頭立てのゴツい黒塗りの馬車が数台と騎士団の騎馬が待っていた。
騎士団は領軍の中でも領主の直属で、兵士さんたちよりも1段上の組織になる。
騎士団の中でもレスリーさんたちはお爺様たちの側近で、最上位の幹部クラスになる。
大仰だけど、族長案たちは正式な賓客だからね。
テツさんたちも馬車に分乗して、両軍所属の私たちは護衛役だから馬に騎乗する。
ウォーレス家側で馬車に乗るのはお婆様たちぐらいだよ。
護衛部隊の主体はレスリーさんたち猛者中の猛者ばかりで、猛者たちの一角であるお母様たちも護衛の隊列に加わる。
ルナリアと私の傍にがネイアさんとオーリアちゃんに加えてジアンさんも付いてくれた。
エウリさんたちを連れたアスクレーくんと一緒に隊列の後方に着く。
名義上の当代当主といっても子供の扱いなんて、こんなもんだよ。
久しぶりのゴマメ扱いは新鮮だね。
ルナリアも気分を害するわけでもなく、気楽な立場で馬の首筋を撫でている。
レティア様が眠る墓地までは距離にして1キロメートルほどなのに、部隊長クラスの幹部ばかりで構成された2個小隊規模が馬車の前後を固めて領主館を出る。
日本の感覚なら、“ 逢魔時(おうまがどき) ”に近い夕刻にお墓参りはしないけど、こっちの世界に逢魔時なんて概念はない。
朝だろうが昼だろうが夜だろうが、行くときはガンガン墓参りに行く。
昼と夜の境目にはオカルト的な何やかんやの境界が曖昧になって魔物に遇うだとか、よくないことが起こるとか言うんだっけ。
信心深くない人だって日本人なら縁起は気にするからね。
夕方に墓参りと聞いてテツさんは微妙そうな顔をしていたけど、私は“郷に入れば郷に従え”で気にしないことにしている。
ほんの数分間で目的地に到着した私たちは、騎士様たちに手綱を預けて墓地へと足を踏み入れた。