軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊼

「ハロルド。土地の手配はどうなっておる?」

エルフ族側が受け入れたと判断したらしいハインズお爺様がお父様へ目を向けた。

例の地上げの件かな?

「兵舎と食料庫の北側に有る倉庫といくつかの古い民家を移転させようと考えている」

「ふむ。あの辺りか」

おっ。本当にお隣さんだ。

納得顔でハインズお爺様が頷く。

レイクスさんとケイナちゃんには何の話かが伝わったみたいだけど、他の人たちには伝わらない。

族長さんの視線もお父様に向いて、小さく首を傾げている。

「土地ですか?」

「レイクス殿とお約束していた件です。領主館の一角に見えれば目立たないでしょう。兵が近くに居れば手出しも難しい」

なるほど。それで兵舎の隣なのか。

族長さんだけでなく、何の話かを理解したエルフ族側の皆さんが目を丸くしている。

「我らのために用立てていただけるとのお約束を、もう進めていただいておるのですな」

「エルフ族との共存は王国にとっても一大事です。何者にも邪魔はさせません」

おお。カッコイイ。

お仕事モードのお父様が自信に満ちた笑みを浮かべる。

「ご迷惑をお掛けしますな」

「なんの。ただ、我らは南部国境の護りを預かる立場ゆえ、このレティアにおいても、あちこちから間諜が送り込まれていおります。いくらかは息苦しい思いをされるかと」

申し訳なさそうな族長さんにハインズお爺様が首を振った。

ただ、懸念している内容は不穏だね。

族長さんの表情も曇る。

「間諜ですか」

「元々、この地は要衝で在るため我らの動向には内外からの目を集めやすかったのですが、近頃は以前にも増して注視されています」

「近頃は、と申されますと?」

族長さんと同時に私の首も傾ぐ。

真後ろに立っている私の位置からは表情が見えないけど、ルナリアの金髪頭も傾いている。

「我が孫たちです。我らも頭を悩ませておるのですが、少しばかり目立っておりましてな。陰に陽に名が挙がっていることで間諜の数も増えております」

うわー・・・。私たちが原因かぁ。

心当たりが有り過ぎる。

具体的な間諜の数を把握しているんだ? 驚く部分も有るけど、サーシャさんたちだって宰相さんが送り込んできた間諜だし、そうだろうな、と納得する部分も有る。

「近くに居るだけで我らにも間諜の目が向くのですな」

「前を往く者が人目を集めるのは宿命のようなものですからな」

納得顔の族長さんにハインズお爺様がフォローを入れてくれて、お父様もお爺様に続いた。

「とはいえ、近くに居る方が安全でも有りましょう」

「立場を思えば、致し方なきことですな」

族長さんが深く頷く。

さっき、お爺様が言った「息苦しい思い」というのは、間諜の目だけでなく、警戒態勢を敷くのであろう領軍の目も、かなぁ。

領軍は味方だと分かっていても、常に人目に晒されている環境は息が詰まることも有るだろうしね。

お父様がフッと表情を緩める。

「いつの日か、誰の目を憚ることもなく暮らせる未来を共に目指しましょう」

「未来ですか・・・。レティア殿もよく口にされていた言葉です」

族長さんが懐かしそうに目を細めて、ハインズお爺様が首を傾げる。

「ほう。始祖レティアが?」

「力を合わせよと力尽くで説得―――、いや。説教されて、勇者朽木ともどもシュミド殿―――、ドヴァールグ王との友誼を結んだのですよ」

へぇ。レティア様が勇者とエルフ族とドワーフ族を繋いだのか。

お母様と似た行動様式の人だったとするなら、相手方に乗り込んでいったのかな?

やりそうだ、と思ったのは私だけではなかったようで、お父様が後ろに立つお母様へ顔を振り向けた。

「力尽くで説得・・・」

「何だ?」

「いや。何でもない」

お母様にジロッと睨み返されたお父様が前を向き、お父様とお母様の様子に、族長さんが微笑ましそうに目を細める。

「当時、バラバラに戦っていた人類軍を糾合し、組織的に纏められたのがレティア殿なのですよ。あの方がいなければ人類は結束もままならず、魔族どもに蹂躙されておったやも知れませぬ」

おお。エルフ族とドワーフ族だけでなく、人類側を丸ごと?

そんなわけないだろ、なんて思わないな。

“遠交近攻”という言葉が有るように、直接の利害関係が生じる近隣諸国同士よりも、直接の利害関係がない遠方にある国の方が受け入れやすいのは想像が付く。

利害が衝突するからバラバラに戦っていたのだろうし、利害関係の外側にいて、さらには軍事に長けたレティア様が人類側の体たらくにブチ切れるという構図は有り得るんじゃないかな。

お母様に似た人なら、間違いなく激怒しただろう。

「そんなことが? 我らにも伝わっておりませぬが」

「レティア殿らしいですな。あの方は己の手柄を誇る方では有りませなんだゆえ」

ハインズお爺様が目を瞠り、故人を偲んで族長さんが寂しそうに笑う。

「多くを語られる方ではなかったとは伝わっておりますからな。大戦の様子に関する多くは歴史書に書かれたものが伝わっているだけで、レティア卿自身は否定も肯定もされなかったと聞いております」

ははぁ。政治的なあれやこれやが有ったのかな?

レティア様はリテルダニア王家の庶子で政治的立場は弱かっただろうし、ご家族との関係は良かったらしいけど王宮貴族たちとは険悪だったみたいだしね。

ご自身が目立ちすぎると王位の継承にも影響が出て、ご家族に迷惑が掛かると考えたのかも。

それなら、王城からも西方諸国からも遠く離れた南部国境に貼り付いて王都へ戻らなかったこととも整合性が取れる。

だって、確かにこのレティアの地は要衝だけど、王宮と揉めてまで王女自身が防衛任務に就く必要はないもの。

婚姻外交の道具にされることを嫌った、という話は聞いたけど、それだけでは根拠が弱い気がしていたんだよね。

族長さんの目がお母様へ向く。