作品タイトル不明
盟約 ㊹
「んん?」
目を瞠っているケイナちゃんのお爺様に視線に気付いたお母様が首を傾げる。
そんなお爺様の袖をケイナちゃんがクイクイと引く。
「お祖父さま、お祖父さま。こちらへ」
「おお。済まぬな」
再起動したお爺様がケイナちゃんに手を引かれて、先に立っているレイクスさんの傍へ追い付いた。
レイクスさんの正面に居並んでいるのはウォーレス家の面々だ。
「閣下。紹介いたします。こちらが僕らの祖父です」
ハインズお爺様に向き合ったレイクスさんが自身の祖父を手のひらで示す。
孫から紹介されたお爺様が気恥ずかしそうに頭を下げた。
「いや。失礼。そちらのご婦人が、あまりにも知人に似て居られたもので。私はケルレイオス・アダレーと申す者。我が孫たちがお世話になっております」
「初めてご尊顔を拝します。我らは始祖レティア・ウォーレスの血に連なる者。私は血族の長を務めるハインズ・ウォーレスにございます」
いかに他国の元王族が相手でも、リテルダニア王国に属する貴族が膝を屈したりはしない。
それでも敬意は有る。
武人らしい所作で30度に腰を折る。
最敬礼で接するハインズお爺様の挨拶を受けた老王が頼もしそうに目を細めて唸る。
「その覇気。確かにレティア殿の血を感じずには居られません」
「おお。これは有り難きお言葉。幾千幾万の言葉を重ねられるよりも嬉しきものです」
「レティア殿は良き子孫を持たれましたな」
老王とハインズお爺様が完爾と笑い合う。
空気を読んだ絶妙のタイミングでお父様も最敬礼で腰を折った。
「私はハインズが一子、ハロルド。大陸史に残る“賢王”ケルレイオス陛下のご来訪を心より歓迎いたします」
「“愚王”にございますよ。それに、今の私は“陛下”などと呼ばれる者ではございません」
国を失って王でも貴族でもなくなった以上、公の立場では、元王族も平民でしかない。
困ったように首を振る老王に否定されてもお父様は退かない。
「これは失礼を。では、“閣下”と呼ばせていただきます。“族長閣下”?」
「参りましたな。降参するしか無いようです」
老王とお父様も表情を緩めて笑い合う。
お爺様が受け入れたということは、私たちも“族長”さんと呼ぶべきかな?
穏やかな笑顔のまま族長さんが腰を折る。
「ルナリア嬢のご尊父ですな。ご息女には我が孫ケイナが仲良くしていただいておるそうで、心より感謝いたします」
「何を仰られますか。ピュリケイナ嬢には娘たちも多くを学ばせていただいております」
「そう言っていただけると有り難い。―――して。こちらのご婦人は?」
お父様との子供推し合戦で引き分けた族長さんの目がお母様へと移った。
「血族が1人、傍系のフレイアです」
「拝謁の栄誉に浴します。私はフレイア・ピーシス。“フィオレの母”と申し上げた方が早いでしょうか」
お父様からの紹介でお母様もキッチリと腰を折る。
いつもの男言葉じゃない辺りに、お母様が抱いている尊敬の念が表れている。
お母様から挨拶を受けた族長さんが感心顔で深く頷く。
「やはり貴女がフレイア殿でしたか」
「“やはり”と申されますと?」
お母様の首が傾いだ。
そりゃあ、初対面で知られていたら不思議に思うよね。
だって、相手は数百年間も世俗との関係を断っていた人だもの。
サーレーンさんたちからどこまでの報告を受けているのかは分からないけど、「やはり」にはならない。
私の方も伝令に走ってくれた兵士さんに詳細を伝えられれば良かったんだけど、まだウォーレス領内でもエルフ族の存在は公表されていないからね。
私が伝令をお願いしたメッセージは「待ち人来たる」の短文だけだった。
族長さんが何と言っていたかを伝言内容に含めるわけには行かなかったんだよ。
「我が友、レティア姫の生まれ変わりと評される人物がおられると耳にしましてな」
「ほう?」
族長さんが明かした情報に、お母様がテツさんに目を向ける。
きっと、1次ソースはテツさんだろう。
情報の伝達不足を咎めるようなお母様の目に、テツさんがバツの悪そうな表情になる。
「あー・・・。うちの連中が内戦のときにあちこちで噂を集めてきてな。その中の1つに、そういうのが有ったんだ」
なるほど。クァタルさんたちが情報源か。
私のことも“獰猛くん”のことも情報を拾ってきたのはクァタルさんたちだったね。
テツさんはケイナちゃんたちと別行動を取るわけには行かなかっただろうし、テツさんはこっちの世界に来て日が浅い。
ケイナちゃんたちは森から出てきたばかりだし、身バレの可能性が有るから赤の他人とは接点を持ちづらい。
ドワーフ族が珍しいとは言え、自由に動けて情報収集が出来たのはクァタルさんたちしかいない。
お母様も納得したのか族長さんに目を向け直した。
「私などが始祖レティアの生まれ変わりなど、烏滸がましいと思っているのですが」
「いやいや。しかし、これは驚きましたな。そういった噂が有ると聞いてはいたのですが、これほどまでに似ておられるとは思っておりませなんだ」
お母様の謙遜に族長さんが首を振り、お母様だけでなくウォーレス家の面々が揃って目を丸くする。
先祖返りかな?
お母様とレティア様が“似ている”というのは、中身だけではなかったらしい。
「それほどまでですか」
「ええ。まるで生き写しです。―――出来れば、友の墓前を訪いたいと願っておるのですが、可能でしょうか?」
族長さんの申し出にお父様もハインズお爺様も表情を柔らかくする。
「後ほどご案内しましょう。始祖レティアも喜ばれることかと」
「どうでしょうな。叱られるやも知れません」
族長さんが苦笑する。
あ~。何か分かる気がする。
チラリとお母様へ目を向けたハインズお爺様も苦笑する。
「それほどまでに始祖レティアがフレイアと似ておられたのであれば、烈火のごとく怒り出すやも知れませぬな」
「やはり、よく似ておられるようだ」
故人を知る族長さんの感想に、出汁にされたお母様以外から笑い声が上がった。
気恥ずかしそうなお母様がお父様の脇腹を肘で小突く。
「いつまでも立ち話も有るまい? さっさとご案内しろ」
「そうだな。―――閣下。こちらへ」
「痛み入ります」
お父様に誘われた族長さんたちが領主館の入口へと向かう。
族長さんたちが通されたのは、テレサの謁見やエターナさんたちとの面談でも使った応接室だった。