軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊺

「一通りの報告は孫たちより聞いております。友の名を冠したこの町で我らを受け入れていただけると」

「いかにも。始祖レティアなれば、そうしたで有りましょう。そして、その思いは我らも同じです」

席に着いた族長さんの言葉に、向かい合う席に着いたハインズお爺様が堂々と頷く。

集団交渉用に用いられる長テーブルに着いているのは、エルフ族側が族長さんと孫兄妹の3人で、ウォーレス家側はハインズお爺様とセリーナお婆様とお父様、そしてルナリアの4人だ。

要するに、双方を代表する主家の面々だけで、エルフ族側の護衛さんたちもピーシス家を含めた従家の面々も、双方の後ろに居並んで控えている。

そりゃまあ、両サイドの代表者交渉だからね。

お母様も私も今日は見守り役だよ。

マイクやスピーカーもないし、テーブルの端の席だと「聞こえない!」とかなりそうだし、コンパクトに折り畳んだ方がみんなに聞こえて効率的だよね。

「改めてお訊きいたしますが、我らが負担にはなりませぬかな?」

「なに、朋友から同胞に変わるだけのこと。見殺しにするような真似は父祖たちが許しませぬ。お聞き及びと存じますが、このことは王家も承知しております」

族長さんの心配顔にもハインズお爺様はビクとも揺るがない。

それでも族長さんの憂い顔は深まる。

「しかし、奴らは未だ我らを探しておりましょう」

「なんの。同胞を狙う奴らが攻めてくるなら討ち滅ぼすまでのこと」

ハインズお爺様が獰猛に笑う。

ウォーレス領側は後列に並んでいる面々まで全員が頷いている。

族長さんのいう「奴ら」とは神教会勢力のことだ。

いつかは攻め入ってくるだろうことは認識が共有されているし、敵が何者だろうが一歩も退かないのがウォーレス血族だからね。

席に着いているハインズお爺様たちだけでなく、後ろに控えている私たちまで見回した族長さんは、決意の籠もった目をハインズお爺様に戻した。

「そのときは我らも共に武器を取りましょう」

「父祖たちも安堵することでしょう」

安堵の息を吐いたハインズお爺様と対照的に、族長さんは憂いの籠もった息を吐く。

「ただ、我らの一部は性急な移住に反対しておりましてな」

「森に残られると?」

当然のことながら、ハインズお爺様の表情も曇る。

やっぱり、そうなったか。

「そう申しております。全体の3分の2は森を出ることを希望しておるのですが、残りの者たちはヒト族への恐れが強く・・・」

「ううむ・・・。3分の1ということは30人ばかりですか? それは困りましたな。身を守ることも簡単ではありますまい」

ハインズお爺様は深刻そうな声で唸っているけど、私はそうでもないと感じている。

住民30人って、まさに限界集落だけど、小単位コミュニティとしては何とか社会性を維持できる人数じゃないかな。

具体的には労働面と防衛面の両方で。

死霊無線機が現実のものとなりつつ有る今、何とかなると思う。

「・・・ハインズお爺様。発言をお許しいただけますか?」

「何か案が有るのか?」

「・・・はい」

発言の機会を求めた私の顔を返り見たハインズお爺様が、族長さんへと視線を戻す。

「閣下。よろしいですか?」

「答えが出ぬまま唸っていても意味は有りますまい。妙案が有るなら、ぜひとも聞かせていただきたい」

族長さんの同意を得たハインズお爺様の視線が私へ戻ってくる。

「ヨシ。聞かせてくれ」

イエッサー、ボス。

私の身長では顔しか見えていないと思うけど、私の位置からでも族長さんのお顔は見える。

私に向けられる族長さんの目を、私も真っ直ぐに見返す。

「・・・移住を拒否される方は、そのまま集落に住んでいただいて構わないと思います。町へ移住しても馴染めない方が出る可能性も有ります。その方々も孤立させるわけには行きませんので、レティアの町との間を行き来できる環境を整えてはいかがでしょうか」

聞き覚えが有る話にハインズお爺様が片眉を上げた。

「街道を引くと?」

「・・・それと、集落の防衛強化ですね。」

私が新たな街道の建設を想定していたのは塩湖の確保を考えてのことだったけど、前提条件が変わった。

最優先は中継地点となる採掘場とエルフ族の集落を結ぶ直線道路だ。

採掘場には常駐戦力が有って、直線道路とすることで緊急時の移動時間が短縮できる。

集落が死霊無線機で救援要請を出せば、1~2時間程度で救援部隊が集落へ到着するんだよ。

集落の住民は救援が来るまでの1~2時間だけ耐え凌げば良い。

その1~2時間を稼ぐための拠点防衛設備が整っていれば、30人しか居ない戦力でも生き残れる可能性は高い。

為政者の顔で族長さんが思案する。

「ふむ・・・。郷へ戻る道も残すのですな?」

「・・・逃げ場は必要ですよ?」

「逃げ場、ですか」

新天地での生活を始めるときに、誰だって不安を覚えるのは新天地に馴染めるかどうかだろう。

就職だって同じ。

馴染めなければ精神的に追い込まれる。

逃げ場が有るだけでも耐えられるものじゃないの?

日本で自殺報道を目にする度に、さっさと逃げれば良いのにと、いつも思っていた。

いざとなったら、追い込まれて自殺するほど精神を病むより前に、「こんなところにいられるか」と脱出すれば良い。

そうやって町から集落へ戻っても、糧を得る仕事も一緒に作ってしまえば生活は成り立つ。