作品タイトル不明
盟約 ㊷
「・・・盟友、ですか」
「レティア姫ですよ。彼女の生まれ変わりと呼ばれておられる方がいらっしゃると報告を受けましてな」
「・・・ああ。あの評判ですか。私のお母様のことですね」
そういえば、“レティア卿の再来”というのは、ウォーレス領でお母様を褒め称えるときに聞くフレーズだ。
レティア卿の逸話を聞く度に、いつもお母様の顔がチラ付くのは私も同じだったしね。
科学技術がまだまだ発展途上なこっちの世界では、画像や映像を後世に残す手段が肖像画しかないから、レティア卿の実像は残っていないらしい。
いや。肖像画を描くための技術は存在したんだと思うよ?
それは、技術的に、というよりも、質実剛健でドレスを着ることも無かったというレティア卿の性格による部分が大きいと思うのだけれど、偉大な祖先の実像を知ることが出来ないウォーレス血統にとっては、とても残念なことだろう。
日本の戦国武将だって、ぜんぜん違う姿絵が複数有って、どれが本物の実像かは定かじゃなかったものね。
明治維新の中心人物だった幕末の偉人でさえ、有名な肖像画や銅像と実像がぜんぜん違う! なんてことが有るくらいだし、レティア卿の肖像画が残っていなくても何の不思議もない。
レティア卿の実像を知る人がご存命なのだから、あの評価が正しいものなのかどうかの答えが出るよ。
お爺様の目が私へ向く。
「こちらに居られるのでしょうか?」
「・・・レティアの町に居ますよ。戦の準備で今日は来ていません」
事実のままに答えれば、お爺様だけでなく、護衛さんたちも顔色を変えた。
「戦の?」
「・・・はい。ここ1~2週間ほどでカリーク公王国が攻めてくると思いますので、お母様たちは、そちらの準備をしています」
戦争を舐めているわけじゃないけど、私に危機感はあんまり無いんだよね。
前回は内戦中でお母様たちが留守だったけど、今回は違う。
お母様とお父様が居て、ハインズお爺様たちも居る。
そりゃあ、私も前線に立つことになっているけど、心強さがぜんぜん違う。
この心強さは伝わらなかったようで、首を傾げられた。
「戦の前なのに、農地を拓いておられたのですか?」
「・・・いつものことですから。そんなことよりも、国力を引き上げるために新たな農作物を研究する方が重要です」
ほんと、ふざけてるよね。
他人が得たものを妬んで羨んで奪い取ろうと画策するヒマが有るなら、自分たちも発展できるように足掻いて学んで努力しろっての。
戦争が技術を発達させる一面は確かに有るから全否定するつもりはないけどさ、農作物の改良1つを取ったって時間も手間もおカネも掛かるんだよ。
私たちの邪魔はさせない。
私の答えに、護衛さんたちは呆気に取られた顔で私を見ていて、お爺様は苦笑している。
「侵略戦争を“そんなこと”のひと言で済ませてしまわれるとは、やはり、レティア姫の末裔ですな」
「・・・私自身はレティア卿の血統ではないのですが、そうですね。始祖レティア卿の覚悟と決意を受け継いでいるのがウォーレス血統です」
「そうですか。それは嬉しいことです」
お爺様はその言葉通り嬉しそうに目を細めた。
そこへ遠くから甲高い呼び声が届く。
「お祖父さま!」
おっと。ケイナちゃんだ。
城門から飛びだして来たケイナちゃんがタレースさんを引き連れて駆けてくる。
ネイアさんとオーリアちゃんもケイナちゃんたちを追い掛けてきているところを見ると、ネイアさんたちがお爺様たちの到着を報せてくれたみたいだね。
駆け寄ってきたケイナちゃんの体当たりをお爺様が抱き留める。
「おお。ケイナよ。元気そうで何よりじゃ」
「はい!」
「・・・ん? んん? “じゃ”?」
輝くような笑顔でケイナちゃんが答えていて、今の今までシャンとしていたお爺様の目尻が下がっている。
可愛い孫にデレる姿はルナリアを前にしたお父様と同種のものだから、そこは良いんだけど、口調から変わっちゃってるよ。
「すごく到着が早かったのですね! 驚きました!」
「お前の顔も見たくてのぅ」
ははぁ。“伝説の王様”も孫娘の前ではデレデレか。
テツさんの件で追放だの何だのと色々有ってシャキッとしていたけど、こっちの姿が普段のお爺様なんだね。
そもそもが、レイクスさんたちは集落を付け狙う魔獣のせいで足りなくなった薬の材料を採りに出て、バンダースナッチの群れに襲われたそうなんだよ。
ケイナちゃんはレイクスさんたちの採取に同行して巻き込まれた。
てことは、レイクスさんが採取に出る前から緊急事態は始まっていて、お爺様もシャキッとするしかなかったんだろう。
そのお爺様がデレデレ出来る状況になったってことは、ひと山超えたと思って良いのかな?
危機的状況を脱したから、未来に目を向けられる心の余裕が出来たのだろうと受け止めよう。
「採掘場の中に兄様も居られますよ!」
「そうかそうか」
手を引くケイナちゃんにお爺様は相好を崩しっぱなしだよ。
これだけでもテツさんとケイナちゃんが頑張った価値は有ったのだろうね。
「・・・採掘場へ入りましょうか。そろそろお昼ですし、昼食にしましょう」
「ご厚意に甘えさせていただきます」
ケイナちゃんに手を引かれているお爺様が快諾してくださった。
日常モードのケイナちゃんの姿も新鮮だし、私も安心したらお腹がすいてきちゃったな。
お昼を摂って、出荷と回収が終わったのを確認したら、レティアの町へ戻ろう。
予想よりもかなり早い到着だから、みんな驚くだろうけど、良い形でまとまるんじゃないだろうか。
そんな予感がする。
芽を出したオリーブもお爺様に見て貰おうかな。
エルフ族の国でも栽培していたらしいし、異世界オリーブの見識もお爺様は持っているかも知れない。
これは、みんなが明るい未来を掴み取るための第一歩。
私が守るべき大切なものの1つだ。