軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊶

「ほう」

森の中にポッカリと空いた空の広さと陽光の眩しさに、お爺様は目を細めている。

それは護衛の10人も同じで、呆気に取られた表情で出来上がったばかりの農地を見渡している。

「あそこに居るのは、フィティオスとアルケマイオスか?」

「あれらは、なぜ木など伐っている?」

「・・・お2人は術式の訓練中です」

護衛の人たちの声に咎めるような色を感じたから、2人を擁護しておく。

“お前は何を言っているんだ?”と言わんばかりの怪訝な視線が私に集中する。

「術式の? まさか、術式で木を伐っているのですか?」

「・・・そうですよ。武器を失ったときにでも使える術式なので、護衛の任に就くお2人には有用かと考えまして」

ザワッとざわめいた護衛さんたちの目がフィティオスさんたちに戻った。

お爺様の関心は別の部分に向かっていたようで、お爺様の目は私に向いたままだ。

「この伐採は、いつから始められたものなのでしょうか?」

「・・・今朝からです」

護衛さんたちの関心が私に戻って来た。

「今朝から!?」

「これほどの広さを僅か半日で!?」

大袈裟に反応する護衛さんたちと違って、お爺様だけは落ち着いて感心している。

さすが、年の功だよ。

「“魔の森”の硬い木々を、それほどの早さで切り拓くとは」

「・・・そこまで硬くはないですよ?」

これ、みんな言うよね。

私の反論に首を傾げたお爺様が、さらに反論してくる。

「決して、そんなことはないと思うのですが」

「・・・いえいえ。本当に。滑って刃が入りにくい甲冑に較べれば柔らかなものですから」

金属―――、鉄を主成分とした合金で作られている甲冑と違って、森の木は植物繊維と細胞壁の塊だからね。

原子レベルの金属結合で組成された甲冑に較べて、木の組織には、叩きつけ付けられた研磨剤が噛み込みやすいんじゃないかと推測している。

問題は私が科学の人ではなく、単なる狩猟民だということだ。

理屈から想像しているだけで、実際に木が伐れているメカニズムを解明したわけじゃない。

私にとって重要なのは切断に至るメカニズムではなく、木が伐れるという結果で、それ以外の私の脳は「お肉」で占められている。

やはりお肉。お肉は全てを解決する。

お爺様もお肉では解決されなかった1人のようで、護衛さんたちと同じように首を傾げていた。

「甲冑というと、あの甲冑ですか? 彼―――? 彼女らが着ておられるような?」

「・・・はい。試し斬りに使ったのはカリーク公王国軍の一般的なものだったそうですが、一応は斬れますよ」

事実を事実のまま伝えれば、護衛さんたちが響めく。

「まさか。金属甲冑ではないのか?」

「魔法術式では甲冑など斬れぬぞ」

「しかし、あれは風術式に見えるぞ。風・・・だよな?」

「・・・ええ。普通の風術式ですよ」

過大評価でおかしな誤解を招かないように憶測を追認して、誤解の余地をなくしておく。

風ジェットカッターは私が手にした最初の武器で、特別なことはしていない。

「普通の風術式で“魔の森”の木々など斬れるわけが」

「・・・違いが有るとすれば、道具の違い、というか、術式の―――、いいえ。概念の違いは有るかも知れませんね」

とは言ったものの、私の首が傾ぐ。

あれ? 概念? 方法論かも。

風魔法では有るけど、風で斬ろうとはしていないからね。

風は研磨剤を運ぶためのもので、実際に斬っているのは研磨剤なのだろうし。

説明に修正を入れるべきかと悩んでいたら、修正を加える前にお爺様が踏み込んできた。

「ふむ? 概念ですか」

「・・・ご自身の目で確かめられた方が早いでしょう。お見せしましょうか?」

「拝見させていただきます」

説明を素っ飛ばして実演を提案すれば、お爺様のGOサインが出た。

別に説明が面倒になったわけじゃないよ?

私の中で答えが出なかった部分が有るだけで。

だから、自分の目で確かめて、自分の中で理解を深めて貰った方が早い。

「・・・では、枝払いでもお見せしますね」

索敵に使っている2本以外の魔力の手をブワッと伸ばす。

実演に使う木を支えるのに2本。

風ジェットカッターの発動は8本の“手”だ。

残りの2本は万が一に備えて防御術式用として残しておく。

8つの風が渦を巻いて回転刃になる。

シュガガガ―――ッ!! と地面に押し付ければ、研磨剤となる腐葉土を取り込んだ回転刃が薄茶色に染まった。

「それは、何をされておられるので?」

「・・・研磨材を取り込んで居るのです」

エルフ族でも風ジェットカッターの擦過音は聞き覚えがないもののようで、特に護衛さんたちが目を白黒させている。

「研磨? 研磨というのは、擦り落とす研磨ですか?」

「・・・その研磨です。いわば、小さな刃になるものですね」

「ほほう」

魔法道具という科学寄りの技術を持つ人たちだけ有って理解が早い。

実演を見て貰うことにしたのは正解だったみたいだね。

「・・・始めますよ~」

宣言と同時に2本の“手”で横たわっている大木を掴み上げて、8つのカッターで一気に枝葉を落とす。

フルスペックで取り掛かれば、普通は10分間ぐらい掛かる枝払いも早い早い。

飛び散って舞い上がった木屑と一緒に切り払われた枝葉が雨のように降ってくる。

「「「「「おおお~!!」」」」」

護衛さんたちの間から大きな響めきが上がる。

私は風ジェットカッターによる枝払い業界の 先駆者(パイオニア) で 専門家(エキスパート) だからね。

あっという間に丸太材へと姿を変えた大木に護衛さんたちが気を取られているうちに、意外なほど近い距離から声が掛かった。

「 長(おさ) !」

駆け寄ってきているのはフィティオスさんとアルケマイオスさんだ。

一瞬、身構え掛けた護衛さんたちも同胞の姿に警戒を緩める。

「フィティオス! アルケマイオス!」

「皆も、お早いご到着ですね!」

「早くとも、明日、明後日のご到着になるものと思っておりました!」

だよね。数日中の到着予定と聞いていたから私も驚いたんだよ。

「ご苦労。盟友の生まれ変わりが居られると聞いては、居ても立っても居られずな」

お爺様が照れくさそうに苦笑を返している。

んん? 生まれ変わり?

そんなことよりも、それ、誰のこと?